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インタビュー

「"ずる賢く"考えられるストライカーを育てたい」手塚貴子(U-20日本女子代表コーチ/2011アジア最優秀女子コーチ)

公開:2012年4月18日 更新:2023年6月30日

キーワード:なでしこコーチ指導者育成

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昨年アジアサッカー連盟からアジア最優秀女子コーチという名誉を受賞したU-20日本女子代表コーチの手塚貴子さん。日本代表のストライカーとして活躍し、現在は未来のなでしこジャパンを育てる手塚さんに伺ったインタビュー後編をお届けします。
 
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■常に考え工夫していたベレーザ時代

――手塚さんは中学生になると読売ベレーザ(現日テレベレーザ)に入団するわけですが、サッカーで選ばれた選手たちが集まる環境ですよね。小学生時代の遊びの中で得た「自分で考える力」はレベルの高いベレーザでも役に立つことはあったのでしょうか。
 
そうですね。ベレーザに行ったらもっと考えないといけない状況になったんです。当時は今のように中学生はメニーナというように別れていなくて、チームの中に社会人もいました。ベレーザは大人のサッカーをやっていて、大人にはスピードでも身体でも劣るからとにかく考えて工夫しないと勝てないんです。それでも負けるのは絶対に嫌だったから必死に考えました。パスが来たらそれを返すというレベルではなくて、自分がフリーでボールをもらためにはどうすればいいか、とか。どう相手の裏をとるか、とか。そういう事を常に考えて練習していましたね。
 
――現役時代はベレーザのリーグ優勝に何度も貢献して、代表でも華々しく活躍されていますが、その間にも挫折はあったのでしょうか?
 
もちろんありましたよ。試合に出られない悔しさだったり、あとはケガだったり。中学三年生のとき初めて代表に選ばれてそれから長年プレーするんですけど、最初のうち代表ではなかなか試合に出られませんでした。なんで試合に出られないんだろう? という葛藤やモヤモヤはずっとありましたね。でも基本的にくよくよしないタイプなので、悔しい思いは内に秘めて、いつかは見ていろよ、という感じで(笑)。代表に招集されたら試合以外のトレーニングでいかに自分の良さを出せるか、それしかないんです。試合に出たければそこでいいプレーをしなければいけない。もちろん自分のチームに戻ったらひたすら結果を残していく。それしかないので。
 
――とにかく集中してやるわけですね。
 
同じポジションにライバルがいますよね。その選手に絶対に負けない! と胸に秘めつつ、一つひとつのシュートを確実に決めること、それを見せるしかないんです。それをコツコツとやる。あとはタイミングをみて監督に「自分は何が足りないんですか?」と聞くこともしました。それで、ああ、監督はそういうことを思っていたのか、と納得できますからね。
 
――ちょっと疑問や納得いかないときはその場で解決すると。
 
小さい頃はそんな度胸はなかったですけどね。だんだん年をとるにつれて度胸が出てきましたね(笑)
 
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■“ずる賢さ”は遊びや生活の中での積み重ね

――今はなでしこジャパンに憧れてサッカーを始める女の子もたくさんいると思うのですが、かつての手塚さんのように、今で言えば川澄奈穂美選手(INAC神戸レオネッサ)のように、今後ストライカーになりたいと思う子もいると思うんです。ストライカーというのは気持ちの持ちようはどうあればいいのでしょう。
 
常においしいところを狙う! 常に鼻を利かせる! ですね(笑)。“鼻を利かせる”という表現は子どもには難しいのかなあ…。とにかくストライカーは“ずる賢く”プレーしてほしいんです。人と違うことをする、と言うと語弊があるかもしれないですけど、結局はディフェンダーとの騙し合いです。相手の逆をとるとか、裏をとるとか。そこには絶対にずる賢さが必要。真面目じゃダメなんです。いや、もちろん私も根は真面目ですよ(笑)。根は真面目なんだけど、ピッチに立ったら常にずるいこと、相手の嫌なことを考えられる選手には指導者としても期待してしまいますね。特にストライカーはそう。それがないと、良いところでボールをもらったり、相手を振り切ってボールをもらったりできないと思いますから。
 
――つまり手塚さんは“ずる賢く”考えられる選手だったと。
 
それをトレーニングで養ったというより、自然に出来ていたかもしれない。今も指導の現場で、ずる賢く相手と駆け引きをする、ということを常に言っているんだけど、「実際それをトレーニングに落とし込んで身につけさせるのは、なかなか難しいよね」とコーチたちとも話をしているんです。去年も今年もそれを指導する側のテーマとしてやってきているんです。でも、ずる賢くプレーする、と言っても色々な要素がありますからね。鬼ごっこひとつでも“ずる賢い”という要素は入っている。小学生年代なら遊びや日頃の生活の中で積み重なるものが多いんじゃないなかと思うんです。考えてみたら私も小学生のときは“考えるトレーニング”といようなものはあまりしていないんですよ。サッカーのトレーニングとは違う局面、遊びや日頃の生活の中で養われることも多いんじゃないかなと思うんですよね。
 
――今振り返ってみて、手塚さん自身の幼少期は何が良かったと思いますか?
 
うーん、いろいろやったこと……ですかねえ。もう本当に、いろいろですよ。隠れんぼとか、鬼ごっことか、アスレチックをやって高い所から飛び降りたりとか(笑)。そうやって子どもだけで協力して遊んだ経験はすごく大きいんですよねえ。今は外で遊ぶ経験そのものが少なくなっている影響があるのかもしれない。だからU-20代表でもウォーミングアップに鬼ごっこを取り入れてやってみるんですけど、私からすればね、もうみんな下手ですよ(笑)。もうまったく周りを見ていないんです! 先のことを考えていないし、味方を助けてあげようという気持ちも足りないんですよねえ。あまり小さい頃に遊んでいないのかなあとか思いますね。
 
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■小学生年代はいろいろな刺激を与えた方がいい

――そういう意味でいうと、小学生のうちにこんな練習したほうがいい、というのはありますか。この辺りは重視すべきというものは?
 
これ、というのは無いと思いますが、いろんな刺激を与えた方がいいんです。ドリブルだったり、ボールの受け方だったり、そういう基本を学ぶことももちろん大切です。でも型に捉われないでいろいろな動き方が出来た方がいいですよね。色んなことにトライしてほしい。ときには難しいボレーシュートにトライしたり、リフティングからシュートしてみたり。指導者も子どもの刺激になるものを与えたほうがいいと思うんです。
 
特に女子は空間認知ができない子どもが多いので。女子は最初、普通にボールを蹴ることができないし、浮いているボールもなかなか処理することができないんです。でも、それも慣れることで克服できます。男子はそれを遊びの中でやっているからできるし、男子と一緒に遊んでいる女子も自然とできるようになります。でも、たとえば、女子だけのチームで、危険なことはやらせない、という感じでサッカーをやっている環境だとなかなかできるようにならないから、すごくもったいないですね。
 
私が指導の現場で感じるのは、女子はヘディングの技術が足りないということ。サッカーを始めたばかりの小学生のうちは、あまりヘディングをやっていないんじゃないかなと思うんです。ただ、だからと言ってヘディングをたくさんやってください、ということではなくて、まずはヘディングを嫌がらないことが重要なんです。ボールが頭に来たらヘディング、胸に来たら胸、太ももに来たらそこで処理をする。それが自然に出来るようにしないといけないんです。
 
――今はU-20代表の指導に携わっておられますが、今後どういう選手を育てていきたいという思いはありますか。
 
今私が見ているのはU-20年代なので、次世代のなでしこジャパンを背負って立つ選手たちです。だから、まだまだいいや、ではなくて、日本を背負っていくという強い気持ちでトレーニングに取り組んでほしいですね。気持ち次第で日頃のトレーニングが効果的にもなれば、まったく意味のないものにもなりますから。U-20代表に選ばれる選手は常に海外のチームと対戦するイメージを持ってプレーしてほしいです。
 
――やはり、ストライカー育成の思いもあるのでしょうか。
 
そうですねえ。ストライカーを育成するというより、そういう選手がどんどん出てきてほしいですよね。男子では『ストライカープロジェクト』なんかもやっていましたけれど、女子もやってもいいと思うんですよ。今でもずる賢いプレーができる選手はいますし、U-20代表でなでしこジャパンにも選出された京川舞(INAC神戸レオネッサ)はできますね。でもこれからを考えるとまだまだ少ない。だからこそ、トレーニングに落とし込まないといけないんですけど、でもそれってU-20年代から取り組んでも遅いから、しっかりと小学生年代からやっていかないといけないし、今はそういう危機感がありますね。そこをどう整備していくか。協会としてもその話し合いを進めているところなので、今後はストライカー育成という面でも強化していければいいなと思いますね。
 
 
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手塚貴子//
てづか・たかこ
1970年11月6日生。栃木県宇都宮市出身。現役時代は読売ベレーザ(現日テレベレーザ)のストライカーとして活躍。日本女子代表としても40試合に出場して19得点。現役引退後は指導者の道に進み、女子サッカーの育成年代で尽力している。また、地元である栃木県宇都宮市に栃木SCレディースを創設し、将来のなでしこリーグ入りの道筋を作った。現在はU-20日本女子代表コーチを務める。2011年アジアサッカー連盟からアジア最優秀女子コーチを受賞。
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取材・文/鈴木康浩 写真/新井賢一

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