2022年2月22日
視聴者の指導に関する質問に直接回答!大宮アルディージャU12監督によるイベントレポート【マインド編】
大宮アルディージャU-12監督としてジュニア年代の指導にあたり、2022年シーズンより、ヘッドオブコーチングに就任した金川幸司氏。COACH UNITED ACADEMYでは、金川コーチとジュニア年代の指導者による、質疑応答形式のイベントを開催した。前編に続き、後編の様子をお届けしたい。(文・鈴木智之)
(大宮アルディージャU12監督を長く務め、2022年シーズンよりヘッドオブコーチングに就任した金川幸司氏。トークイベントはオンラインで実施。)
うまくいってない時も「ポジティブな声掛け」を意識する
後編では、選手のメンタルにどうアプローチすればいいか? という質問が多く寄せられた。たとえば「選手の意識を勝ちたい方向に変えるために、どのようなトレーニングや声掛けをすればいいのでしょうか」という質問だ。
これに対し、金川コーチは「選手の様子を見ていると、本当に勝ちたいのか、勝つ気があるのかと思うことは、指導者であれば誰しもあると思います。僕自身、自分が勝ちたい気持ちが強すぎて、選手が萎縮してしまうこともありました」と話し、こう続ける。
「最近思うのが、選手が自分自身で『勝ちたい!』と思えたときが、一番力を発揮するということ。そのためには、指導者が勝ちたい気持ちを出すのではなく、選手自身が出すまで、こちらが待つ、我慢することが大切だと思います」
そのような経験を踏まえ、金川コーチは「ポジティブな声掛け」をすることを心がけているという。
「選手がうまくいってないプレーに対して、『なんでもっとできないんだ!』と声をかけたとしても、選手はあまりのってきません。これは僕自身、選手時代の経験からもそう感じています。反対に、うまくプレーできたときに、『いまのプレーよかったよ』と声をかけられることで、気持ちが前向きになっていきます」
大人の勝ちたい気持ちが出すぎると、選手は萎縮してしまう。金川コーチは「そこで、どれだけ我慢できるか。指導者として、しんどいところなのですが、僕はいつも心がけています」と実体験をもとに話してくれた。
トレーニングは技術にアプローチしながら、認知判断を鍛える
続いての質問は「私は小学3年生のコーチをしています。技術と認知判断の両方を均等にトレーニングするのが理想だと思いますが、チーム内で技術や体力レベルにばらつきがある中で、週2日のトレーニングで、どちらを優先的に鍛えるべきでしょうか?」という悩みだ。
金川コーチは「技術と認知判断を分けないことが大事」と話し、次のようにアドバイスを送る。
「『止める蹴る』という言葉がありますが、小学3年生の場合、動いているボールを止めて蹴ることは、非常に難しいことです。難易度でいうと、止まっているボールを動かすほうが簡単です。そのため、まずはドリブルで相手をどうかわすのかといったトレーニングをするのもいいと思います。相手のいる位置によって、どちらの方向に進むのか? も判断です。認知判断は、ポゼッショントレーニングの中だけで身につくものではありませんからね」
金川コーチは「技術にアプローチしながら、認知判断を鍛えることはできます」と言葉に力を込める。
「1対1のボールキープでも、認知判断を鍛えることはできます。あまり下の学年で『止める蹴る』ばかりをすると、難易度が高くてサッカーを楽しめなくなってしまうかもしれません。僕が3年生を指導するのであれば、できるだけ成功しやすい状況で、なおかつ相手を見ないと成功できない、ゴールできない設定のトレーニングを多くすると思います」
参加者は指導現場で悪戦苦闘するコーチばかりで、本質を突いた質問が多く寄せられた。充実のトークセッションの最後に、金川コーチから「勝負と育成」についての考え方が伝えられた。
「最近よく『勝負と育成は両立できるのですか?』と聞かれます。まず僕自身、勝負と育成を分けることに違和感があります。選手を育成していく上で勝利が必要で、年齢が上がったり、プロになったときに、チームを勝たせることのできる選手がいい選手です。そういう選手を育成するために、僕らはやっています」
さらに、こう続ける。
「いくら良いサッカーできていても、試合で勝てないのは、その育成自体がいいものではないというか、勝負に勝つことを前提として行われていないのだと思います。ただ、勘違いしてほしくないのは、勝負に勝つためにトレーニングをしていますが、それは決して今だけのためではなく、その選手が18歳になったときに、いい状態で迎えられるために、と考えています。その視点を持って接する指導者が増えると、日本の育成ももっともっと良くなっていくと思います」
勝負と育成は、育成年代の指導者にとって、永遠のテーマだろう。勝ち負けは大事だが、それがすべてになってはいけない。一方で育成だからといって、勝ち負けにこだわらないのも違う。その匙加減が難しいのだ。
「選手に何を教えたいのか」明確にしたプレーモデルを持つ
金川コーチは指導者のスタンスを明確にするために、プレーモデルの重要性を語る。
「僕自身、最近すごく感じるのが、目の前の試合をフィロソフィー(哲学)を持たずに戦うと、勝つためだけのコーチングになったり、選手に強くあたってしまうなど、指導者の感情が出てしまうのではないかということです。そうならないためにも、指導者自身が『選手に何を教えたいのか』を言語化することや、プレーモデルとして持っておくことが大事なのではないかと思います」
金川コーチは「指導者がそれを持っていることで、指導する上で立ち返る幹になり、外れた指導をしないための抑止力になるのではないか」と語りかける。
「そうすると、ただ勝つために、選手に要求することはなくなると思います。なぜなら、立ち返るところがあるから。勝ち負けにこだわらせることは大事ですが、指導者それぞれに志というか、『選手にこうなってほしいんだ』というものがあると、指導自体がおかしな方向へ行くことはないのではと思います」
長時間に渡り、長年の指導で得た知見をたっぷりと語ってくれた金川コーチ。参加者のみなさんも、実体験ベースの話をたくさん聞くことができて、有意義な時間になったようだった。
【講師】金川幸司/
阪南大学を卒業後、2000年に大宮アルディージャに入団。翌年、NTT西日本熊本FCへレンタル移籍。その後、オーストラリアの「パインリバース」でプレー。引退後はセレッソ大阪サッカースクールコーチをスタートに各年代のコーチを経験。2012年以降は大宮アルディージャでユースコーチ、育成コーチ、U12コーチ、U12監督を務め、2022年からはヘッドオブコーチングを務める。