親子でチャレンジ

2013年9月25日

サッカーに関わる人すべてが知っておきたい、準備したい救急手当

 子どもたちがサッカーをしていく上で、保護者や指導者には安全の確保を第一に考えて欲しいと思います。子どもたちの身体に何か異変が起こったとき、適切な対処ができるでしょうか? 救急蘇生法、応急手当は忘れていませんか? サカイク読者の皆さんも、その重要性を十分に理解しているのに「どこか人任せにしてしまっている」「ちゃんと覚えたいとは思っているけど・・・」という人も多いのではないでしょうか。
 
 
 子どもたちの安全は、指導者や保護者が一体になって考えなければいけない大切な問題です。今回は救急医療のエキスパート、東京医科大学救急医学講座兼任教授で恵泉クリニック院長を務める太田祥一先生にサッカーをする子どもたちの救急手当についてお聞きします。
 

■命にかかわることも……重大さに気づくべき

「サッカーのピッチで亡くなる選手の話を伺ったことがありますが、そのような場面を見聞きしてみなさんはどのように考えていらっしゃるのでしょうか?」
 救命救急医として数多くの命を救ってきた太田祥一先生は「スポーツ中のいのちの危険は、けっして他人事(ひとごと)ではありません」と言います。
 
「我が国のスポーツ中の突然死といえば、かなり昔の話ですがハイマン事件(※日本実業団バレーボールチーム・ダイエーに所属していたフローラ・ハイマン選手が試合中に倒れ、急性心不全で還らぬ人となった事件。トップアスリートの非業の死は国内外で大きな反響を呼んだ)が思い起こされます」
 
 ハイマン事件が起きたのは、1986年です。それ以降も、国内外を問わずにスポーツ中の突然死は起きています。欧州でも試合中のサッカー選手の突然死が報道されています。日本でも元日本代表、松田直樹選手の死が大きな驚きを持って伝えられました。今まで元気な人に予期せず突然起こる、これが突然死です。
 
 太田先生によると、救命救急の現場では「まず駆け寄る」ことが何よりも大切だといいます。“救命救急の現場“と書きましたが、これは大規模な事故や火事や地震、特殊な状況だけではありません。ある日突然、駅や学校やピッチで、あなたの目の前にその現場があらわれる可能性もあります。
 
 

■ボールが当たって心臓が止まる 心臓震盪

 子どもの突然死の原因のひとつ、心臓震盪(しんとう)をご存知でしょうか。健康な子どもがスポーツの最中に胸に衝撃を受けることで、心臓が止まってしまう病態です。
 
「たとえば野球のボールが当たることで心室細動という致命的な不整脈を誘発する可能性があります」
 突然起こる、子どもに先天的な病気があったわけでもない、となると、お子さんがサッカーをしている親御さんにとっては他人事ではありません。サッカーボールが胸に当たった衝撃でも心臓震盪が起きる可能性はあります。
 
「そんなことになったらどうしていいか……」
 戸惑う気持ちはわかりますが、まずはそういう症状を引き起こす可能性があるということを知ることが大切です。
 
「異常を感じたらとにかく駆け寄ること。救命は一秒を争います。『どうしたんだろう?』と様子を見るのではなく、とにかく駆けつけることです。そして呼びかけて意識、呼吸を確認する。早く対応すれば元通りに戻る可能性も高くなります」
 
 心臓震盪ではボールが当たって心臓が止まっても身体に酸素を含んだ血液が残っているのですぐには倒れません。野球の試合中、エラーしそうになったボールを胸で止めて、前に転がったボールを取りにいって、倒れる。こうなると、胸にボールが当たったことと、倒れたことの因果関係がわかりにくくなるので、知識がないと駆けつけるのが遅くなる可能性があります。
 
 

■AEDで救える命がある

「知識があれば倒れた時点ですぐに駆けつけられます。そしてすぐにAEDを使えば社会復帰率が高まります」
 
 近年よく見かけるようになったAED(自動体外式除細動器)は、心臓の動きが止まる心室細動から命を救うのに有効な器械です。使い方は音声ガイドに従うだけですが、AEDだけでは命は助けられません。胸骨圧迫(心臓マッサージ)や救急車を呼ぶなど、スムーズに対応できるように講習会などで一度経験しておくことをお勧めします。
 
「少なくとも指導者の方は全員この講習を受けて欲しいですね。保護者の方はもちろん、お子さんだって受けておけばより多くの人が助けられるようになるでしょう」
 
 太田先生によれば、実際に救急隊の電話指導を受けた小学校の子どもが心肺停止のお父さんに胸骨圧迫をして、命を救った事例※があるそうです。チーム単位でAED講習会に出向く、または地域のサッカーコミュニティで講習会を主催する、いつ起こるかわからない事態に備えておく、備えあれば憂いなしです。
 
 いきなり命にかかわる話で面食らっている方もいるかもしれません。実は今回のコラムでは、救命に関わるものは「荷が重いのかも」と骨折やねんざ、打ち身などから入る予定でいました。ところが、太田先生は「命にかかわることが一番大事ですべての基本です。その他は同じ手順で対応してください」とはっきりおっしゃるのです。
 
 命にかかわる重大な症状が誰にでも起こる可能性があること、適切な対処さえすれば、目の前の命を救えること、太田先生はそのことを伝えることが先決だと熱い口調で語ります。
 救急医療のエキスパートとして多数の著作をお持ちの太田先生。その著書のすべてが一次救命処置から始まっています。
 
 目の前の命を救うために。次回は現場に必要な救急のための知識、実際の行動についてお話をお聞きしていきます。
 
 
こんなとき、どうしたら?救急手当てで子どもを守る>>
 
 
東京消防庁では救急車を呼んだほうがいいのかどうか、どういった医療機関を受診すればいいのか、相談に乗ってくれる窓口を開設しています。
 
東京都消防庁救急相談センター
迷った場合は電話番号#7119をダイヤルして相談してみてください。もちろん緊急時は迷わず119をプッシュです(東京都、大阪府などで開設済み。お住まいの地域については事前にご確認ください)
 
小児救急医療電話相談窓口
また、厚労省では電話番号#8000で小児救急医療電話相談窓口を開設しています。こちらは都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医師・看護師からお子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や受診する病院等のアドバイスを受けることができます。
 
 
太田祥一//おおた・しょういち
医療法人社団親樹会恵泉クリニック院長
東京医科大学救急医学講座兼任教授
医学博士、日本体育協会公認スポーツドクター
 
1988年 東京医科大学を卒業後、杏林大学救急医学教室他を経て、2000年 東京医科大学救急医学教室助手、2006年 東京医科大学八王子医療センター救命救急センター長、2009年 東京医科大学救急医学講座教授、2013年8月には同兼任教授、医療法人社団親樹会恵泉クリニック院長に就任。救命救急のエキスパートとして命を救う啓発に務める。
 
医療法人社団親樹会 恵泉クリニック  〈機能強化型在宅療養支援診療所〉 
 
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