親子でチャレンジ
2013年9月26日
こんなとき、どうしたら?救急手当てで子どもを守る
サッカーの現場を預かる指導者の方、また付き添いでサポートにあたっている保護者の方、子どもたちのケガや突然の病気で戸惑ったことはないでしょうか?
練習中接触プレーで肩から地面に落ちた。腕を地面についた。硬いグラウンドに頭を打ち付けてしまった。ヒヤリとした、本当に大丈夫だろうか、という場面は、みなさん一度は経験があるはずです。
昨日に続き、救急医療のエキスパート、東京医科大学救急医学講座兼任教授で恵泉クリニック院長を務める太田祥一先生にサッカーをする子どもたちの救急手当についてお聞きしています。
■駆け寄り、声をかけ、確認する
「まず最初にすることは、何かあったときにすぐに駆けつけること」
太田先生は事が起こったら、子どもの状態を確認するために、すぐに大人が駆け寄ることが大切だといいます。前回ご紹介した心臓震盪(しんとう)のような重大な疾患を引き起こしている可能性もあります。接触プレーで転んだときは骨折の疑いもあります。
「骨折はレントゲンを撮らないと正確にはわからないので、あると思って対応したほうが良いでしょう」
太田先生は、意識があることを確認したら、なるべく動かさないように、特に首は動かさないほうが良いといいます。まず救急車を呼ぶことが重要ですが、救急隊が来るまでに最善を尽くすことも大切です。
「特に空中戦後の転倒など、身体に大きな力が加わった場合や首や頭のけがの場合には、声をかけることにも気を使ったほうが良いでしょう。」
子どもは「大丈夫か?」と声をかけられた方を向こうとします。その動きが、首のけがを悪化させる場合もあります。
「なるべく子どもの正面から。顔を見て近づきながら声をかけるのがいいでしょう」 基本はあくまでも駆け寄ること。これはぜひ徹底してほしいことです。
チームであれば最低限、救急箱を持っておくこと、練習施設にAEDがあるかないか、どこにあるか、最寄りの救急病院はどこか。こういった事前の準備はぜひチームを挙げて取り組んでおきたいことです。
頭を打った場合にはすぐに症状が出なくても、帰宅後に吐き気やめまい、頭痛を訴える場合も少なくありません。保護者の方がその場にいなければ、保護者への連絡を徹底する、心配ならば病院に行くなどの対策が必要です。
「ケガや病気の兆候、症状があった場合は早めの対応、そしてその後も注意深く観察することが大切です」
太田先生は然るべき処置の後も、大人がしっかりケアをしてあげることが必要だといいます。
■他人ごとではないアレルギー
「最近特に問題になっているのが、アレルギーの問題です。学校給食で食物アレルギーを起こした女児が亡くなるという痛ましい事故も起きています。これも合宿などがあるサッカーと無縁とはいえないことです」
合宿先での食事、練習後の捕食、食事を摂ることも練習のうちと言われる昨今、チームの責任で食事をする機会も増えています。アレルギーがないか、あるとすれば対処はどうするのか、保護者と離れる場合は引率の指導者、コーチとの連携も重要です。“アナフィラキシーショック”という言葉を聞いたことがあるでしょう。アレルギーによって引き起こされる重篤な病態です。ひどい場合には窒息から死に至ることもあります。このようなときには、救急車を呼ぶ、可能ならエピペンという薬を自己注射する、ことが重要です。お子さんにどういうアレルギーがあるかを知っておけば予防ができますし、起こった時の対応策を知っていれば早めに対応できます。
「すぐに対応すれば救えます」
太田先生は事前の情報の共有、準備の大切さを説きます。
「たとえ命にかかわるような症状ではなくても、ケガや病気は子どもたちの選手人生を縮める可能性があります。ケガを起こさない安全管理ももちろん大切ですが、起こってしまったことにどれだけ適切に対処できるか。それは大人の意識の問題ですし、正しい知識を少しでも身につけておくことが子どもたちのその後の競技人生で大きなカギを握ることになります」
保護者や指導者だけでなく、地域や社会が子供たちを守って欲しいと思います。
ショッキングな話もたくさんあったのではないでしょうか。
「スポーツは楽しく人生を素晴らしくしてくれますが、その一方で危険も伴います。ですから正しい知識を持って正しく対応してほしいと思います。そのためには事前の準備が必要です」
太田先生の言葉は、今後、サッカー指導者にかかわらず、すべてのスポーツ、保護者、関係者が正しい知識を身につける必要があることを伝えています。
今回は取り上げきれませんでしたが、熱中症の問題や、より具体的な処置法についても時期を見てまたサカイクでも特集しようと思います。
まず命の危険がある場合にどうすべきか? サッカーをプレーする子どもを持つ親として、最低限何を知っておくべきか、AEDの講習会は消防署などでも行われています。他人と関わらないことが当たり前の世の中の空気はありますが、人任せにせず、目の前の命を救うこと、救う術を身につけることがすべての人に求められているのではないでしょうか。
※東京消防庁では救急車を呼んだほうがいいのかどうか、どういった医療機関を受診すればいいのか、相談に乗ってくれる窓口を開設しています。
迷った場合は電話番号#7119をダイヤルして相談してみてください。もちろん緊急時は迷わず119をプッシュです(東京都、大阪府などで開設済み。お住まいの地域については事前にご確認ください)
また、厚労省では電話番号#8000で小児救急医療電話相談窓口を開設しています。こちらは都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医師・看護師からお子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や受診する病院等のアドバイスを受けることができます。
太田祥一//おおた・しょういち
医療法人社団親樹会恵泉クリニック院長
東京医科大学救急医学講座兼任教授
医学博士、日本体育協会公認スポーツドクター
1988年 東京医科大学を卒業後、杏林大学救急医学教室他を経て、2000年 東京医科大学救急医学教室助手、2006年 東京医科大学八王子医療センター救命救急センター長、2009年 東京医科大学救急医学講座教授、2013年8月には同兼任教授、医療法人社団親樹会恵泉クリニック院長に就任。救命救急のエキスパートとして命を救う啓発に務める。
医療法人社団親樹会 恵泉クリニック 〈機能強化型在宅療養支援診療所〉
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