運動能力
2012年2月 7日
韓国代表をW杯ベスト4に導いたトレーニング理論【サッカーのピリオダイゼーション1】
試合中、最初から最後までスピードが落ちることなく、質の高いプレーを繰り返す。サッカー選手なら、誰もが夢見ることでしょう。そんな選手になるためのコンディショニング理論を開発し、実践している人物がいます。レイモンド・フェルハイエン。フース・ヒディンク監督の右腕として、オランダ代表や韓国代表、ロシア代表などをW杯、欧州選手権で上位に導いたコンディショニングコーチです。
■質の高いアクションを短い休息で、より多く行う
彼が提唱するのが、サッカーのピリオダイゼーション理論。「ピリオダイゼーションとは、すべてのトレーニングと試合を計画することを言います。コンディショニングトレーニングは、サッカーのピリオダイゼーションの一部です」(レイモンド氏)。
レイモンド氏はサッカーコーチとしての視点からサッカーのコンディショニングとは何かを分析し、90分間、質の高いプレーを続けるために大切なことを導き出しました。それが、次の4点です。
1・アクションの質の向上
2・アクションの質の持続
3・プレー頻度の向上
4・高頻度のプレーの持続
「サッカーで重要なのが、質の高いアクションを、高頻度で持続させること。ドリブル、パス、プレス、スプリントなどを、試合の最後まで質を落とすことなく続けることができれば、ハイテンポのサッカーが実現します」(レイモンド氏)
それを体現したのが、韓国代表やロシア代表です。2002年のW杯で韓国代表は試合の最後まで足が止まることなく、イタリアやスペイン、ドイツといった強国を苦しめました。2008年、欧州選手権のロシア代表は低い下馬評をくつがえし、オランダを破ってベスト4に進出しました。躍進の影にいたのが、レイモンド氏なのです。
■サッカーの状況を作った『フットボール・スプリント』の重要性
サッカーのレベルが上がると、時間とスペースがなくなります。つまり、アクションを起こすために使うことのできる時間が短くなり、スペースも狭くなります。そのため、素早い判断とプレーのスピードが求められます。それをコンディショニングの観点から表現すると、「より爆発的にプレーしなければならない」となります。つまり、短い時間で最大限のパワーを発揮できる身体を作るのです。
「爆発的なアクションの頻度を上げるためにポイントになるのが、より速く回復すること。試合の最初は1プレー後に15秒で回復できていたのが、試合の終盤では30秒かかるなど、プレー回数の増加とともに、回復時間は長くなります。言い換えれば、回復のスピードを速くすることができれば、アクションの回数を増やすことができるのです」(レイモンド氏)
それでは、レイモンド氏はどのようにして、爆発的なプレーの頻度をあげ、持続させることができたのでしょうか。そのカギを握るのが『フットボール・スプリント』と呼ばれるダッシュです。レイモンド氏は選手たちがどのような状況下で100%に近いパワーを発揮できるか、15m走を使って実験しました。
1つは素走りで走る方法。次に2人に競争させる方法。3つ目はコーチがボールを蹴り、それを2人で奪い合う方法。どれが一番いいタイムが出たと思いますか? それは3番目の、サッカーの状況を作ったスプリントです。
この、フットボール・スプリントこそが、爆発的なプレーをするために重要な部分なのです。
■常に身体が100%の状態でトレーニングする
それでは、フットボール・スプリントを練習に落とし込む一例を紹介します。まず5mのフットボール・スプリントを30秒間の休憩を挟んで6本行います。次に4分の休憩を挟んで15mのスプリント4本を、45秒の休憩で実施。最後にまた4分の休憩を挟んだ後25mのスプリントで60秒の休憩……というように、回数やセット数を設定します。
それと共に、3対3や4対4、8対8や11対11など、人数に対するグリッドの広さ、時間などを細かく設定します。それは、高いプレー強度や頻度を保った状態で練習をするためです。3対3や4対4は頻度をあげるためのトレーニング、8対8や11対11は頻度を持続させるためのトレーニングです。
練習時間と休息にもルールがあります。11対11や8対8は、最初は10分間を2本、ゲーム間の休憩は2分から始めます。6週間のサイクルごとに1分ずつ増加し、15分に達した時点でセット数を増やします。例えば15分2セットの後は11分3セットになります。選手はプレー時間が長くなるごとに疲れて、足が止まってきます。そこでコーチが「プレスをかけろ」など、コーチングをします。これはオーバーロード(過負荷)という状態を作り出すためです。
選手の休息が万全ではない状態で、要求されるプレーを強制する状況を作り出す。それが「オーバーロード」です。身体に過負荷を要求し、適応させることによって強くなる。それがトレーニングの効果です。
これらをプレシーズンやシーズン中に、1週間の中でどの曜日に行い、試合に向けてコンディションを高めていくかという計画を、6週間をひとつのサイクルとして実施します。
これは『選手をやたらに追い込んで強くする』という手法からは、大きくかけ離れたものです。レイモンド氏は「100%の状態でトレーニングをし、オーバーロードを作り出すためにも、しっかりと休息をとり、身体を回復させる時間が必要」と強調しています。
後編はトレーニングにおける休息の必要性と練習しすぎの弊害。そして「持久走は選手を遅くさせるためのもの」と考え、実施しない理由などを紹介します。
レイモンド・フェルハイエン//
Raymond Verheijen
1999年にオランダ代表スタッフに抜擢されて以来、ヒディンクや、ライカールト、アドフォカート、ファン・ハールなどの名監督とともに、オランダ代表、韓国代表、ロシア代表、FCバルセロナなど世界各国様々なチームでサッカーのピリオダイゼーションを実践してきた。サッカーに特化したピリオダイゼーションの分野における先駆者である。
取材協力:J-Dream International//
2011年12月、J-Dream Internationalにより『サッカーのピリオダイゼーション イントロダクションセミナー』が大阪、東京で開催された。同理論を学ぶ唯一の日本人である相良浩平氏が通訳を務めたこのセミナーには、小中高の各カテゴリーの指導者をはじめ、Jリーグ関係者など多くの受講者を集め、大きな反響を呼んだ。
2012年は、前回同様のイントロダクションセミナーと、前回のセミナー受講者を対象としたアドバンスセミナーが開催予定とのこと。詳しくは下記の問い合わせ先まで。
<<セミナーに関するお問い合わせ先>>
J-Dream International(担当:川合)
E-mail : periodiseren@jdream.nl
<<その他の詳しい情報はこちら>>
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