運動能力
2014年7月14日
「ボールをよく見なさい!」は間違いだった
あなたはアレクサンダーテクニークをご存知ですか?
アレクサンダーテクニークとは、自分の体についてしまった悪いクセや習慣を取り除き、より効率的に身体を使おうという考えです。サッカーでは余り聞き慣れない言葉ですね。主に俳優や音楽家の間で活用されているものです。スポーツでは、テニスのジョン・マッケンロー選手、サッカーでは元ドイツ代表FWのアーロン・ハント選手が取り入れています。元々はスポーツというよりも、人間が本来持っている能力を最大限発揮するために、緊張や癖を辞めようという考えです。
取材・文:中村僚 写真:田川秀之
今回は日本アレクサンダーテクニーク協会教師であり、自身もサッカーの指導に携わってきた高椋浩史さんにお話をうかがってきました。W杯に出場する選手の中では、準々決勝のコロンビア戦で腰椎を骨折してしまったネイマールの身体の使い方が良いとのこと。その理由とは?
■頭と脊椎を見ながら、全体をなんとなく見る
アレクサンダーテクニークは、まず身体の緊張を見つけることから始まります。身体が緊張しているかどうかの見極めは難しいです。わずかな違いを見ることができるか、それは個人の眼力にもよります。本当にミリ単位で首が固まっただけでも、身体全体に大きな影響を及ぼします。それくらい繊細な部分です。見えるようになるまでには、やはりトレーニングが必要です。
職人で、機械でも測れないくらいの誤差を、見ただけ・触っただけで見抜く職人さんがいますよね。それと似ています。私たちは人間の動きの観察を何千、何万時間と重ねてきて、初めて見抜く力を身につけたのです。それは、実際には誰でも見えているものを「違和感」として捉えるまでにトレーニングが必要だということです。
動きとは、体全体で構成されるものです。選手を見る上でのポイントは、あくまで「全体をなんとなく見る」ことです。
例えば、歩いている人の動きをなんとなく眺めてみてください。柔らかい、スムーズ、固い、ぎこちないなどの第一印象はどうでしょう?
これが「全体をなんとなく見る」ということです。見た側は特に根拠があったわけではないと思います。それでもいいのです。この「なんとなく見る」トレーニングを積んでいけば、次第に「なんとなく」の精度が上がり、体の動きが固いかどうかの見極めができるようになります。
動きの観察の一番難しいところは「頭と脊椎を見ながら、全体をなんとなく見る」という、相反する観察方法を同時に実行していくところにあります。最初の印象はあたっていることが多いですが、それを洗練させていくことで、どこが緊張しているか、どこの緊張が全体の動きを滞らせているかが分かるようになります。
「部分を動かそう」と意識した時点で、人の動きは固まります。それだけは常に頭に置いておいてください。ここで、いい動きの例を挙げてみましょう。例えば、ネイマール。彼の体幹はとても自由な状態になっています。ボールを見に行ってはいますが、首を縮めてはいません。からだ全体が自由になっているので、重心移動が自由自在で、ネコのように柔らかい対応ができるのです。