運動能力
2014年10月29日
「集中しろ」の矛盾。サッカーは意識を分散させるスポーツである
前回記事『周りを「見ろ」より「眺めろ」。身体の緊張をとる言葉選びとは』で、子どもへの声掛けにおける言葉選びの重要性を語ってくれた、高椋浩史さんと村松尚登さん。今回も身体の緊張を取りのぞくスペシャリストと水戸ホーリーホックの下部組織コーチであるおふたりに、意識を分散させることを求められるサッカーに適したコーチングとはなにか、じっくり語り合ってもらいました。(取材・文/中村僚 写真/田川秀之)
■「集中しろ」というコーチングの難しさ
高椋:「見ろ」や「首を振れ」のほかに「集中しろ」というコーチングもあるよね。この言葉も必要以上に身体を緊張させてしまうことが多い。「集中するな」とは言えないけど(笑)。意識を四方八方に広めていくような声かけをしていくのがいい。
村松:『集中』という言葉が意識を閉じることにつながってしまうのであれば、試合には集中しなければいけないけど、「試合全体への集中」と指導者が求めてる「意識の集中」は別のことかもしれない。「眺めろ」や「がんばるな」と同じ。「がんばるな」というのは、ディフェンスの時には「がんばれ!」、攻撃の時は「がんばるな!」がいいと思う。ボールを持ったときに「がんばり過ぎて身体が硬くなっているよ」と選手にわかりやすく伝えられる言葉の使い方だと思う。
高椋:『集中』の定義が違うのかもしれないね。たとえば「今日の試合でやることはなに?」、「なにやる?」っていうことがサッカーの試合で求められている集中かもしれない。自分たちのタスクを一つひとつ「今日はなにをやる?」、「今日はなにがテーマだっけ?」と確認する。村松が毎回どれくらいの課題を与えているか分からないけど、テーマを持って試合に臨んでいる。意図を明確にしていくことが『集中』なんじゃないかなと思う。
■子どもをボールに捉われないようにするために
村松:皮肉なことに、サッカーではボールが一番やっかいな要素になる。たとえば自由自在にボールを扱えるネイマールのような選手は、ボールがネガティブな要素にはならない。けど普通は、どうしてもボールを受けるときに、ボールに意識が引っ張られる。だから周囲の状況を意識しづらい。ボールに意識がいく結果として、身体には余計な緊張が加わってしまう。ジダンやイニエスタから余計な緊張は感じない。そのような身体の状態を保てるようにするためには、「ボールには集中しないけど、サッカーには集中する」という意識をもつ必要があるのかもしれない。
高椋:選手の観察眼を高めていくことはできるかもしれない。たとえば、グリッドの中に4人が入り、その回りを別の4人がテニスボールを持って囲む。外の選手は中の選手にテニスボールを当てる。中の選手はボールに当たらないように逃げる。全員がボールを持ってお互いにボールを当てるルールにしてもいい。投げるほうは、緩く投げても当たるくらいボーっとしているところを見つけて投げる。さらに、練習中もコーチがテニスボールを持ち「こいつボーっとしているな」と思ったら後ろからボールを当てる。そうすれば選手は、つねに意識を四方にもっていないとボールを当てられてしまう環境で練習できる。
■自分の身体の状態を子どもたちに知ってもらうために
高椋:身体を知るためになにができるか。それを子どもに考えさせるのは難しいかもしれない。
村松:「姿勢をよくしろ」とおれも言うけど、そうすると子どもは緊張で固まる。この間、ふざけて練習に使う大きなサイズのコーンをボールの代わりに頭に乗っけてバランスをとっている子どもがいた。練習試合中にベンチの後ろでやっていたから、さすがに「いまはやめておけ」と言ったけど(笑)。自分の身体の使い方を知るためにはありだよね。
高椋:いいんじゃないかな。
村松:ボールよりも重さがあるからか、コーンの形が丸ではなく三角だからか、ボールよりも重心を感じられるのかも。ボールの方が小さいし慣れている分、感じづらいのかもしれない。普段、頭に乗せないコーンだからこそ、慣れていないし重心の感覚がサッカーボールとは違うから身体感覚が養われるかもしれない。