運動能力

2015年4月 6日

走る時の姿勢に気をつけること、それだけでタイムはグッと縮まる

ほんの少しポイントを押さえるだけで足がグングン速くなる――。
走りにはそんなポイントが幾つかあります。
 
その最たるものが「走る時の姿勢に気をつけること」です。そこに気をつけるだけで、速く走れるようになるのです。
 
200メートルハードルアジア最高記録・日本記録保持者であり、現在はプロスプリントコーチとして活躍する秋本真吾さんにタイムを縮める走る姿勢について教えていただきました
 
前編で『運動会の徒競走で速く走れるコツ』、後編で『サッカーで相手に競り負けないために誰よりも速くスタートダッシュする方法』と、2回にわけてお届けします。(取材・文/杜乃伍真 写真/サカイク編集部)
 
元陸上ハードル選手。200mハードル・アジア最高記録保持者。アスリートタレントとして活動中。為末大学ランニング部アドバイザー
 
 
まずは、秋本さんが実演してくれた日本人の小学生によくあるダメな走り方を見てみましょう。
 
つぎに、正しい走り方を見てみましょう。
 
 
この2つの走り方、どこが違ったかわかりますか? 秋本さんに教えてもらいましょう。
 
 

■走りで一番大切なのは"姿勢"

「一番大事なのは姿勢ですね」
走りを知り尽くす秋本さんがまず指摘したのは「姿勢」です。
「最近の子どもたちは自分では良い姿勢だと思っている姿勢が、実際は悪い姿勢だということがあります。みんなに"気をつけ"の姿勢をしてもらうと、横から見たときに、あごが前へ出ていて、背中が丸まっているんです。おそらく、普段勉強するときやゲームをするときの悪い姿勢を、そのまま走るときの姿勢に持ち込んでしまっているんです」
姿勢が悪いと、なぜ足が遅くなるのでしょう。
「たとえば、子どもに『速く走る方法を知っている人?』と聞くと、みんなが『腕を振って走る』とか『足を高く上げて走る』などと答えてくれるのですが、背中が丸まったままの悪い姿勢で走ろうとすると、足を高く上げようとしても胸の辺りで足がつっかえてしまって、足を高く上げることができないのです。そうすると足を上げたときに生じる地面へのパワーが伝わらないので、当然、足も速くはならないのです。空き缶を踏みつぶすときに高く足を上げて、勢いよく踏み潰したほうが力が入るのと同じですね」
では、秋本さんが普段、子どもの悪い姿勢を良くするために行っているポイントとは、どのようなものなのでしょうか。
「子どもたちには順を追って教えていくのですが、まずは『①正しい姿勢で座ること』、次に『➁そのままの姿勢を維持しながらしっかり立つこと』、そして『➂その姿勢を崩さないように歩いて徐々に走ってもらう』という手順になります」
 
① 正しい姿勢で座る
→両足つま先の間でにぎりこぶし2個分ほど開ける
あたまの上から一本の串が刺さっているようなイメージを持ちその串が折れないように座る
「姿勢の悪い子どもの場合、座ったときにかかとが地面についたり、前に手がついたりしてしまいます。お相撲の"そんきょ"の姿勢をイメージするといいと思います。かかとは地面にはつきません」
➁  ①の姿勢でしっかりと立つ
→頭から刺さっている串が折れないようなイメージを持って立つ
→このときに肩が前へ出て猫背になっている姿勢を直すために両手を後ろに伸ばしてひっぱる
→胸が前へ出たら両手を横に戻して両足を閉じてまっすぐに立てば、正しい姿勢の出来上がり
➂  ➁の姿勢を崩さないように歩いて、徐々に走る
→頭から刺さっている串が折れないように意識しながらゆっくりと歩く
→慣れてきたらゆっくりと走ってみる
「この時点で、行進をしているように綺麗な姿勢で歩けているのがわかると思います。見た目の印象もかなり変わります。トップアスリートは姿勢がとにかく綺麗です。腕の振りがたとえバラバラでも、頭から串が刺さっているようなイメージを持ちながら走って、身体の軸がぶれていなければ、それだけでもかなり速く走れるようになります」
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■スタートのときの構えでタイムは改善する

さて、正しい姿勢で走ることができるようなったら、次の大事なポイントは「スタートのときの構え」です。
「子どもたちやJリーガーを指導するなかで驚いたのは、みんなに『スタートのときの構え』をとってもらうと、ほとんどの人が同じ側の手と足を一緒に出していたんです。でも、ヨーイドン! で走り出すときに、同じ側の手と足は一緒には出しません。手か足を戻すときのワンアクションが瞬間的なロスに繋がってしまうので、まずここを改善してください」
【ダメな姿勢】
【正しい姿勢】
秋本さんが指摘する「スタートのときの構え」の大事なポイントは次の3つです。
①同じ側の手と足を出さない
②両足の前後の幅をほどよく確保する(一番力が入るのはものを押すときの姿勢)
③体重をかける場所を意識する(前足の親指にぐっと体重をのせるイメージ)
「まず、『①同じ側の手と足を出さない』ようにして構えたら、次に大事なのは、足を踏み込んだときに地面に力がしっかり伝わるための『➁両足の前後の幅をほどよく確保する』こと。人間の力が一番入るのはものを押すときの姿勢なので、まず、前足のかかとに逆の足の膝をつけて、そのまま立ちます。これがもっとも力が入る姿勢になります。そして、この姿勢のときに大事になるのが、➂『体重をかける場所を意識する』こと。前足の親指に体重を乗せるイメージで踏み込んでみてください。この3つのポイントを押さえるだけで、スタートの反応がまったく変わると思います」
正しい姿勢をつくり、スタート時の正しい構えもばっちりできたら、あとは「かかとをつけないで走る」ことも重要なポイントです。
足が遅い子どもの共通点は、かかとから地面を踏んで走っているということです。かかとから地面を踏むというのは、お尻が後ろに引いていて、背中が丸まっている姿勢になりやすいのです。つまり、ここまでお話してきたように、かかとをつけて走ると悪い姿勢になりやすいので、足は高く上がらず、速く走ることができないのです。かかとから最初の一歩を踏み込んでしまうと、ふくらはぎの筋肉をたくさん使うので疲労も蓄積しやすくなってしまいます。そうではなくて、つま先から一歩を踏み込んで、アキレス腱の伸縮を利用しながら走るのです。アキレス腱は筋肉とは異なって疲労しないので、腱で走るイメージがすごく大切なのです」
誰しも縄跳びをしているときは、無意識のうちに、つま先で飛んでいると思いますが、大切なのは、あの縄跳びのイメージのままつま先で跳ねるように走るということです。秋本さんによれば、子どもの頃にトランポリンを体験するのもとても有効とのこと。頭から串が刺さったようなイメージを保たないとトランポリンは継続できないのと、つま先で着地するイメージを掴みやすいといいます。
以上のポイントを押さえたら、最後のポイントとして「まっすぐ前へ見ながら走る」ことを心がけましょう。
「子どもはまだ方向感覚がしっかりと養われていない年代なので、右を見ると右へ、左を見ると左へ、身体が傾いて走ってしまうので、50メートルを走るのに52,3メートルほど走ってしまう、というロスが出るのです。なるべく最短の距離を走るためにも、まっすぐ前を見て走ることが重要です。まっすぐ前を見て走っていると、自然と姿勢もまっすぐに矯正されていきますよ」
後編では、この前編の内容を踏まえて、『サッカーで相手に競り負けないために誰よりも速くスタートダッシュする方法』をお届けします。

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