運動能力

2019年2月27日

幼少期からサッカーに集中させるべきではない理由とは【英国サッカーの最新事情】

現在スポーツ界で活発に議論が交わされている育成論の1つに、スポーツの「早期専門化」があります。小さい頃から複数の競技をプレーさせるのか、あるいは1つの競技を専門的にプレーさせるのか。これらにはどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

前橋育英高校サッカー部でプレーした後、イングランド・サウサンプトンにあるソレント大学大学に通いながら、現在はバッシュリーFCという9部(セミプロ)のトップチームコーチと、下部リーグを中心にチェックするノンリーグジェムズというスカウト団体にも所属する塚本修太さんにお話をうかがいました。

(取材・文:内藤秀明/編集協力:藤井匠)


日本でも一部の保護者が「幼少期からの専門特化が成功の道」と考える方もいるようですが...(写真はサカイクキャンプ)

 

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■「意図的に組まれた強度の高い練習」と「遊び感覚の動き」

「専門化」について語る上で、2種類のトレーニングについて説明する必要があります。一つは「デリバレイト・プラクティス(deliberate practice)」。これは指導者によって意図的に仕組まれた限界よりも少し強度が高い練習のことを指します。もう一つが「デリバレイト・プレイ(deliberate play)」でコーチによってコントロールされていない遊び感覚の運動を指します。

■「意図的に組まれた強度の高い練習」のメリット・デメリット

近年イングランドでは、幼少期からの「専門化」を推し進めている傾向にあります。

イングランドサッカー協会が、サッカー選手と他のスポーツ選手との専門のスポーツの練習時間を調査したところ、サッカー選手のほうが短いという結果が出ました。そのため2011年以降、イングランドサッカー協会はサッカーのトレーニング時間を増やす方向に舵を切りました。これは一概に間違っている判断とは言えません。

というのもフロリダ州立大学のアンダース・エリクソン教授は「1万時間の法則」という説を提唱しています。彼の研究によると成功を収めているバイオリン奏者は幼少期から長時間デリバレイト・プラクティスを積んでいるというのです。

また子供には運動能力が飛躍的に向上するゴールデンエイジという時期をおおよそ10~12歳で迎えることは有名な話です(※成長速度により個人差があります)。そのタイミングでサッカーに集中していれば、当然、サッカーの競技力が高まることは言うまでもありません。

一方で、専門化にはリスクがあることも複数の実験で明らかになっています。というのも幼少期から専門化をしたプレイヤーは14歳頃からスポーツに対するモチベーションが下がり始める傾向にあります。競技力向上を目指し、一つのスポーツしかプレーしていない選手は、プロになるまでほぼ壁にぶつからないような一部のトップ中のトップ選手を除き、モチベーションダウンによってドロップアウトしてしまうリスクを内包しています。

また強度の高い練習を行い過ぎることによって怪我のリスクが高まることも判明しています。

■「遊び感覚の動き」を増やすメリット

一方で、幼少期に楽しむことが目的で複数のスポーツを経験することにもメリットがあります。

0~12歳のバスケットボールの競技者に対して、多くのスポーツを経験させ、12歳以降にバスケットボールを専門化させたところ、怪我の減少、モチベーション、競技継続率の向上、そしてバスケットボール競技者としての成功確率が上がっている、という研究もあります。

他にもブンデスリーガで行った調査の中では、ドイツ代表レベルの選手は、アマチュア選手やブンデスリーガの一般的な選手と比べて、デリバレイト・プレイ(遊び感覚の動き)を経験した時間が比較的長いことが判明しています。幼少期にたくさんのスポーツに触れていると、それだけ体の動かし方の基本的なレパートリーが増えるため、専門化した後に生きると考えられています。

確かに思い返してみると、かつてマンチェスターユナイテッドで活躍したウェイン・ルーニーは幼少期にボクシングを、ズラタン・イブラヒモヴィッチテコンドーをしていたことがあるなど、トップレベルの選手は複数の競技をプレーしています。

またこういった「遊び」を入れることで、心理的な負荷を抑制できるので、プレーするモチベーションを維持させることができます。

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