運動能力
2025年3月18日
間違った練習をするほどサッカーは下手になる サッカーへ取り組む意欲、上達にもつながる基礎となるのは「正しい姿勢」
「現代の子どもの運動能力」について、様々なところで懸念されていますが、実際指導の現場ではどう感じているのでしょうか。
サカイクキャンプの菊池健太コーチと「タニラダー講習会」を主宰する谷真一郎さんの対談、後編をお届けします。
前編では、現代の子どもたちの運動能力低下や二極化する身体能力の現状、そして自己肯定感を高める方法について語ってもらいました。
後編では、姿勢と学習能力の関係性、低学年からのトレーニングの効果、そして日常生活とサッカーの関連性など、具体的なアプローチにフォーカスし、子どもたちの可能性を引き出すヒントをお伝えします。
(構成・鈴木智之)

(写真は少年サッカーのイメージです)
前編記事:転んだ時に手が付けない、サッカーするうえでもベースとなる運動が正しくできていない......、子どもの運動能力低下の原因と課題
■姿勢と学習能力の関係性、サッカーでも良い選手は「良い姿勢」でプレーしている
(写真は少年サッカーのイメージです)
菊池健太(以下 菊池):谷さんにお聞きしたいのが「姿勢」についてです。私は姿勢が学習能力や学校の勉強にもリンクするのではないかと思っています。
サカイクキャンプの開会式で、子どもたちに座ってもらうと、猫背の子や斜めに座る子がいます。姿勢が整うだけでも、学力に影響があるのではないかと強く感じています。
谷真一郎(以下 谷):私たちは今、お尻で座っていますよね。お尻で座ると、骨盤が後傾しやすく、背中も丸まりがちです。
私の知り合いで三笘薫選手と同じ時期に筑波大学で学んでいた人がいるのですが、彼はハムストリングス(太ももの裏)で座るというんです。そうすると骨盤が立ち、背中も自然と真っ直ぐになる。
彼はずっとこの姿勢で授業を受けていました。彼に言わせると「これもトレーニング」とのことです。お尻ではなく、太ももの裏で座るという意識も大切なポイントです。
菊池:私たちはよく「オフ・ザ・ピッチ」と「ピッチ上」の関連性について話すことがあります。姿勢の話もその一つですね。
子どもたちに「良い姿勢とは何か」を伝えることで、集中してサッカーノートを書くことができるようになるでしょうし、考える力の向上にもつながると思います。
保護者からは「うちの子はサッカーノートが続かない」「やる気がなさそうに見える」といった相談が多いです。確かに気持ちの問題もありますが、姿勢や取り組み方、環境も重要な要素です。
その意味でも、姿勢の部分からアプローチできることは多いと思っています。
谷:タニラダーキャンプでも、子どもたちにノートを書かせることがありますが、机に突っ伏して、髪と目がほんの数センチしか離れていないような状態の子もいます。
その状態で考えるのと、正しい姿勢で考えるのでは、効果が全然違うと思います。
そこで「どんな姿勢が頭良さそうに見えるかな?」と言うと、シュッと背筋を伸ばして座るようになります。
そうやって、サッカー以外の部分にアプローチできるのも、キャンプ形式のトレーニングの良さですよね。
菊池:ピッチに立ってボールを持つときも、姿勢が良い選手は胸を張って、全体が見える状態になります。
サッカーと日常生活は繋がっていて、上手い選手はパッと見た瞬間に分かりますよね。
日常生活の中からも、サッカーが上手くなる方法や意識すべき点がたくさんあることを、保護者の方にも伝えられれば、より良いアプローチができると思います。
■わずかな差が勝敗に直結する 足の接地の仕方一つでもスピードが変わる
(写真は少年サッカーのイメージです)
谷:サッカーは、わずかな差が勝敗に直結します。
例えば、三笘選手の「1ミリ」。彼が1ミリ進むのに必要な時間は、100メートルを12秒で走るレベルの選手だとすると、約8300分の1秒(0.00012秒)です。
スパイクのポイントに当たってコースが変わったり、キーパーの指先がボールに触れてコースが変わることもあります。その距離を進むのに必要な時間は1000分の1秒レベルなのです。
ちょっとした足の接地の仕方を変えるだけで、0.2秒、0.3秒、0.4秒と変わってきます。トップレベルを目指す子どもには、「サッカーはそういう世界なのだよ」と伝えています。非常に細かい差ですが、現実的にその差で勝敗が決まる競技なのです。
そこをサッカーチームの通常トレーニングだけで補おうとしても、難しいと言わざるをえません。特化したトレーニングをしなければ身につかないスキルもありますし、継続性も重要です。
その観点から、選手を送り出してもらい、私たちが良い状態にして戻し、その変化を実感してもらう。そして自チームでもトレーニングできるよう指導者が準備する。このサイクルが理想的だと感じています。
菊池:小学校低学年の子どもにラダーやアジリティトレーニングは難しいのではないかと思うこともあるのですが、実際はどうでしょうか?
谷:低学年でも十分できますよ。理論も説明しますが、専門用語は使わず、子どもが理解できる言葉で伝えます。
動きを身につけるなら、むしろ低学年の方が早いです。
以前は高学年限定でやっていたのですが、高学年についてくる弟や妹(年長さんや1年生)の方が早く覚えるケースが多くて。今では低学年もOKにしていますが、やはり低学年の方が動きを身につけるのが早いと感じます。
菊池:それはキャンプでも似ていますね。低学年の子は「真似っこ」が上手で、ちょっと見せるだけで、動きを吸収するのですごいです。
谷:先日も小学2年生の子とトレーニングをした際、勘がいいというか、見て真似るのが上手で、最初はうまくできなくても、徐々に上達していきました。
お母さんにも「初めてやるのに、これだけできるのはすごいですよ」と伝えたほどです。低学年の吸収力は本当に素晴らしいです。
■正しい情報と指導の重要性 パフォーマンスを上げるためにも正しい動きを身に着けよう
(写真はオンライン対談の様子)
谷:現在はYouTubeなどでもラダートレーニングの動画がたくさん公開されていますが、「本当にそれで良いのか」と疑問に思うものも多いです。
皆さんがYouTubeで探して真似るケースもあると思いますが、私から見ると「これはやらない方が良いのでは」と思うものもあります。
間違ったトレーニングをすると間違った動きが身についてしまい、パフォーマンスが低下します。そういった点に気をつけて見てほしいですし、発信する側も責任を持つべきだと、自戒を込めて思います。
菊池:せっかく選手が一生懸命練習しているのに、上手くならないどころか悪影響になってしまうのは、本当に残念なことですよね。
谷:間違った練習をすればするほど、サッカーは下手になります。
これも子どもたちに伝えています。悪い姿勢でシュート練習を繰り返すと、体が悪い動きに適応するので、どんどんシュートが入らなくなります。
そうならないために、良い循環を生み出していくことが大切です。ただし、現代の子どもたちは毎週末の試合に追われて、個の能力を伸ばすトレーニングをする時間が足りないように感じます。
菊池:そうですね。毎週のようにリーグ戦をこなさなければならないのが、4種(小学生)の悩みです。
谷:試合ばかりでサッカーが上手くなるのか? という疑問があります。
プロの世界でも、「過密日程で試合をこなすことで、選手は鍛えられて強くなる」という考え方があるのですが、実際はそうではありませんでした。
きちんとトレーニングしないと、いくら試合をこなしても変わらないのです。むしろ疲弊し、パフォーマンスは低下しかねません。
菊池:試合だけだと、元々上手い子は出場して向上できますが、出場時間が少ない子や苦手意識がある子たちの改善は難しいですよね。
谷:1対1が苦手な子がいくら試合をしても、抜かれる動きを繰り返すだけで、改善されません。
そこで、改善のトレーニングやヒントを与えることで、良くなる感覚をつかみ、「もっと良くなるためにはどうしよう」という探究心につながればいいですよね。
キャンプなどは普段と違う刺激があります。違う環境、違うコーチ、違う仲間と過ごすことで、きっかけや刺激を与えたいと思い、活動しています。
菊池:それが私たちの一番の役割かもしれません。
キャンプに来て自信をつけてくれることや、できることを認めることで、「1対1で抜かれないためにどうするか」「ボールを奪って素早く攻撃につなげるにはどうすればいいか」といった次のステップに進めます。
これは個人によって異なる部分ですが、そういった刺激を与えることで「もっとやってみよう」という気持ちが生まれます。その相乗効果で成長していくのだと思います。
■子どもの成長は劇的 わずか1日、2日で大きく成長することも
(写真は少年サッカーのイメージ)
谷:小学生は、わずか1日、2日で劇的に変わることがあります。タニラダー講習会やサカイクキャンプなどを通して、内面にアプローチしていくことで探究心やモチベーションに火がつくのです。「
もっとやってみよう」「次はこれにチャレンジしたい」といった前向きな姿勢が生まれる。そのマインドのベースができると良いですね。
菊池:おっしゃる通りです。子どもたちと一緒に探究し、チームに戻った後も自分から進んで取り組めるようになってほしい。
そのように子どもを導くことのできる場に、サカイクキャンプがなればいいなと思っています。
谷真一郎(ヴァンフォーレ甲府・フィットネスダイレクター)
愛知県立西春高校から筑波大学に進学し、蹴球部に在籍。在学中に日本代表へ招集される。同大学卒業後は柏レイソル(日立製作所本社サッカー部)へ入団し、1995年までプレー。 引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年よりヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務める。 『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』2020年よりヴァンフォーレ甲府のフィットネスに関わる活動に携わるフィットネスダイレクターに就任、現在に至る。また一般社団法人タニラダー協会の代表として体の動かし方に特化した講習会などの活動を全国で行っている。
【取得資格】
筑波大学大学院コーチ学修士
日本サッカー協会認定A級ライセンス
AFCフィットネスコーチ レベル2
日本サッカー協会認定キッズリーダー
菊池健太(サカイクキャンプヘッドコーチ、シンキングサッカースクールコーチ)
【経歴】
VERDY花巻ユース 日本クラブユース選手権出場(全国大会)
中央学院大学 千葉県選手権 優勝
千葉県1部リーグ 優勝
【資格】
日本サッカー協会 C級
JFA公認キッズリーダー
キッズコーディネーショントレーナー
佐倉市立井野中学校サッカー部外部指導員
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