健康と食育
2021年2月 3日
かかとの痛み、腰痛など成長期のサッカー少年が抱える痛みの原因。ポイントは股関節を上手に使える身体作り!
理学療法士として病院に勤務、順天堂大学大学院にも所属し研究活動を行っており、自身も「お父さんコーチ」として、千葉県松戸市の少年団でコーチをしている臼井直人さん。「サッカーにおけるヘディングの累積曝露と慢性外傷性脳症に関する最近の知見」という論文を発表するなど、育成年代の子どもたちが、ケガなくサッカーを楽しむための知見を提供しています。
今回は臼井さんに、ジュニア年代のケガで多い「シーバー病」と「腰椎分離症」を、どうすれば予防できるのかについて、話をうかがいました。
(取材・文:鈴木智之)
■かかとが痛くなる原因
足のかかとに痛みや腫れが起きるのが「シーバー病」の特徴です。臼井さんはその原因を「遺伝的要因とオーバーユース(使いすぎ)、オーバーロード(高負荷がかかる)があります」と話します。
「誰しも、赤ちゃんのときは扁平足です。その後、10歳頃までに足裏のアーチが形成されます。足専門のお医者さんによると、日本人は扁平足が多く、足裏にしっかりとしたアーチができていない状態で骨の成長が始まることが多いそうです。その結果、アキレス腱とくっついているふくらはぎの筋肉が硬くなっていきます」
臼井さんはその状態を『真っ平らなスキー板』に例えます。
「扁平足は真っ平らなスキー板を履いているのと同じで、その状態でスキージャンプをして着地したら、足に大きな衝撃がかかりますよね。それほど、足裏のアーチは重要なのですが、アーチができていない状態でたくさん走ったり、サッカーのようにスプリントを繰り返すと、かかとに対して局所的に大きな負荷がかかります」
■足首、足指が使えるようにしよう
シーバー病はサッカーをしている子だけでなく、剣道や新体操にも多いそうです。
「剣道や新体操になぜシーバー病が多いかというと、つま先で立つ時間が長いからです。サッカーも同じで、シュートを打つときに、足を下に向けてボールにインパクトしますよね。その瞬間、かかとに大きな負担がかかります。そのため、シーバー病になってしまった子は走ることだけでなく、強いシュートを打つことも控えた方がいいと思います」
足首の可動性が低い子はシーバー病になりやすいので、臼井さんは「足首を柔らかくしておくことが必要で、足の指を使えるようになるのも大事」とアドバイスを送ります。
■近年増えている子どもの腰痛、その理由は?
近年は子どもの腰椎分離症が増えているそうで、臼井さんも理学療法の現場でよく経験をされたそうです。
「最近は、腰椎分離症が若年化している印象があります。当初これには驚きました。成長期は骨が柔らかく、骨端が成長するための構造をしているので、血管が豊富で脆弱です。そこに局所的に高い負荷がかかると、分離症やシーバー病などのように、様々な部位が骨端症になってしまいます。分離症の原因としては猫背などの生活習慣、股関節の前の筋肉が硬いこと、さらにこれらの要因の影響で股関節や腹筋が上手に使えないことが挙げられます。」
シュート練習のしすぎで局所的に負荷がかかり、腰椎分離症の引き金になることもあるそうです。
「あとは反り腰ですね。走っている時に顎(あご)が上がってしまったり、シュートを打つときに顎を引けていないのは、腹筋を使えていない証拠です。そのため、反り腰や腹筋が使えていない子が、強くシュートを打つなど、負担の大きいスポーツ動作を繰り返し練習すると分離症になりやすいです」
練習のしすぎでケガをするのは避けたいところです。ケガをするとサッカーができなくなるだけでなく、筋力や体力の減少につながります。
「1週間の中で、自分の年齢以上の時間はプレーしない方がいい、というガイドラインが国際的にあります。例えば12歳なら、1週間に12時間以上はプレーしない方がいいわけです。ただし、それを超えることは珍しいので、オーバーユースというよりも、局所的に負荷がかかった状態で繰り返しスポーツの動作をすることが原因だと考えています」
ほかにも「ひとつの運動を、1年のうち8か月以上するのはよくない」という国際的な認識もあるそうで、サッカーのキック動作を1年(12か月)繰り返すことで、成長途中の子どもの身体に局所的な負荷がかかり、痛みとなって表出するケースもあるそうです。
■サッカー上達のポイント、股関節の可動域を広げるために日常で気を付けること
股関節は体幹と協力して動く関節です。股関節の前部分が硬いと、腰椎分離症のリスクが高くなるだけでなく、同時にドリブルの時などのボディバランスにも関わります。この修正には、片膝立ちになり、股関節の前面を伸ばすストレッチが効果的です。
また、リズミカルに深く大股歩きをするのも、ストレッチ効果だけでなく股関節と体幹の協調性が養われるのでオススメです。この時、深く踏み込んだ際は腰を反りすぎないように、ステップの際は太ももをへその高さまでしっかりと引き上げましょう。ポイントは、「動作中、常に顎を引いておく」、こうすることで、背筋と腹筋が刺激され腰に負担なく運動ができます。
日常の中で楽しみながら行うには、鉄棒がいいそうです。
「鉄棒の(空中)逆上がりや足掛け前回りなどをすると、腹筋を使うので良いトレーニングになります。反り腰だとできないので、学校や公園の鉄棒を使ってがんばってみてください」
■腹筋が使えないと太ももの付け根の痛みにも......
股関節が硬いと、腰に負担がかかります。お風呂上がりなど身体が温まっているときに、テレビを見ながらルーティンとしてするのもおすすめです。
「ストレッチをして股関節の前面を伸ばすことは、毎日取り組んで欲しいです。腹筋が使えないと、大腿直筋付着部炎などにもなりやすいので、ぜひストレッチに取り組んでみてください」
姿勢を意識して生活し、日々のストレッチや身体を上手に大きく使う練習をすることで、ケガをしにくい身体になります。それが結果として、サッカーがうまくなることにもつながるので、ぜひトライしてみましょう!
臼井直人(うすい・なおと)
理学療法士・腎臓リハビリテーション指導士
<所属>
医療法人社団嬉泉会 嬉泉病院 リハビリテーション科 科長
順天堂大学 大学院 医学研究科 腎臓内科学
所属の嬉泉病院 リハビリテーション科では、腎臓病患者のフレイルや、心肺機能と自律神経障害、リハビリテーションなどの臨床研究に取り組んでいる。
学会学術集会では優秀賞などを受賞、その他、論文・著書・学会発表など多数
2020年9月には論文「サッカーにおけるヘディングの累積曝露と慢性外傷性脳症に関する最近の知見」を発表
「サッカーにおけるヘディングの累積曝露と慢性外傷性脳症に関する最近の知見」はこちらで閲覧できます>>