サッカーを観て学ぶ
2014年9月19日
名波浩の"レベル別"サッカー観戦術
■名波流! 遠藤保仁の見方
――ワンプレーに対してそれだけ深くフォーカスして考える力を養うのは、ジュニア年代から必要なことです。ほかにはどんなプレーをフォーカスしてほしいですか?
単純に「止めて、蹴る」という技術ですね。そこはジュニア年代においてすごく大事な部分だと思います。簡単なものを簡単に見せるというのはもちろんそうですが、難しいプレーをより簡単に見せるというところ。「そんな簡単そうにできちゃうの?」というプレーにフォーカスして見ていくと、より基本技術の大切さというのがわかると思います。
――その点で遠藤選手は非常に優れたプレーヤーですね。
遠藤選手の見方で言えば、「止めて、蹴る」という技術がすごいと思えるのはレベル1だと思います。
――次のレベルの見方は?
レベル2はボールを出し入れしているときに遠藤選手は2人目、3人目の動きが見えている、その広い視野を感じて「あそこまで見えてるんだ」と思えること。レベル3は「相手がこう来たから遠藤選手はここにボールをコントロールしたんだ」と気づけること。そしてレベル4は、先ほど言った米本選手のような遠藤選手の消し方が見えるようになることですね。そういう見方は遠藤選手に限らず、メッシやクリスチアーノ・ロナウドでも、世界のどんなリーグでもできます。それは自分がプレーするだけではなかなか気づけないもので、プロの試合を見ることで養える視点だと思います。逆に自分がピッチで感じた難しい局面をプロの選手はどうしているのかという視点も持てるようになります。
――さまざまな国のリーグ、選手を見ることでその視点はより広がっていきます。
個人の突出した技術とか、戦術眼とか、そういったものは日本だけでは小さな尺度のままだと思うんですけど、欧州の試合を見ることでその尺度は大きく変わってくると思います。
――自分の尺度を大きくしていく必要があるんですね。
たとえば同じチームに同級生のA君がいるとしますよね。A君のコップには水が7割入っていて、B君のコップには水は3割しか入っていない。これが2人の力関係だとしますね。それからB君は欧州のサッカーを観ることで、大きな刺激を受けて、練習し、それを繰り返すことでコップの水はどんどん増えていく。B君はいつかA君に追いついて、2人のコップの水は目一杯になります。そのとき、レベルの高いサッカーを観てこなかったA君はコップの水が目一杯になったことで満足してしまうんです。でもB君は、もっと水が欲しくなる。こんな小さなコップでは満足しないんですよ。世界にはもっと大きなコップを持っている人たちがいることをB君は知っているから。
――よりレベルの高いサッカーに触れることで視点が広がるだけじゃなく、自分の中のキャパシティも広がっていくんですね。
これがJリーグだとコップのキャパシティはあまり変わらないと思います。いまのJリーグの1位は浦和レッズですけど、最下位の徳島ヴォルティスとそれほど大きな差はない。浦和対徳島というカードで5点差がつくゲームというのはなかなかないと思います。10回やって1回あるかないか。これが欧州にいってバルセロナ対徳島であれば、おそらく10点差はついてしまう。そういう尺度を子どものうちに持てると、また見えてくるものは違うと思います。Jリーグの見方も違ってくる。ぼくはそれで良いと思います。Jリーグを見て、「レベルが低いな」と思う子どもになってほしい。またはJリーグの試合を見て、大学生の試合のレベルが低いなと思えるようになったら、自分が今どの位置にいるかもおぼろげながらにわかってくると思います。そうなれば、見たいものの欲求とか、目線もガラッと変わると思います。そういったことがジュニア年代でサッカーを観ることの一番大事な部分だと思います。
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