サッカーを観て学ぶ
2014年12月18日
田中誠のサッカー観戦術!観て、感じ、学び、考える
ディフェンスリーダーとしてチームを最後尾から支え、ジュビロ磐田の黄金期を支えた田中誠さん。相手FWの一歩先のプレーを読みながらの駆け引きや、自分の間合いに持ち込むための相手との距離感の取り方、相手のプレーを限定して有利な状況を作ってから勝負するそのプレーは、まさに田中さんならではの持ち味でした。11年に引退後は解説やサッカースクールのコーチを務めるなど、サッカーの普及活動に情熱を注ぐ田中さんが、サッカーを観ることの大切さを語ってくれました。(取材・文 石井宏美 写真 サカイク編集部)
■プレーを見せてあげることも大事
――田中さんはジュニア年代からサッカーをすることだけではなく、観ることも重要なことだと思われますか?
もちろんプレーするのは自分自身ですが、ジュニア年代では海外や日本のうまい選手たちのプレーを観て、「ああいうプレーがしたいな」「ああいうドリブルをやりたいな」というようなイメージをもって、それを真似ることから始めるのは大事だと思います。最初は遊びながらでいいんです。たとえば本田圭佑(ACミラン)のブレ球を見よう見まねでやってみる。うまくはいかなくても、練習しているうちに近づけるかもしれません。真似し続けることで、それが少しずつ自分のものになっていく。あと、ぼくの場合は、よくアニメを見てシュートを真似したりしていました。サッカーを始めたころはFWだったこともあり、イメージを膨らませることが多かったです。そういった意味でも、ぼくの哲学のなかで“観る”ということは、非常に重要なことだと考えています。とくに育成年代において、サッカーを観て練習することは大事だと感じています。
――観て真似ることがスタートだと?
いまはスクールで子どもたちにサッカーを教えていますが、長々と説明するよりもそこでプレーを見せてあげる方が、子どもは理解しやすいし、のびのびとプレーをします。観て、感じて、学んで、そして考える。その第一歩が視覚で、そこから入ってくる情報がその後につながります。
――田中さんも子どものころはそうやって成長していったと?
コーチにいろいろと言葉をかけてはいただいていたと思いますが、いま振り返ると、正直、あまり言葉が頭の中に入ってこなかったような気がします。地元の静岡県清水で『釜本サッカークリニック』が開かれたことがあったのですが、釜本(邦茂)さんがいらっしゃって、目の前で強烈なシュートを決めてくれたんです。ヴェルディの選手たちが清水に来てサッカークリニックを開いてくれたこともありました。松木(安太郎)さんや武田(修宏)さんらが来て、一緒にリフティングをした記憶があります。言葉よりも、そのように体験したことの方が覚えていますし、記憶に残る。テレビよりも目の前で観るほうが頭の中に残るし、ジュニア年代の子どもたちにとっては良い経験になるのかなと。
――現在、海外サッカー、Jリーグと子どもたちがトップレベルのサッカーを観る環境が整っています。
それは本当にすごく良いことだと思います。バルセロナ(スペイン)の試合もマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)の試合も、いつでもテレビやスマートフォンで観ることができますからね。ぼくらの時代は、せいぜいW杯期間中か、サッカー番組で観るくらい。いまの子どもたちは、ネイマール、メッシ(バルセロナ)、クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリード)など、トップレベルの選手を日常的に見られる環境があるわけですから、本当に幸せなことですよ。そういった環境が整っているから、ぼくらの少年時代よりも格段にレベルの高い練習ができていると思いますし、ひとつひとつのプレーを観ても技術が高いと実感します。
皆がそれなりに高い技術を持っている中で、その先に行けるか行けないかは、メンタルの強さが関係してきます。ジュニア年代でどれだけ悔しい思いを味わったか、挫折を乗り越えられたかというものは、すごく大事なことです。実際に自分自身がジュニア年代からサッカーをプレーし、いまはコーチとしてサッカーに携わっていますが、挫折を味わうことはとても重要だと感じます。