インタビュー

2016年7月29日

「サッカーを教えすぎると嫌いになってしまいそう」サンフレッチェ広島FW佐藤寿人のサッカー少年の育て方

身長170㎝と小柄な体格にも関わらず、ポジショニングの良さとパスに対する嗅覚の鋭さでゴールを量産し、今年3月にJ1通算最多得点記録(※)を塗りかえたサンフレッチェ広島FW佐藤寿人選手。プライベートでは、今年3月に三男・瑠那人(ルナト)くんが誕生し、男の子3人の父親になりました。サッカースクールや学校の部活でサッカーをしている長男・玲央人(レオト)くんと、次男・里吏人(リリト)くんに佐藤選手はどのように接しているのでしょうか?
 

日本代表経験や日本年間最優秀選手賞受賞など、プロサッカー選手として華々しい経歴を持つ佐藤選手の父親論をうかがいました。(取材・文 中野里美 写真 安田健示)

 

※現在は、今年4月に通算159ゴール目を決め佐藤選手の記録を塗りかえた大久保嘉人選手が単独トップ
 

 

■うまくなるよりも、楽しくプレーしてほしい

――息子さんは何歳ですか?
 
長男・玲央人(レオト)が中一で、次男・里吏人(リリト)が小4、三男・瑠那人(ルナト)が今年3月に生まれました。
 
――3人とも佐藤寿人選手の“人”という一文字をとっているんですね?
 
ぼくの父が正人で、双子の兄が勇人、ぼくが寿人で、一番最初の長男に“人”を付けたら、みんなに付けざるをえなくなってしまいました(笑)。“人”がついていなかったら仲間はずれになってしまうので。一人目は絶対に玲央人と決めていました。ぼくは埼玉出身で、地元に西武ライオンズがあったのと、子どものころに「ジャングル大帝レオ」という漫画が好きでした。それでどうしても「レオ」って名づけたかった。そこでぼくの“人”と、妻の名前から“央”をとりました。今もパ・リーグは西武、セ・リーグはカープが好きです(笑)。ら行のRの音が好きなので、という子どもたちはみんな頭文字はRです。あと、ぼくはヒサト、のトまで呼ばれることがあんまりなくて、ヒサって二文字で呼ばれることが多いんです。、だから、子どもたちも“人”を入れなくてもレオとかリリとかルナと二文字にしても呼べる名前を考えました。サッカーをしている時もそうですけど、短いほうが呼びやすいですからね。
 
――息子さんがサッカーを始めたのは?
 
サッカースクールに入ったのは二人とも幼稚園の年中くらいですけど、サッカーボールはもっと小さいころから蹴っていました。ぼくの仕事がサッカー選手ということもあり自然とボールがある環境に身を置いていたのだと思います。、小さいころは練習場で一緒にボールを蹴ることもありました。息子たちにとってもサッカーがあるのが当たり前の環境だったので、自然と始めた感じです。長男が先にサンフレッチェのスクールに入って、次男も練習についていくようになりました。長男の練習が始まるまでは一緒にボールを蹴って、練習が始まるとその様子を観ていました。「ぼくも入れる年齢になったら入りたい」という感じだったので、次男も入りました。
 
 
――息子さんたちがサッカーをするにあたって、どんな思いがありますか?
 
本人たちにあまりやる気がなければやらなくてもいいと思っていました。けど、本人たちがやりたいと言うことで始めました。でも難しいです。楽しくプレーしてほしいと思うので、ぼくが教えすぎてサッカーを嫌いになってしまったら悲しい。。「やらされてる」と感じる可能性もあります。とはいえ、ある程度は教えてあげなきゃいけないと思っているので、その辺のバランスが難しかったですね。
 
ぼくも子どものころからずっとサッカーをやっていました。楽しいからつづけることができました。上達するためにいろんな壁にぶつかることはありましたが、楽しくなければ乗り越えられない。「つまらないな」「しんどいな」と思うと、なかなか前向きになることはできないものです。楽しいと思えたからこそ、今日までやってこれたと思います。実際、自分と一緒にやってきた仲間でも、どこかのタイミングで楽しかったはずのサッカーがつまらなくなり、辞めていくケースを結構見てきましたから。自分の子どもは上手くならなくても別にいいから思っています。。サッカーをずっと楽しくプレーしてほしいですね。サッカーをずっと好きでいて欲しいです。
 

■「サッカーは楽しい」と思い続けてもらうために、親は子どもの熱中度に合わせてサポートすべき

――息子さんたちにサッカーを教えることはありますか?
 
“教える”ではなく、一緒にボールを蹴ることはよくやってました。けど、細かく「ここをこうして」ということはしなかったです。ぼくはあくまでは選手であってコーチではない。もちろんコーチの資格は持っていますけど、だからといって今子どもたちのコーチではない。教えすぎると、本来の純粋にボールを蹴る楽しさや、子どもの持っている自由な感性が奪われてしまう。その辺のバランスは難しかったです。子どもが大きくなってきて、「もっと教えてほしかった」と言われることもあります。でも、教えていたら嫌になってただろうなと思うんです。「あそこをもっとああ直せ、ここも直せ」と言われたら、やはり嫌になってたんじゃないかなって。
 
――「練習に行きたくない」と言われたことはありますか?
 
何回もありますよ(笑)。基本的に天気が悪いと気分が乗らないみたいで、「行きたくない」とよく言ってました。それが、サッカーにどれだけ熱が入っているかの一つの目安というか、バロメーターとして観察してました。サッカーへの熱がどれだけ入っているか、そこに合わせてサポートしてあげたいので。あまり熱が入っていないのに、親がすごく熱心にやってしまっても結局ズレが出てしまう。子どもの熱に合わせてサポートしてあげるのがいいのかと思います。もっとサッカーに向き合って欲しいなと思うことはありますが、ぼくの人生ではないので。子どもには子どもの人生があります。自分が経験していることと比べてしまうこともあるので、そこは難しかったです。だからこそ、サッカーについてはなるべく口を出さないようにしてきました。もっともっと努力をしている子が他にたくさんいるわけで、そういう子はやはりサッカー選手として伸びて、もっと高いレベルでサッカーできる環境に行ける。本人がどこを目指しているのかを把握することが大事ですよね。まぁ、子どもはみんな「プロになりたい」と言います。でも、言うだけでなれるものではないということをどこかのタイミングで気付かせてあげなければいけないと思います。。小学校低学年だとまだそこまでわからないかもしれないですけど、高学年になるにつれ、自分よりうまい子がいることがわかり、グループの中で自分がどのくらいのレベルにいるかを少しずつ理解する。その上で自分が本当にプロになれるのか、目指すのかを考えることが大切です。もちろん、夢を持つことは大事だけど、持つだけでは意味がない。「もっとやらなきゃいけないんじゃない?」ということを伝えるタイミングも難しかったですけど、そこは息子とと話すようにしました。
 

■息子のコーチから子どもとの接し方を学んでいる

――息子さんの練習や試合はよく見に行くんですか?見ていて思うことはありますか?
 
スクールの練習の送り迎えはぼくがしています。ですから、子どもの練習はよく見ます。子どもの試合は、自分の試合と重なることが多いのでなかなか行けませんけど。子どもの練習を見るのは楽しいです。「ああ、そういう見方があるんだ」と気づかされます。育成スタッフの皆さんは、伝え方や持っていき方がうまいというか、よく勉強しているなと思います。自分の子どもに伝えることの難しさを実感しているからですかね。他のコーチが子どもに指導するのを見て、そういう伝え方があるんだな、そういう見方があるんだなと勉強になります。なにしろ、接してる子どもの数が全然違いますから。ぼくらはトップレベルでプレーしていますけど、育成の指導スタッフはずっと子どもを相手にしているわけですから。トップチームは選手もコーチングスタッフも大人同士なので共有がしやすいと思うんです。育成スタッフの場合、子どもとやりたいことを形にしていく必要があるから、コミュニケーションがすごく難しい。そういう部分は見ていてすごい勉強になります。あと、サッカー以外の部分で、「これは認められない」「これはよくない」ということに関しては、しっかりと叱ることもできるので、親として見ていて好感が持てました。
 
去年は長男の大会を観に行けました。子どもの試合を見に行った時は、妻と一緒に離れたところ声を出したりすることもなく、ぼーっと見ています。妻が時々「あぁ、惜しい」とかって言うくらい。その広島での大会は、他のJクラブのジュニアチームも来ていて、うちの子どももぼくと同じサンフレッチェのユニフォーム着て試合をしていたました。子どものがんばっている姿を見るのは嬉しいですよね。うまくいくいかないは別として、単純に嬉しい気持ちになりました。サッカーに対して熱が入っていないときも見てきているので、「今すごくサッカーがしたいんだな」「サッカーに熱が入ってるんだな」と感じて嬉しかったです。それがもっと早く来てくれたらよかったのに、と思うことはありましたけど、でもそれは親がつくってあげたらよかったのか、どうなのかはなかなか答えが出でませんよね。
 
次ページ:自分や他の子ではなく、それまでの子ども自身と比較して褒める
 

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