インタビュー
2018年6月26日
「サッカーを学んだ記憶はない」広島ユースで槙野智章が恩師・森山佳郎監督に学んだ選手として大事なこと
浦和レッズの主軸であり、今や日本代表の中心的な存在としても活躍する槙野智章選手。
前編では、年上にも物おじせず自分の意見をしっかり言えた小学生時代、「自分の好きなことを一生懸命やりなさい」と温かく見守ってくれたご両親への感謝、そして突如訪れたサッカー選手としてのターニングポイントについてお伺いしました。
FWからDFへ。新たな生きる道を見出した槙野智章選手ですが、決して自分の力だけで成長できたとは考えていません。自身のキャリアを振り返れば常に、指導者に恵まれたという感謝の想いがあります。
(取材・文:原山裕平)
(浦和レッズと日本代表の中心的存在へと成長した槙野選手)
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■森山佳郎監督に学んだのはサッカーの技術ではなく、人間的な成長の部分
「実はジュニアユースに入った頃、少しグレまして(笑)。ついつい遊んでしまったり、親に反発することもありました。もちろんサッカーは一生懸命やっていたつもりですが、ある日、小学校時代の監督に会った時、こう言われたんです。『お前の目はサッカーに真面目に向き合っている目つきじゃないね』って。自分にも思うところがあったので、その言葉でふと我に返って。そこから、もう一回サッカーに集中することができたんですが、そういうことを言ってくれる人がいることは、運が良かったですし、奇跡的な出会いだったのかなと思います」
槙野選手が出会ってきた指導者には、共通点があったと言います。それは、サッカー「だけ」を教えてくれる人たちではなかったということ。
「サッカーを通じて、様々なことを教えてくれました。人間としてどう成長し、自立していくか。厳しい指導も受けたけど、そこには愛があったのだと感じています。だから、僕はここまで来ることができたんです」
広島ユース時代に指導を受けた森山佳郎監督も、まさに「サッカー以外」を教えてくれた指導者でした。現在、U-16日本代表監督を務める森山さんは、技術以上に態度や気持ちの部分をより重視する監督だったといいます。
「サッカーのことはあまり学んだ記憶がないですね(笑)。気合いとか、メンタルとか、勝ちたい気持ちを出せとか。そういうことばかりを言われた記憶があります。感謝することや、挨拶すること、試合に勝つために良い準備をすること。ゴリさん(森山監督の愛称)には、技術ではなく、人間として成長するための大切なことを教わりました」
森山監督の言葉で最も印象に残っているのは「気持ちには引力がある」。これは広島ユースで育った多くの選手たちが、大事にしているフレーズだと言います。
「広島ユースの選手は、みんなその言葉で育ったと思いますよ。勝ちたい、点を決めたい、その気持ちが強いほうに、ボールは転がってくるし、結果は引き寄せられる。これは普段の生活にも当てはまるものだと思います。いい車に乗りたい、良い時計を持ちたい、何かをなし遂げられる人間になりたい。など、人にはいろんな願望がありますが、そう強く思った人だけが、実際にその想いを実現することができるんです」
森山監督の指導は、自身の考えを伝えるだけでなく、様々な分野で活躍した人たちをチームに招き、その経験を選手たちに伝えてもらうという手法も取っていました。
「広島ユースにはいろんな方が講義をしにきてくださいました。ボクシングの選手だったり、陸上の選手だったり、各分野で活躍された方がいろんな話をしてくれました。そのなかで、ボブスレーの選手が講義に来てくれたんですが、『自分の目標は常に見える位置に張っておきなさい』とおっしゃったんです。そこで僕は『日本を代表する選手になりたい』と紙に書いて、普段の生活で常に目に入るところに張っていました」
目標を実際に紙に書き、常に意識することが大事だと槙野選手は言います。現在、日本代表に選ばれるまでに成長できたのも、ユース時代に確かな目標を持ったことが、その要因の一つとなったのかもしれません。