インタビュー
2018年11月29日
史上初!全世代で世界一のサッカー日本女子代表 高倉麻子監督に聞いた「女子が強豪国であり続ける」理由
2018年の夏は日本女子サッカーにとって飛躍の夏になりました。
8月24日はU-20女子W杯フランス大会2018で初制覇。2011年の女子W杯、14年U-17女子W杯と合わせて、FIFA主催の女子世界大会全カテゴリーでタイトルを獲得、これは史上初の快挙です。
4月にヨルダンで開催されたAFC女子アジアカップでも優勝しており、上位5チームに与えられるW杯出場権を獲得。さらに8月31日にはアジア競技大会決勝で中国を下して優勝と、なでしこジャパンは来年の女子W杯フランス大会に向け弾みをつけるシーズンとなりました。
男子も力をつけてきたとはいえ、国際大会の結果で言えば女子サッカー日本代表はもうずっと世界のトップクラスに位置しています。どうして強豪国になれたのか。女子の強さの秘密は何か、なでしこジャパン監督の高倉麻子監督にお話を伺いました。
(取材・文:島沢優子、写真:新井賢一)
後編:"あとひと伸び"がない子に足りないものとは? なでしこジャパン高倉監督が語る、伸びる子が備えている力>>
■「何もない」時代から引き継がれてきた情熱の系譜
なでしこはなぜこんなに強いのでしょうか。
2014年のU-17女子W杯を制した「リトルなでしこ」で指揮をとり、現在のなでしこジャパンを率いる高倉麻子監督は、なでしこの強みを四つ挙げます。
技術、アジリティ、規律、そして賢さ。
「男女関係なく、日本人の特長は技術的な部分でしょう。女子は特に他国の選手よりも細やかな技術があります。また、特にスピードで秀でているわけではないけれど、すぐ近くのボールを奪いにいくアジリティ(敏捷性)に優れています。規律を守れるし、一度ミスをしても次に反省してゲームをやると、うまく修正をかけてくる。学ぶ力というか、賢さはあると思います」
これらを武器に、先人が歴史をつないできたのです。
「(女子サッカーの)スタートが他国に遅れなかったこともプラスになった。国内リーグも時に苦しみながらも、何とかつないできました」
女子は男子に61年遅れること1991年、第1回W杯が中国で開催されました。日本は初回から7回連続で出場しており、第2回スウェーデン大会で初めて予選リーグを突破して8強に進出。以来、優勝1回、準優勝1回の紛れもない女子サッカー強豪国です。
高倉監督は第1回、第2回女子W杯に選手として出場。女子サッカーの創成期からその歴史を紡いできたひとりでもあります。
「本当に何もない時代。純粋にサッカーが上手くなりたい。レベルアップしたい、という思いだけで、がむしゃらに頑張ってきたことが礎を築いたと思います。それなしで今の(日本の)栄光はないでしょう」と脈々と引き継がれてきた情熱の系譜を振り返ります。
プロになりたい、海外で活躍したいというような野望ではなく、サッカーを追究したい一心で頑張れたと語る高倉監督。監督自身、中学以降は福島市内の自宅から東京のチームに通う生活を大学生になるまで続けていたそうです。当時は気軽にボールを蹴る場さえないような環境。言葉通り、何もない時代。代表合宿や遠征の費用は一部自己負担だったと教えてくれました。
■海外の監督が「日本の選手を指導してみたい」と絶賛する理由
そんな環境を乗り越えてきた監督が、今の選手に物足りなさを感じるのが「自己主張しない」ことだそうです。
「指示待ちと言うか、教えられ慣れているというか。日本の教育が一方通行だからでしょうか。でも、私たちの世代だって一斉教育ですから同じですね。でも、私たちの世代のほうが、まだ主張していましたよ」
勝ちたくないの? と、感情を揺さぶるような言葉を投げかけないと心を動かさない選手たち。情熱は確かにあるはずなのに、表に出さない。恥ずかしいのか、なかなかそれを表現できない選手が増えているなと感じているそうです。
「おーい!もしもーし!やる気ある? みたいな感じになることもありますね。やるのは私じゃないよ、あなたたちの試合だから、と言うこともあります」
この「主張しない若年層問題」は男子でも聞きますが、女子は男子よりも核になる年齢層がより低いため目につくのかもしれません。育成年代では、ミスするとベンチを見る選手もいます。
「そんなときは、『さあ? 私に聞かれても知らないよ』ってジェスチャーをしていましたね」と、自分で考えさせる工夫をしていたのだそう。
そして、最近の子どもたちは自己主張しないため、強烈なリーダーシップをもつ選手もいないと言います。
「リーダーになれる選手はすごく少ない。ですが、彼女たちはチームにそれが必要な状況が来ればやるんですよね」
しかし、そうなるまでは「私は向いてません」と避けることが多いそうです。日本人の気質なのか......と苦笑する高倉監督。
逆に、欧米の選手は自己主張が強いことが指導者の悩みの種になることもあるそうです。
「私が、私がとみんなが前に出たがるので、チームプレーができない」と米国を率いるコーチは嘆くと言います。
「私はそんな選手がいることがうらやましいと思っていますけどね。ここぞというときに『私がやってやる』という我の強さ、個の強さみたいなものも必要ですから」
そんなお国柄が出るのがスポーツの面白さですが、なでしこたちはおしなべて海外のコーチから非常に評価が高いそうです。その理由は、日本人の特性にありました。
「日本人は協調性があっていいよね。規律も守るし。アサコがうらやましい」とアフリカのある代表のコーチは真顔で話したそうです。アフリカでは練習時間になっても誰も来ないこともあるため、サッカーのスキルの前に、時間通りに練習に来る日本人選手を高く評価しているのだとか。
そんな面からも、真面目で勤勉、技術も高くて、よく頑張る日本の選手は人気者だそう。
「海外のコーチはみんな、日本選手の指導をしてみたいと言いますね」(笑)
一方の高倉監督は、海外選手の体格の良さがうらやましいと言います。
「アメリカなんかは第4キーパーまで180センチ台ですから。まあ、ないものねだりをしても仕方ありませんけどね」
しかしながら、そういった高身長で運動能力のある子どもが日本にいないわけではありません。バスケットボールやバレーボールに確保されているのも事実です。なでしこジャパン同様、両競技の日本女子は世界のトップレベルにあります。
■アメリカの1/30なのに肩を並べるなでしこの凄さをもっと知ってほしい
男子と違って早熟な女子は、小中学校である程度身長が伸びてしまうため、背の高さが有利なスポーツを選びがちです。
「脚でやるスポーツはまだ独特ですね。ただ、育成年代に170センチ台のプレーヤーが出てきているので、いい傾向だと思っています。なにしろ、すそ野はバレー、バスケの歴史には届きませんから」
そもそも、女子サッカーの世界でも、日本の競技人口は非常に少ないのです。日本は5万人弱ですが、米国は160万人(日本の30倍以上)。ドイツが100万人でオランダは60万人も女子サッカー選手がいて、切磋琢磨しており、その中から代表に選出されるのです。
「こんな小さなすそ野で、小さな体で頑張っているなでしこたちをほめてあげてほしい。彼女たちもまだまだ足りない部分はあるけれど、もっと成長できると思います。読者の皆さんも、女子が男子チームに入ってきたら温かく迎えてあげてほしいし、女子チームも増えてほしいと願っています」
後編は『高倉監督の育成論~インテリジェンスを育てることを意識してほしい』をお送りします。