インタビュー
2019年2月12日
「まだ上手くなりたい」プロ23年目、中村俊輔を支えるモチベーションはどこから来るのか/インタビュー前編
元日本代表の10番で日本屈指のMF、その左足でファンを魅了するプレーを見せ続けてきた中村俊輔選手。現在所属するジュビロ磐田では、2018シーズンはケガにも悩まされて苦しいシーズンを過ごしましたが、それでもなおサッカーへの熱い気持ちは冷めることはありません。
そんな中村選手は、子どものころの経験が今でもなお生きていることが多く、その経験があったからこそ今の自分が存在すると言います。その貴重なインタビューをお届けします。
サッカー選手として大ベテランとなる現在40歳の中村選手ですが、ジュビロ磐田の練習場では誰よりも遅くまでボールを蹴っている光景が見受けられます。その高い向上意欲の裏にあるのは、少年時代のある先生との出会いがきっかけだと言います。
(取材・文:森亮太、写真:兼子愼一郎)
■本当に使える技術はしっかりした基盤が無いと身につかない
「向上意欲や上手くなりたいという気持ちは、まだまだ大きいです。特に誰かに負けたくないという気持ちは、小学生の頃に出会った先生の指導が大きかったです。その先生に幼稚園から小学校6年生まで教わっていましたが、その期間が本当に良かったと思っています」
その先生とは、幼稚園で体操クラブを教えていた体育の若林先生。運動だけでなくサッカーも教わったそうです。そして昔ながらの指導方針が当時の自分と合っていたのだと教えてくれました。
「若林先生は、すごく厳しくて、顔にボールが当たって鼻血が出ても『そのくらい大丈夫だろう』という昔ながらの指導者でした。だけど当時の自分にはそのような指導方針が合っていたと思います。指導者は、親とは違う距離感で接しますし、一生のうちで数年間関わるからこそ、自分に合う指導者との出会いは大事だなと思っています。特に、サッカーを始めたばかりの幼少期の指導者は重要です。サッカーと人生を良く知っている方が良いと思いますが、自分にとっては若林先生のもとでサッカーをしていたその期間が本当に良かったなと今でも思っています」
日本でも有数の技術力を誇る中村選手ですが、その技術を身につけるために必要なのは、決して恵まれた練習環境でなくとも、しっかりと土台となる基礎を積み上げることだと言います。
「若林先生に指導してもらっていた当時、サッカーの練習場が、幼稚園のグラウンドだったんです。そのグラウンドを小学校6年生まで使っていました。幼稚園の運動スペースなので、小学生には小さいんだけど、それがすごく良かったと思っています。幼稚園の園児から小学6年生までが同じ場所で練習をするから、グラウンドが空くまでの時間にピッチサイドとか空いているエリアでアップとして遊具を使いながら練習していました。地面に半分埋められたタイヤの遊具を使って股抜きを練習したり、狭いからこそたくさんボールに触れましたし、技術の習得だけでなく小さい子どもたちにボールをぶつけないように配慮することも身についたと思います」
と、サッカーのスキルだけでなく周囲を見ること、思いやりも学んだと明かしてくれました。また、自分たちの番になるまで待つ間は、足裏でボールを転がす動きをよくしていたとも。
「そういう基礎練習の時間がすごく長かったです。小さい時だからこそやっていた練習って、誰しも絶対にあると思うんです。サッカーを始めたばかりのころに基礎練習を長くやることはすごく大事だと思います。
基礎練習は地味でつまらないですが、自分の場合は待ち時間に足裏を使ってボールを触っていたのは、その後のボールコントロールの習得につながっています。足裏の感覚はサッカー選手にとって大切です。
少年サッカーのスクール練習等では、ラダートレーニングなどいかにも『トレーニングしています』感が出るので見学している親御さんにも喜ばれると思うのですが、ラダートレーニングもなんとなくやっているだけでは、サッカーではなく『ラダートレーニングが得意な子』にしかなれません。一見何の役に立つか分からない地味な基礎練習が、後の華麗なテクニックにつながることを理解してほしいですね。
本当に使える技術は、その年代に合った基礎があって上積みされるものなので、当時基礎練習をたくさんやらされたことは、すごく良かったと思っています」
■実は体操クラブに所属。サッカー以外の経験がサッカー上達に役立った
最近は、早期専門教育の弊害で運動機能が低下している子どもが増えているそうです。サッカーを上達するためには、サッカーだけをすれば良い。その考え方は、決して正解ではないようです。
中村選手は、子どもの頃から運動神経が良かったそうですが、その背景にあったのが体操クラブに通っていたことだと言います。
「今思えば、体操クラブに入っていたこともすごく良かったかもしれません。学校の体育もすごく得意でした。サッカー以外の球技だけでなく、鉄棒やマット運動など全般です。体操を習っていたから、逆に学校の授業のマット運動とかも物足りなくて......(笑)。運動神経を養う1つとして、体操をしていたことは、すごく良かったかもしれません。自分の身体を思い通りに動かせるのはサッカーの上達にも役立ったと思います」
■ユースに上がれなかった経験が「努力の仕方」を身につけるきっかけに
日韓W杯の時には、直前で23人のメンバーから外れるなど決して中村選手のサッカー人生は、順風満帆ではありませんでした。多くの挫折を経験し、その壁を乗り越えてきたからこそ、今の中村選手が存在します。
中学時代に横浜F・マリノスジュニアユースに所属していた中村俊輔選手は、中学から高校へ上る時にユースに上がれず、大きな挫折を経験したことは有名な話ですが、その経験が自身をさらに成長させたと話します。
「中学3年生の時に急に試合に出られなくなって、不貞腐れてしまいました。練習もつまらないし、監督からも何ひとつアドバイスもなく野放しにされていました。自分としては2年生までは普通に試合に出ていたし、『自分のサッカーは間違っていない』みたいな意地もありました。
ユースに上がれないこともわかり、進路が決まるまでの3〜4か月間は、ひたすら自宅の裏でサッカーに打ち込んでいました。後になって分かったのですが、監督やコーチはあえて何も言わず、自分で気付くのを待っていたそうです。両親も特に何も言いませんでした。そんな数か月を過ごすうちに少し気持ちが晴れて、進学先の高校では環境が変わってゼロからのスタートという気持ちではなく、マイナスからのスタートだという気持ちを持っていました。
ただ入学したら、クラブチームでは経験したことのない、ボール磨きなど雑用をさせられる毎日で、『来るところを間違えた』と正直思いました(笑)。
ですが、中学の時と同じ失敗を繰り返しちゃいけないというのが自分の中にはありました。
はじめて経験した部活動では、練習時間の中で下級生がボールに触れる時間が少なかったんです。だから自主練は、欠かさずにやっていました。そこで努力の仕方を覚えて、『どうやったら自分が上手くなれるのか』という自分のプロデュースの仕方を見つけました」
■当時は嫌で恥ずかしかったけど「感謝しかない」父の行動
親御さんのサポートもまた中村選手のサッカー人生において、大きな役割を担っていました。ただご両親からのアドバイスを受けることは、ほとんどなかったそうです。
「親からは何も言われたことはありません。父は、試合に来てもずっと試合のビデオを撮影していました。当時はそれが嫌で、恥ずかしかったんですが、今思えば感謝しかありません。
あるとき、父がそのビデオを見ているときに、自分も一緒になってそのビデオを見ました。そうしたら自分のプレーを見て『けっこう出来てるじゃん』と思ったんです。『このプレーいいな』とか、『もっと上手くなってまた見たいな』という欲が湧いてくるようになりました。それがきっかけとなり、自分のプレーを分析することを小学生の時からやっていました」
中村選手のサッカー人生において、恩師とも言える指導者との出会いや親のサポートが成長する上で欠かせないことだったということが分かりました。
時には大きな挫折も経験しましたが、その時も周りで見守ってくれる人がいたからこそ、自分の過ちに気づくこともできました。だからこそ指導者や親の存在の大きさを誰よりも日頃から感じています。
後編では現在は5児の父でもある中村選手が感じている指導論や教育論について、お届け致します。
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★2/19 中村選手の本が発売されます!!
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「サッカーは、ゴール以外"も"おもしろい」
戦術・個人技・セットプレーまで――日本サッカー界の至宝が徹底解説。
「現代サッカーをより深く、より熱く楽しむための方法論を伝えたい。
今回、その想いを書籍という形で一冊にまとめた。
40歳になった今も現役でプレーしているから企業秘密にしたいこともあるけれど、できるだけ隠さず話すので、参考にしてサッカーをさらに楽しんでもらえたらうれしい
―「はじめに」より
■内容
第1章 中盤を制する者がゲームを制す
―「トップ下」の観戦術―
第2章 「戦術」からサッカーを読み解く
―「戦術」的な観戦術―
第3章 ピッチを彩る個の力
―「個」の観戦術―
第4章 セットプレーはパッケージで楽しむ
―「セットプレー」の観戦術―
第5章 観戦方法についての考察
―「スタジアム」&「映像」での観戦術―
巻末特典 記憶に残る5ゲーム
https://www.sakaiku.jp/column/interview/2019/013945.html