インタビュー
2020年7月 6日
技術だけじゃない! プレミアリーグ、イングランドサッカー協会のベテランスカウトが教えるU-13世代のスカウト基準とは
スカウトの人って選手のどこを見ているの? 身体が大きくて速いと有利なんでしょう? など、スカウトの人が何を見て判断するのか気になる親御さんも多いのでは。
今回は、世界最高峰のリーグ、イングランドプレミアリーグのトッテナム・ホットスパーFCやイングランドサッカー協会でスカウト部門のトップとして育成年代の発掘に関わってきたベテランスカウト、リチャード・アレン氏に「U-13世代をスカウトする時に見るポイント」を伺いました。(取材・文・写真:末弘健太/BAREFOOT)
後編:プレミアリーグのベテランスカウトに聞く、サッカーを頑張りたい子どものモチベーションを下げないための注意点>>
■「成長速度の違い」も見ている
――U‐13世代をスカウティングする際に何を見ますか?
スカウティングといってもファンデーション・フェーズ(5~11歳)とU‐13では少し見るものが変わってきます。U‐12、U‐13からは少しずつ、その選手が攻撃的な選手なのか守備的な選手なのかわかってきます。最終的にどこのポジションがその選手にとってベストかはその時点ではわかりませんが、どこが強みでどこが改善点なのかわかってきます。
ただし、この年代の選手を見る上で気を付けなければいけないことは、選手それぞれで成長の速度が違うということです。
思春期が訪れる頃に、身体的な機能は一気に発達していきます。
12、13歳の選手でも15、16歳に見える選手もいますし、9歳くらいにしか見えない選手もいます。これによってもちろん身体能力に差が出てきてしまいます。
なので、その場のパフォーマンスの出来で評価するのではなく、選手のポテンシャルを見てあげることが大切です。チームの中で非常に速くて強い選手がいたとしても、もしかしたらそれは彼がチーム内で月齢が一番高いだけかもしれません。
この年代の選手をスカウティングをする上で、この点は必ず気を付けなければいけない点です。
――では、その一時のパフォーマンスの良し悪しよりも、ポテンシャルを秘めていることの方が大切ということですよね?
そうですね。
私はその選手のプレーの意図を見るようにしています。
例えばある選手がパスを出したとします。その判断は良いものでしたが、身体能力的にパスが通らないことがあるかと思います。30mのパスを出したかったとしても、15mもしくは20mにしか届かなかったということです。
そのような時、指導者の方は選手にしっかりと自信を持たせてあげることが必要ですね。パスは届かなかったけど、プレーの意図は良かったと。
たとえその場面でのプレーがうまくいかなくても、その選手が正しいプレーをしようとしていれば、私はそれを評価します。
■技術面だけではない、スカウトが見る「ポテンシャル」の内容
――ポテンシャルがある選手というのはどのように見分けていますか? 良い意図のあるプレーをしている選手がポテンシャルがある選手ということでしょうか?
もちろん良い意図のあるプレーをすることは大切ですが、最終的には全ての要素が揃わなければ良い選手とは言えません。
技術的な能力が高いことも大切です。ゴールデンエイジと言われる時期には技術的な能力が一気に向上します。そしてそれは11vs11の中でゲームの理解度を向上させなければいけない年代になっても伸び続けます。
ただし、最終的には技術的の能力に加え、ゲーム理解度と身体能力がうまく相互的に作用してプレーすることになります。そしてそれが自動的に(自然と)できないといけません。
あなたが技術的に素晴らしいとしても、身体の成長が追い付いていなくてうまくプレーできないということもありますし、反対にとてもうまくプレーできても、それは身体の成長が周りの選手より早いからということもあり得ます。もちろん、そういう選手は技術的にも優れていて、身体能力も高いという可能性もありますが。
この辺りの判断は難しく、スカウトの人間も時々見落とすことがあります。
プロの世界では19、20、21歳で素晴らしいプレーをする選手がいますが、彼らが必ずしもU‐13の時に素晴らしい選手だったとは限りません。
だから今チームの中でベストイレブンに入っていなくても、将来的にベストイレブンに入ってくる可能性は大いにあります。多くのことは変わっていくのです。
――あなたはプレミアリーグ・トッテナム・ホットスパーなどのプロクラブで指導者としての長いご経験がありますが、U‐13の選手をスカウトをする上で大切にしていることはありますか?
上記の通り、やはりまずはポテンシャルがあるかどうか、成長の余地があるかどうかが大きなポイントとなります。クラブが求める能力まで伸びる可能性があるのか。
スカウトによっては、身体能力などの特徴がある選手を見る人もいます。例えば、思春期に入る前でもずば抜けて素早い選手がいるとして、おそらくその選手は思春期後もずば抜けて素早いのは変わらないだろうと思います。
私個人的には技術的な能力を重要視します。
もちろん現時点で技術的にパーフェクトである必要はなく、技術的に伸びる要素があることが大切です。
私はとにかく1に技術2に技術3に技術です。
もちろん最終的にはゲーム理解度や戦術理解度も高める必要があり、身体的な特徴も少なくとも1つ2つは最低ないとプロの世界では戦っていけませんが。
あと、この年代を見るうえで大事にしていることといえば、人/選手としての言動や人間性です。社会性や精神的な部分ですね。
選手はU‐13の時期でもこのような能力を培います。もちろんこの時点で精神的に成熟しきっている必要はありません。ただし、良いメンタリティを持っているとスカウトに感じさせることは大切です。「もっとうまくなりたい」「もっと学びたい」というような強い気持ちをもち、集中して一生懸命練習している選手は、やはり目にとまります。
もちろんまだ若く発展途上なので、先ほど話したようにU‐13時点でパーフェクトである必要はなく、例えば感情のコントロールをうまくできない選手もよくいます。
でもこれは技術的な要素と同じで、例えばヘディングの技術がそこまで高くない選手がいます。でもそれは、ヘディングの方法を教わってしっかり練習すれば改善されるのと同様に、精神的な部分も経験を積めば成長していきます。
とても強いウィニング・メンタリティを持っている選手で、時に感情のコントロールをうまくできずレッドカードを貰って退場することがあります。
イングランドの選手ではベッカムだってW杯で退場したし、ルーニーだって退場しました。多くの選手がやってしまいます。
でも彼らが成長するにつれて、その課題に対して上手く向き合えるようになりました。
■クラブごとに「良い選手」は異なる
――各クラブにクラブ哲学があるかと思いますが、それはスカウトする際に影響を与えますか?
全てのクラブにクラブ哲学があるかと思います。スカウトをする上で、クラブのニーズと選手のクオリティをマッチングさせることは非常に重要です。
あるクラブは1on1に強く、ボールをうまく扱える選手を好むとします。ファーストタッチの質、オンザボール、オフザボールでの色々な動き方ができるという技術的な要素ですね。
反対に、あるクラブはとにかく身体能力が大切だと考えていて、たくさん走れてロングボールをバシバシ蹴れる能力などにフォーカスしていて、技術的な側面はあまり必要ないと感じています。
このようなクラブ哲学を基に、クラブがどのような選手を求めているか明確にすることはスカウトをする上で非常に重要です。
どのクラブも同じようなタイプの選手を探しているわけではありません。ロンドンの中でも、トットナムが求めている選手はチェルシーが求めている選手とは異なります。どのクラブも良い選手を探していることには間違いありませんが、その「良い選手」のニュアンスがそれぞれによって異なり、チェルシー、ウェストハム、フルハム、アーセナル、トットナムが求めている選手というのは全て異なります。
リチャード氏の言うように、クラブの哲学、その時志向するスタイルなどによって「良い選手」が異なるのです。セレクションなどを受けて合格できなかったとしても、それは良い選手ではなかったからではないのです。
そのクラブがその時求める条件に合ってなかっただけなので、結果に一喜一憂せず技術やメンタルを磨くことで選手として成長することができるということを心に刻んでお子さんをサポートしてあげてください。
後編では、子どもの夢をサポートするために親はどうすればいいかをお送りします。
後編:プレミアリーグのベテランスカウトに聞く、サッカーを頑張りたい子どものモチベーションを下げないための注意点>>
Ricard Allen(リチャード・アレン)
トッテナム・ホットスパーで6年間アカデミーのスカウティング部門の最高責任者を任され、ヨーロッパサッカー協会連合 (UEFA) やイングランドサッカー協会 (The FA) が開催するジュニアユースとユースのすべての大会で様々な国のトップクラブを視察。the FA Talent Identification in Footballコース (才能あるサッカー選手の選考) を欧州各国のプロフェッショナルクラブで開催し、スカウティングについての講義も開催。現在はラフバラ大学サッカー部門 ダイレクターを務めている。