インタビュー
2021年6月26日
興國高校サッカー部も導入する「知の育成」。選手の問題解決力を養うエコノメソッドとは?
2011年に発売され、のべ1万人以上が学んだ「知のサッカー」。DVDを監修したエコノメソッド(サッカーサービス)が日本サッカーに関わり、2021年で10年になる。エコノメソッドを日本に呼び、彼らのメソッドを広めるきっかけを作ったのが、アメージングスポーツラボジャパンの浜田満氏(奈良クラブ代表兼任)だ。
バルサキャンプを日本に招聘し、ジュニアサッカーワールドチャレンジを主催するなど、日本サッカーの育成にパラダイムシフトを起こした浜田氏に、エコノメソッドの活動について話を聞いた。(取材・文:鈴木智之)
■ブラックボックスだった育成ノウハウを体系化
――『知のサッカー』の普及に伴い、「認知・判断・実行」という言葉が盛んに聞かれるようになりました。いまでは当たり前のように使われていますが、プレーのプロセスを言語化する、体系的に指導を行うという部分において、彼らのメソッドは画期的でした。
それまでの日本サッカーにはなかった教材で、バイブル的な感じはありますよね。「認知・判断・実行」は、サッカー以外のスポーツの現場でも聞くようになりましたし。うちの会社(アメージングスポーツラボジャパン)は2007年から「バルサキャンプ」を日本で開催していますが、それまでバルサもエコノメソッドも、外に向けてノウハウを公開していなかったんです。
――たしかに、バルサキャンプが日本に来るまで、彼らがどのようにトレーニングをしているかを知る機会はありませんでした。
バルサのコーチが日本に来て、ボールポゼッションや体の向き、状況判断の重要性などを伝えてくれましたが、そのベースを作ったのが、かつてバルサのカンテラ(育成組織)にいた、エコノメソッドのコーチたちですからね。それを体系化して伝えたのが「知のサッカー」です。
■興國高校とパートナーシップを結ぶ「エコノメソッド」
――知のサッカーが発売になったのが、2011年。あれから10年が経ち、日本の育成年代を見ると、上のレベルはかなり上がって来た印象です。
僕もそう思います。10年経って、バルサキャンプやバルサスクール、エコノメソッドが関わった選手たちが、年代別代表やA代表にも結構います。興國高校の内野智章監督は、エコノメソッドが日本で活動を始めた頃から「これはすごい!」と評価してくれて、2016年にエコノメソッドとパートナーシップを結んでいます。近年、興國からたくさんのプロ選手が出ていますが、少しは貢献できたのかなと思っています。
――興國とエコノメソッドのパートナーシップでは、どのようなことをしているのですか?
1年生を月に2回、エコノメソッドのコーチが指導しています。内野監督は「エコノメソッドの指導は整理されているので、戦術的に未発達の1年生もわかりやすい」と言ってくれています。具体的になにをしているかというと、内野監督の方針もあって、個人戦術の指導を結構します。個人が身につけるべき学びにしっかり取り組んでいるのも、興國からプロがあれだけ出ている要因のひとつかなと思います。また、過去にはプレー分析プログラムなども行ったことがあります。
■個人戦術の指導が、選手の問題解決力を養う
――エコノメソッドのフランコーチも言っていましたが、プロになりたい、上のレベルでプレーしたい選手にとって、個人戦術の習得は必須ですね。
個人戦術を身につけることで、プレー中の問題解決力が養われるんです。僕はプロになる選手を何人も見てきましたが、彼らに共通するのは、試合中に起きている問題を発見する力があり、それを解決できる選手であるということ。常に向上心を持って、課題に取り組む選手、素直に周囲のアドバイスを聞ける選手は伸びますね。
たとえば、ボールを受ける前のプレーに改善の余地がある選手にアドバイスをしたとしても、それを聞き入れて取り組む選手と「そんなことしなくても、俺はドリブルで抜けるから」と言ってなにもしない選手では、成長率が明らかに違います。
(写真:森田将義)
――エコノメソッドはゲーム理解からアプローチするので、実際の試合に活きるトレーニングになっています。
エコノのコーチは優秀ですよ。山梨のアメージングアカデミーのコーチ陣は「エコノメソッドを学びたい」という理由で、転職して来てくる人がほとんどです。奈良クラブの選手の中にも「将来、指導者になりたい。エコノメソッドを学びたいので、奈良クラブでプレーしたい」と言って来ている選手もいます。
――それは、いままでにないチーム選びの理由ですね。
エコノのコーチも言っていますが、彼らの考えやメソッドが絶対的な正解ではありません。ひとつの考え方です。ただ彼らの指導を見たり、メソッドを知ることで、自分の指導を振り返るきっかけにはなると思います。それで、これはいいと思ったら、取り入れればいいわけで。
■日本のサッカー関係者に与えた「腹落ち感」
――エコノメソッドが日本に来た2010年頃は「ペップ・バルサ」が一時代を築いていました。サッカーのトレンド、時代の流れとマッチした感があります。それも、ここまでエコノメソッドが広まった要因のひとつではないですか?
これは僕の捉え方ですが、バルサキャンプが日本に来て、エコノメソッドの『知のサッカー』があってという流れで、スペインから入って来たものに対して、日本のサッカー関係者に「腹落ち感」があったと思うんです。そこに「認知・判断・実行」というキーワードも相まって、日本の指導者が見て、これは納得できるなって思えた。内容も確かなものだったので、真似する人も出てきました。
それをベースに、もっと学びたい人はスペインにコーチ留学して、日本に戻って教える人も出てきました。それがあって、昨今言われている「ゲームモデル」についても、理解しやすくなったと思うんです。
――たしかに、体系立てて学ぶことや、サッカーに必要なグローバルトレーニングを飛ばして、ゲームモデルについて理解しろと言われても難しいです。
その土台があるから、ゲームモデルの理解もしやすくなると思います。この10年でトップレベルの指導はだいぶ変わりましたよね。U-24代表を見てもみんなうまいですし、A代表も明らかに強くなっています。
2010年に初めて、エコノのコーチたちと話をして、これを日本でやりましょうと言ったときのことはいまでも覚えています。衝撃的でした。まるで宝物に出会ったかのようにね。バルサキャンプも14年、エコノメソッドも10年継続していますから。
■指導者としての成長スピードを高めたいなら
――最近はJクラブで指揮を執るスペイン人の存在感も高まってきました。
浦和のリカルド・ロドリゲス、バルサのカンテラで責任者を務めていた、アルビレックス新潟のアルベルト・プッチ。清水のロティーナの片腕、イバンはかつてバルサスクール福岡のコーチでした。日本サッカーに関わっているスペイン人が、スペインサッカーを継続して広げてくれるのは大きいと思います。
――最後に、エコノメソッド、知のサッカーの10年を振り返って、どんな感想を持っていますか?
エコノメソッドを日本に紹介したことは、日本サッカーの成長スピードを上げるのに、一役買ったのではないかなと思っています。日本サッカーに足りない要素、必要な要素にアプローチできるメソッドだと思っているので、新たな価値観を知りたい、指導をレベルアップさせたいと感じている人は、一度エコノメソッドや知のサッカーに触れてほしいです。なにかしらの気づきが得られるのは間違いないと思います。