インタビュー
2021年9月 8日
J通算220ゴール、稀代のストライカー佐藤寿人が語る世界で活躍するストライカーの共通点
Jリーグ歴代最多得点を持つ稀代のストライカーは誰よりも貪欲のゴールを目指し、努力を重ねてきました。21年間で積み上げたゴールは220。中学3年生の時に2列目へコンバートされても諦めず、練習後は照明が消えるまでシュートを撃ち続けました。
多くのゴールを決められたのも、日々の積み重ねがあったからです。昨季限りで現役を退いた佐藤寿人氏はどのような幼少期を経て、Jリーグの歴史に名を残すストライカーになったのでしょうか。
柏レイソルなどで活躍をした長谷川太郎氏が代表を務める一般社団法人TREが主催した"TRE2030 STRIKER PROJECT"の各ACADEMY(ストライカーアカデミー・TRE.Lab・朝TRE・ゴールスキルサーキット)の「SPECIALストライカークリニック」に参加した際に、お話をお伺いしました。
ご自身の幼少期を振り返りつつ、子どもたちに伝えたかったことは何か。前編と後編に分けてお伝えします。
(取材・文・写真:松尾祐希)
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■もっとゴールを奪いたい、その欲があったから厳しいトレーニングに向き合えた
――以前、双子の兄である佐藤勇人氏と千葉で監督を務めた江尻篤彦氏にお話を聞いた際に、向上心がすごかったという話をされていました。改めて、ご自身の現役生活を振りかっていかがでしたでしょうか。
成長したいという欲がなければ、21年もプロサッカー選手はできませんでした。ジェフ千葉に所属していた昨季も「もっと上手くなりたい」と思って取り組んでいましたし、むしろ「まだまだ下手だな」と思ったぐらいです。
(上手くなりたいという想いは)現役から離れる時まで常に持っていましたし、今でもその想いは少しあります(笑)。引退後の現在でもシュートを打つと、「もっと上手くできるかな」と思うんです。
現在は、プロとして結果を残さなければいけない立場ではないので、そこはもう少し楽しんでやっています。自分は子どもの頃から「上手い」と言われていたわけではなかったので、常に「もっと上手くなりたい」と思って練習に取り組んできました。
もっとゴールを奪いたい。その欲があったからこそ、厳しいトレーニングに向き合えたと思っています。
■昔から「自分で決めたい」という気持ちが強かった
――元々、佐藤さんはFWとしてゴールに拘るメンタリティーをお持ちだったのでしょうか?
昔からゴールに拘るメンタリティーを持っていて、自分で決めたい気持ちが強かったです。(中盤をやっていた際に)自らFWをやりたいという意思表示をしました。
普通に考えたら、身体が小さい選手で得点もあまり取っていなかったので、指導者からすれば2列目をやった方がというのはごく真っ当な意見だと思います。育成年代の時も2列目をそのままやっていたら、プロにもなっていなかったのではないでしょうか。
――逆に言えば、170cmの身長だったからこそ、駆け引きやゴールを奪う術などFWとして生きていく武器を身に付けられたとも言えますよね。
そうですね。185cmや190cmの身長があれば、「このままでも十分できる」と思ってプレーを考えず、相手を外すような動きを覚えなかったと思います。
身体がある程度大きな子は考えることを止めてしまう傾向が少なからずあるので、指導者もアプローチを変えていかないといけません。なので、子どもたちには常に刺激を与えるべきではないでしょうか。
できる世界からできない世界に入れてあげる。できる世界に居続けると考えることを止めてしまうので、できない世界に入れて考える場を与えたほうがいいと思います。
■国内外問わず、得点を重ねているストライカーの共通点
――今回のトレーニングで子どもたちに伝えたかったことを教えてください。
ストライカーに限ったことではありませんが、ストライカーの視点として、プレーの答えを選手自身が持つべきだと考えています。特に判断ではそうあるべきです。
それ以外の部分でも育成年代ではプレーの判断をするために考え方を整理してあげたり、アイデアを与えることも必要ですが、最終的な判断はピッチに立っている選手自身でしなければいけません。
上のレベルになっていけば、それこそプロの世界では一人で勝負をします。なので、選手自身が判断をしないといけないのです。特にストライカーの選手はそれが顕著になっていきます。
そういう意味で、自分で考えるトレーニングから土台を作ってあげたいなと思っています。自分で状況を判断し、持っている技術を発揮できるか。そこからいかにゴールを奪うか。そこをトレーニングで落とし込んで作っていきたいですね。
――今回のトレーニングを見ていても佐藤さんが意図を伝えた後は、選手たちが自分自身で考えられるようなアプローチをされていました。
そうですね。基本は自分で考えること。低学年と高学年の2グループで指導をさせてもらった中で、上の年齢でもプロでも同じなのですが、シュートを打つ前は身体の向きを作り、いろんな情報を目から得なければいけません。
国内、海外問わず、得点を重ねているストライカーの共通点は常に良い準備ができていることにあります。より良い準備状態をどう作っていくか。そのトレーニングをやらないといけません。
今回の練習メニューは僕自身が現役時代に行っていたメニューでもあります。それを少し微調整し、子どもたちに伝わるような形にアレンジをしました。事前に文字に起こしてトレーニングの準備をしましたが、練習中は準備したものを見ながらやるわけにはいきません。事前に頭に入れておかないと、その場に応じて指導はできません。
子どもたちの状況を見ながら、実際のプレーを踏まえて調整をしてあげないといけないのでそこは注力していました。
■サッカーの楽しさをいかに感じてもらえるか
――以前は「僕は現役選手で教える立場ではないから難しいところがある」とお話されていましたが、現役を引退されて目線が変わった点はありますか?
現役時代と考え方が変わりましたし、見方も変わったと思います。現役時代と比べ、引退してからは教える機会が増えました。もちろん指導の勉強をしていますし、特に自分の三男は5歳なので、5歳の子にいかに伝えられるかというのはよく考えます。
(なので、三男とボールを蹴る時は)サッカーの楽しさをいかに感じてもらえるか、その上でボールフィーリングも少しでも感じてもらえるように心掛けています。
――選手目線から指導者の目線に変わってきたということでしょうか。
そうですね。選手は選手でしかないので、引退後は指導者目線で見るようになりました。選教える側になって間もないので、僕自身ももっと学ばないといけないと感じています。
■世界のスピードと日本の成長速度をどう縮めていくかが今後の課題
――引退したばかりで子どもたちに触れる時間がまだ多くないとは思いますが、ご自身の幼少期と比べて今の子の違いは感じますか?
今の子どもたちは環境に恵まれていて、良いプレーをしていると感じています。技術的にも上手くなっている印象があります。ただ、より成長を促すために刺激を与えないといけないのも事実です。成長するために世界は進化を続けているので、世界のスピードと日本の成長速度をどう縮めていくかが今後の課題かもしれません。
――日本の子どもたちを見ていると、臨機応変に対応できない子が多い印象があります。そこはどうですか?
もちろん日本の子は良い環境でやっているので、そこは難しいところですね。常に悪い環境でやらせれば良いわけでもないので、いろんな環境を体感させることが大事かもしれません。育成年代であれば、いろんな経験をしていくことが大事だと思います。