インタビュー

2022年3月10日

一人ひとりの力を付けて違いを出せる選手に。チビリンピック王者のオオタFCが大切にする育成の指導法

2022年1月に開催された「チビリンピック2021 JA全農杯 全国小学生選抜サッカー選手権決勝大会」で優勝を果たした、オオタFC(岡山県)。技術に優れた選手を揃え、攻撃的なサッカーで鮮烈な印象を残した。

チームを率いるのが、オオタFCの今井大悟コーチだ。カターレ富山などでプレーした元Jリーガーの今井大悟コーチに、育成についての考えを聞いた。(取材・文:鈴木智之/写真:日刊スポーツ)

(※COACH UNITEDからの転載記事になります)

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一人ひとりの力をつけること日々の練習から追求

チビリンピック決勝戦で4対0の大差で勝利し、初優勝を遂げたオオタFC。特徴的だったのが、個の強さを生かした攻撃とグループ戦術の融合だ。個人が突破を仕掛けるとともに、周囲の選手が絡みながら波状攻撃を仕掛け、4試合で8ゴールをマークした。

今井コーチはこの学年が小学1年生の頃から、6年間指導している。

「この学年は、ありがたいことに最初から最後まで見させてもらうことができました。その中で大切にしてきたのが、一人ひとりの力をつけること。一人でできることを増やし、自分のところで違いを出せる選手がどれだけいるか。そこはトレーニングで追求してきました」

具体的には「相手選手と距離が近く、スペースがない中で、ボールを持ちながらどれだけ顔が上がるか」という部分だ。「日々の取り組みがすべて」と語る今井コーチは「後ろ向きから前向きに体勢を変えても、相手にボールを触らせないとか、そういうところが出るようなトレーニングを、小さい頃からやっています」と取り組みを明かす。

チビリンピックではアタッキングサードでの仕掛け、コンビネーションが見事だった。今井コーチが大切にしているのが「全員の矢印を相手ゴールに向けること」だと言う。

「サッカーは相手ゴールに向かっていくスポーツです。そのためのアイデアは追求しています。まず、ボールを持っている選手が仕掛け、周囲の選手は『俺がゴールを決めるんだ』という気持ちで関わっていく。全体の矢印が相手ゴールに向かうことは意識させています」

アタッキングサードにおける仕掛けの連動性を指導する上で、ポイントになるのが「タイミングを合わせること」と話す。

「どのタイミングで動き出せば、相手にとって嫌なのか。そこは考えさせます。動き出しが早すぎるとオフサイドになるし、遅すぎると相手との距離が近くなります。パスの受け手は、ボールを持っている選手の状況や体の向きを見て、動き出すタイミングを変えたり、合わせることが大切です」

「違う指導者の元でも活躍できるベースを教えていきたい」(今井氏)

今井コーチは現役時代、アタッカーだった。相手ディフェンスと駆け引きをし、ゴールを奪うプレーは「専門分野だった」と話し、「どうすれば攻略できるのか、タイミングや動き方をお手本として見せられるのは、自分の武器だと思う」と控えめに話す。

「たとえば選手に『いま動いたけど、味方はパス出せたかな?』『いまのタイミングで動くと、相手は嫌かな?』などと言いながら、子どもたちと一緒にボール蹴る中で、手本を見せていきます」

チビリンピックでは、ゴール前の崩しに加えて、GKを使ったビルドアップもクオリティが高かった。前にボールを運べない状況でGKにボールを下げ、組み立て直すことができるのは、攻撃のリズムを作る上で大いに役立っていた。

「GKのトレーニングに関しては、フィールドプレイヤーと同じことをさせています。ゲーム形式の練習にしても、すべてGKのパスから始まるようにしたり。そこから前にボールが入らなければ、攻撃が始まらないので、繰り返すことで配球の力がついてきたのかなと思います」

オオタFCはJクラブからも注目されており、今年のメンバーのうち、県外のJクラブに進む子が2人いる。上のカテゴリーで活躍するためには、技術に加えて戦術理解が重要になる。そこについては「将来を見据えて指導しています」と話す。

「サッカーはグループでするスポーツなので、ある程度の規則性やルールがあります。そのベースを理解させていれば、集団になったときに強いチームができると思います。サッカーは相手があるスポーツなので、『相手が嫌がるところはどこだろう?』などと言いながら、子ども目線で理解できるような表現を心がけています」

今年度のチビリンピックはコロナの影響で2月開催になり、1年を締めくくる大会となった。最後の全国大会を優勝で終えたことに対しては「素晴らしい結果で終われたことはうれしいですが、僕から言わせると、彼らはサッカー人生の入り口に立ったばかり」と話し、こう続ける。

「この学年は僕が6年間見させてもらったので、良くも悪くも、僕以外の指導は受けていないわけです。これからのサッカー人生、たくさんの指導者と関わると思いますが、どんな指導者が見ても『この選手、良いな』と思ってもらえるようになってほしい。そのためのベースを、ジュニア年代でつけさせてあげたいと思っています。そして、どんな指導者、どんなサッカースタイルのもとでも、自分の色を出しながら、サッカーの舞台に残り続けられる選手になってほしいと思います」

子どもたちはオオタFCを卒団し、新たなステージでサッカーを続けていく。今後の活躍を、楽しみに待ちたい。

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【講師】今井大悟/
福山大学を卒業後、 佐川急便大阪SC、カターレ富山、ブラウブリッツ秋田でプレー。2015年からOBであるオオタFCのU-11、12年代のトップチームのコーチを務めている。

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