サッカー豆知識

2013年12月20日

日本サッカーにプロとは何かを教えてくれた、ストイコビッチの名言

「良いときも悪いときもあった。それがサッカー人生だ」
 今シーズン限りで名古屋グランパスの監督を退いたドラガン・ストイコビッチは、帰国の途につく際に、6年間に及んだ日本での監督人生を振り返ってこんな言葉を残しました。現役時代を合わせると14年間。今日は、日本のサッカーに多くの刺激を与えてくれた"ピクシー"ことストイコビッチの名言をご紹介しましょう。

■半年限定のはずだった日本でのプレー

 1994年、産声を上げたばかりの極東のプロリーグに欧州でも指折りの本物の才能を持ったスーパースターがやってきました。92-93シーズンのUEFAチャンピオンズカップ(チャンピオンズリーグの前身)で優勝を果たしたオリンピック・マルセイユからやってきたユーゴスラビアの至宝、ドラガン・ストイコビッチです。1990年のW杯イタリア大会で、あのイビツァ・オシム監督に導かれ、ベスト8に進出。ストイコビッチはPK負けに終わった準々決勝のアルゼンチン戦後、天才・マラドーナに「君は間違いなく素晴らしい選手だ」と賞賛され、一気に注目を集めます。Jリーグにやってくる前の数年は、膝のケガ、所属していたオリンピック・マルセイユが八百長問題で2部降格など、不運に見舞われ、「半年間限定の旅行のつもりで」日本にやってきたと言います。
「試合に負けた日は悔しくて眠れない。
サッカーの試合は人生そのもの。悔しくない選手がいるのが信じられなかった」
 ドラガン・ストイコビッチ(ユーゴスラビア)
 来日直後のストイコビッチは、Jリーグの感想を聞かれて、象徴的なエピソードとともにこう語っています。
「驚いたことは試合で負けても悔しがらない選手がいること。敗戦後に笑っていたり、帰りのバスの中で眠っていたりするのを見てびっくりしました。私は試合に負けた日は悔しくて眠れない。価値観の違いを感じました」
 誕生して間もないJリーグではプロサッカーとは何か? ということを理解していない選手もいたのかもしれません。ときに試合中にエキサイトし、行き過ぎた行為や審判への暴言で問題児扱いされたストイコビッチですが、彼にとってサッカーは人生そのもの。真剣に捉えるあまり感情を制御できない場面もあり、その人間っぽさが多くのサポーターを惹きつけたのです。

■子どもたちにも教えたい プロサッカー選手とは何か?

「90分の間に自らの存在が生まれ、躍動し、眠りにつく。サッカーの試合は人生の再生に等しい」
 ストイコビッチは自らのサッカーの関わりについて、こんな詩的な言葉も残しています。Jリーグ黎明期に来日した多くの外国人選手たちがそうだったようにストイコビッチも、日本サッカー界に「プロとは何か?」を身を持って教えてくれた選手でした。
 
 アーセン・ヴェンゲル監督との出会いを経てJに身を置きながら、ユーゴスラビア代表として世界から注目を集める存在に。それでもストイコビッチは日本に留まり続けます。後年、ストイコビッチは、1996年にイングランド・アーセナルの監督に就任したベンゲルから移籍のオファーが届いていたことを明かしています。
「日本でプレーすることが幸せだと思ったからです。おそらく、当時アーセナルからのオファーを断ったのは世界で私だけではないでしょうか」
 ストイコビッチはインタビューでアーセナルのオファーを断った理由についてこう話しています。

■才能なんて、その後の生き方で変わる

 2001年に現役を引退したストイコビッチは2008年、ふたたび日本の土を踏むことになります。今度は監督としての来日です。2010年には初のリーグ制覇を果たすなど、古巣、名古屋グランパスをJリーグきっての強豪に育てました。そして2013年、選手として、監督としてサポーターに愛され続けたストイコビッチは日本を去ります。
「才能なんて、その後の生き方次第で変わってしまう」
 現役時代、柔らかなボールタッチで観る者すべてを魅了した"天才"は、「才能」についてこう語っています。そのときのプレーを賞賛されていても、その後の生き方の方が重要だ。ストイコビッチは、サッカーの奥深さをまだ知らなかった日本中の人たちに「サッカーという人生」を教えてくれました。
希代の才能を持つ"ピクシー(妖精)"は、現役時代、そして"その後"の監督時代を通じて、自らの才能を証明し続けたのです。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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