サッカー豆知識

2014年6月 9日

一昔前、手縫いボールはアジアの幼い子どもたちが作っていた

6月1日、季節外れの暑さの中、千葉県ユーカリが丘で一風変わったフットサル大会が行われました。その名も「ガチ禁」。ガチンコプレーを禁止する大会です。
 
(取材・文/中村僚 写真提供:NGO ACE(エース))
 
 

■ガチンコ禁止の真剣勝負

この大会は、勝敗や順位にこだわるのではなく、プレーを純粋に楽しむことを目的にしています。そのためのルールとして、スライディングや体の接触を禁止し、ゴールから一定以上離れた位置からのシュートも無効にするなど、「ガチ」になると起こってしまいがちなプレーを厳しく取り締まっています。さらに、優勝結果も勝敗では決まりません。組み合わせ表には順位欄はなく、表彰は投票で決まります。「どのチームと対戦すると楽しかったか、再戦したいか」を基準に各チームが投票し、もっとも評を集めたチームが優勝になるのです。
 
普通の大会と違うのは、その敷居の低さ。勝敗ではなく、ゴールを目指してチーム一丸となってゴールを目指す行為そのものを楽しむことが目的のため、実力に関係なくだれでも楽しめます。初心者がミスをして居心地が悪くなる、ということがないのです。
 
とはいえ、真面目にプレーしていないわけではありません。参加者はみんな必死で動き、ボールをコントロールしようと動き回ります。悪ふざけや意味のないプレーは起こりません。ミスに対して寛大になっただけで、ゴールを目指す姿勢は普通の大会と同じ。その意味では、「ガチ」なプレーの応酬かもしれません。
 
 

■児童労働にレッドカード!

ところで、サッカーでもフットサルでも、プレーするときに必ず使うボール。普段何気なく使っているそのボールは、誰がどうやってつくっているか、知っていますか? 
 
一昔前までサッカーボールの多くは、アジアの子どもたちによる手縫い作業でつくられていました。そう、児童労働です。夢を売るスポーツ産業が、子どもの夢を奪うようなことをしてよいのか? その問いかけに、国際機関やNGO、FIFAなどのサッカー業界が立ち上がり、児童労働防止に取り組みました。縫う人(スティッチャー)を登録制にすることで、登録外の子どもたちが縫うことはなくなりました。
 
この日のガチ禁大会を主催したのは、NPO法人「ACE」。彼らは、児童労働の撤廃を目指す団体です。
 
児童労働とは、15歳未満の義務教育を妨げる労働、18歳未満の危険・有害な労働のこと。これらは法律で禁止されているにも関わらず、世界で約1億6800万人もの子どもたちが働いています。その数は、日本の人口を上回ります。私たちの生活や常識では、とても考えられないことです。
 
ACE代表の岩附由香さんは以下のように話してくれました。
 
「いま世界には、1億6800万人の児童労働者がいます。ACEはインドのコットン産業とガーナのカカオ産業に焦点を当てて活動しています。この二つの国は特に児童労働者が多いため、子どもたちの解放と家族の生活を保障する取り組みをしてきました」
 
「児童労働は、決して他人事ではないのです。例えばチョコレート。チョコの原料はカカオですよね。日本で発売されているチョコの8割は、ガーナ原産のカカオでつくられています。ということは、私たちが普段食べているチョコは、ガーナの児童労働が関わって作られたチョコかもしれないのです」
 
「サッカー業界では、ボールです。私はACEの活動の中で、インドにサッカーボールを縫い合わせてつくる子どもたちがいることを知りました。そのうちの一人は、2001年に来日して記者会見を開いています。その会見をサポートしたのがACEでした。来日したソニアさんは、失明していました。原因は栄養失調。過度の労働にも関わらず見合わない賃金しか得られず、十分な食事を摂れなかったのです」
 
会場には「サッカーボール手縫い体験」のブースがありました。根気と集中力がとても必要な作業です。大人の私でさえ、30分作業すれば相当な疲労を感じます。中には2、3回縫い付けただけで放り出してしまう人もいました。そんな仕事を、義務教育を受ける年齢の子どもが、学校にも行かずにこなしているのです。
 
「そういった現状を見ていくうちに、児童労働は私たちの問題だと気付きました。そしてその事実を伝えるために活動しています。フットサル大会の運営もその一環です」
 
「児童労働が起きてしまう原因は、やはり貧しさです。家庭が貧しければ子どもを学校に行かせるお金もなく、生活するために子どもも働かざるを得ません。また、親が児童労働を経験していれば、次の世代も子どものうちに働くのが当たり前になってしまうのです」
 
「きっとみなさんがは、頭ではそういった現状をわかっていても、当事者意識を持てないと思います。ACEでは参加型のワークショップを開催していて、今回のサッカーボール手縫い体験もそのひとつです。そういったことを通じて、みなさんにも児童労働の現実を知ってもらえたらと思います」
 
「私たちはこれまでワークショップや講演活動で、累計161万人に児童労働の現実を伝えてきました。問題解決は、まず児童労働という現実があることを知ることから始まります。その上でACEの活動に関わっていただければ、より深い理解を得られると思います」
 
大会終了後、参加者を集めて記念撮影が行われました。そのときに全員が掲げていたのはレッドカード。国際労働機関が「レッドカードキャンペーン」を実施しており、それに沿った写真です。私たちにできるのは、まず現実を知ること。そこから児童労働撤廃への一歩が始まるのです。
 
 
ガチンコプレー禁止!ガチ禁の詳細はこちら>>
 
 
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