サッカー豆知識

2015年12月 1日

劣化したボールでプレーを続けると正しい技術が身につかない!?

スパイクがなければ裸足でもいい。ゴールがなければ何かものを置いてつくればいい。仲間がいなければ一人で遊ぶことだってできる。
 
「世界でもっともシンプルなスポーツ」と言われるサッカーに、唯一なくてはならないものがボールです。どんなにサッカーが進化しても変わらないのは「ボールは丸い」という事実ですが、サッカーの必需品であるボールも時代とともに進化を遂げています。
 
今日はサッカーキッズの“トモダチ”、良き“相棒”でもあるボールについて、筑波大大学院人間総合科学研究科の浅井武教授に教えてもらいましょう。(取材・文 大塚一樹 写真 八木竜馬)
 
 

■ボールひとつで試合の中身は変わる

「無回転のブレ球や鋭く曲がるFK。これらは物理の法則に従って変化しています。ボールを足で蹴るサッカーでは、ボールの果たす役割は小さくありません」
 
「サッカーを科学する」研究を続けている浅井先生はサッカーとボールは切っても切り離せない関係で、ボールの進化や変化がプレーの上達にも大きな影響を与えると言います。
 
「いまプロレベルのサッカーで使われているボールは、一昔前のボールとは比べものにならないくらい性能が上がっています。サッカーボールの性能というのはボールがなるべくまん丸であることによる『安定性』、蹴ったときにまっすぐに転がり、まっすぐに飛ぶ『直進性』、トラップでボールを止めたり、ドリブルしたときの『コントロール性』などを指します」
 
浅井先生によると、技術の進歩によりサッカーのボールはどんどん真球(まん丸)に近づいていて、ボールが空中にあるときの空気の流れや抵抗についても研究が進み、まっすぐ飛んで、技術が発揮しやすいように作られていると言います。
 
「たとえば、FIFAワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグレベルの選手たちになると、蹴ったボールが数センチずれるだけで大きなロスになり、致命的なミスになりかねません。ボールがゆがんでいたり、重心がずれていたりすることで変な方向に転がってしまうようでは、一流の選手の技術を楽しく観戦することもできないのです」
 
ボールの質がいまほど高くなく、コントロールの難しかった時代は、キック&ラッシュというとりあえず前線にボールを蹴り出す戦法が多用されました。サッカーの戦術の進歩もありますが、重く、不安定なボールでは足元へのパスをつないでゴールに迫るよりも、大きく蹴り出してゴールに近づく方が効率が良かったからです。ボールの進化が止まり、以前のままだったらバルセロナの華麗なパスサッカーも誕生していなかったかもしれません。
 
「たとえば目隠しをして足の感覚を頼りにドリブルをするブラインドサッカーでボールがゆがんでいたら、選手たちはいまよりもっとプレーするのが難しくなりますよね。ボールの進化がサッカーの進化、競技の可能性を広げてきたのは間違いないことだと思います」
 
浅井先生の研究室では、ボールに風を当てて空気の流れや抵抗を測る風洞実験や、実際にボールを蹴ったときの動きを計測するためのキックロボットなど大がかりな実験施設があり、そこでボールの空気抵抗、風との関係などを物理学の視点から計測しています。長年ボールの進化をその目で見て来た浅井先生は、言います。
 
「皮を縫い合わせて作っていた時代に比べると、いまのサッカーボールはパーツのひとつひとつが工業製品。いろいろな意味でとても扱いやすくなっている」
 

■パネルの枚数が少なくなれば、キック精度が向上する

まもなく日本で開催されるクラブワールドカップでお披露目される新しい公式球『ERREJOTA(エレホタ)』は、わずか6枚の均一パネルで作られています。パネル枚数が少なくなれば、キックのスイートスポット面積が拡大し、キック精度が向上します。サッカーボールは長い間、五角形のパネル12枚と白い六角形のパネル20枚の32枚で構成されていました。それが2006年ドイツでのワールドカップに合わせて登場した『+チームガイスト』という名前のボールから、14枚→8枚→6枚とどんどん数が減っているのです。


 
 
「パネルの枚数が減っているのですが、その分、接合部分の溝が長くなります。この溝が空気の抵抗を受けてボールの変化に影響を与えるので、ボールを作るメーカーさんも溝を浅くするなどの努力をしてなるべく余計な変化をしないボール作りをしていますね」
 
トップレベルで使われるボールは、特殊な接着剤で隙間なく圧着するサーマルボンディングと呼ばれる特殊技術を使って接合される隙間や縫い目のないボールです。サーマルボンディングで作られたボールは、ボールの劣化の原因ともなっていた縫い目からの水や砂の侵入を防ぎ、より良い状態を長持ちさせるための機能も備えています。
 
とくに子どもたちにとっては、劣化したボールでプレーを続けると正しい技術が身につかないだけでなく、水を吸って重くなったボールが身体に負担をかけてケガにつながる危険性もあります。
 

■子どもが正しい技術を身につけ、安全にサッカーをするために

 
「いまの技術、サーマルボンディングで作られたボールが水を吸う量は手縫いのものに比べて1/3程度です。空気穴もしっかりガードされているし、だからと言って穴の部分が硬いとか、重くなっているということもありません。しっかりまっすぐ飛んで、劣化もしづらい。本当によくできていると思います」
 
浅井先生は『ERREJOTA(エレホタ)』に合わせて作られたキッズ向けの4号球、エレホタキッズ4号球を手に、こう話します。
 
「このボールにはゴルフボールのようなブツブツ、ディンプルと言うんですが、その加工がされていて、つるつるのボールにあえてラフネス(荒さ)をつけています。ディンプルはつけすぎると抵抗が上がるのですが、このボールは抵抗をコントロールしてボールの勢いが持続しやすいようにできているんです」
 
浅井先生の研究によると、こうしたボールは力学的に言えば、まっすぐにそして遠くまで飛びやすいキックが蹴れる可能性が高いと言います。
 
「体感レベルではほんの少しでも、蹴りやすいでしょうね。正しい蹴り方をすれば、まっすぐ遠くに正確に蹴ることができるボールであることは間違いありません」
 
ボールの進化によってサッカーの戦術が変わったように、ボールの変化とともにFKやシュート、ドリブルなどの技術も少なからず影響を受けています。
 
「メッシやC.ロナウドのようなプレーがしたい! バルセロナのようなパス回しがしたい! いつか世界のトップレベルでプレーしたいと憧れる子どもたちは、サッカーのパートナーとも言える、ボールにも気を遣って欲しいですね」
 
サッカーのプレーはボールから生まれる。世界の一流の選手たちは、ボールタッチやシュートフィーリングなど、1センチ、1ミリ、ほんの少しの繊細な感覚にこだわってプレーしています。最先端のボールの進化や蹴り心地、感触を研究することも、サッカー上達の道のひとつと言えるでしょう。
 

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