サッカー豆知識

2017年7月 5日

早生まれの子どもは不利? 少年スポーツに存在する"生まれ月格差"に取り組むオランダの試み

■合理主義のオランダが始めた「Future(フューチャー)」という新たな試み

こうした状況を背景に、オランダサッカー協会が新たに設けたのが、それぞれの年齢カテゴリーからはみ出た選手を集めて別に編成するフューチャーの創設でした。
 
「U-13とU-15とは別にそれぞれ、U-13フューチャー、U-15フューチャーというチームが編成されました。13歳だけど周囲よりも成長が遅く身長が伸びていない。サッカー選手としての可能性はあるけれど、まだ成長が追いついていない。フューチャーは名前の通り、未来(Future)につながる選手たちの可能性を潰さないための選抜チームです」
 
早生まれの選手たちが、サッカーの才能を持ちながら、成長スピードによって将来を諦めたり、挫折によってサッカーから離れてしまったりすることのないように、いずれ体が成長するときの準備をする。実践可能な限り高いレベルで試合の経験を持つこと。個々人の成長に合わせた適切な指導を行うのがフューチャーの存在理由だと言います。
 
「フューチャーに選ばれるような選手は、サッカーのプレーに必要な『認知、選択、実行』のうち、認知と選択が優れている場合が多いんです。でも、体の成長が遅かったり、筋力がまだなかったりして、『実行』の部分でつまずいている。思い描いたプレーが実行できなかったからダメではなくて、正しい認知と選択ができていることをタレントして認めてあげて、実行が改善できるようなトレーニングをしていくというのがオランダの考え方です」
 

■子どもたちには実年齢のほかにそれぞれ“生物学的年齢”がある!?

オランダではさらに一歩進んで、生まれ月や実年齢ではなく、個人の発育の状態を科学的に分析した “生物学的年齢”を把握しようという取り組みも進んできていると白井さんは言います。
 
「選手が所属するクラブと連係を取り、オランダ代表でも各選手の“生物学的年齢”を数字で表示して、スタッフで共有する方法を取っています。『あの選手は、実年齢は15歳だけど発育の状態からすると生物学的年齢は13.5歳だよね』という会話が行われ、その選手の特性に注目した育成プランが立てられるようになってきているのです」
 
実年齢よりも“生物学的年齢”。こうした合理的な考え方は、いかにも合理主義のオランダ人らしいかもしれません。
 
生物学的年齢を素人が判断するのは難しい上に、ある種のレッテル張りになる可能性もあるため、知識のない人が多用することはオススメしませんが、成長には個人差があること、「認知→選択→実行」のうちの「実行」は身体的な成長にかかる比重が大きいことは、わが子や身近な選手たちを見つめる際の大きなヒントにとして覚えていくと良さそうです。
 

 

白井裕之(しらい・ひろゆき)
オランダの名門AFCアヤックスで育成アカデミーのユース年代専属アナリストとしてゲーム分析やスカウティングなどを担当した後、現在は同クラブのワールドコーチングスタッフとして海外選手のスカウティングを担当。また、2016年9月からはオランダナショナルチームU-13、U-14、U-15の専属アナリストも務めている。

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