サッカー豆知識
2018年5月11日
大事なのは勝ちだけじゃない! 降格すれすれのチームをなでしこ昇格に導いた鬼才GMが目指す「スタイルのある」クラブづくり
なでしこリーグ2部のバニーズ京都SC、越智健一郎氏。バニーズ京都では3年前に突然ゼネラルマネージャー(GM)に抜擢され、未知の領域で挑戦の末になでしこ2部へ昇格に導きました。
一方で全国大会で3位に輝いた経歴を持つ、京都精華学園高校では監督を務め、ひとりひとりの個性や状況に合わせたコミュニケーションの取り方で成長に寄り添っています。
既成の概念にとらわれずサッカーの楽しさと勝負を両立させようと奮闘している越智健一郎氏による『"日本をひっくり返す覚悟がある"新しいクラブ運営』というテーマでセミナーが開催されました。(取材・文:鈴木智之)
■ファン・サポーターを増やす仕組みづくり
ベンチャー企業の経営者のようなアイデアと情熱があり、数々の仕掛けで選手を集め、チームを応援するファン、サポーターを増やしている越智氏。彼のサッカー観は独特です。
「セミナーのタイトルにもありますが、日本をひっくり返すためには、世の中の常識、勝つための術の裏側を考える必要があります。表の基準として、大きくて、速くて、強い選手がいると、試合で勝つことができますよね。とくにジュニア年代は、その傾向があります。大きくて、速くて、強いをひっくり返すと、小さくて、遅くて、弱いです。僕としては、体が大きい、小さいはどちらでもいいんです。身長というのは遺伝にもよりますから。速いか遅いかではなく、ゆったり。強い、弱いではなく、しなやかという切り口でやっていきたいと思っています」
セミナーはワーク形式で進んでいきます。バニーズ京都のGMである越智氏は、参加者に「自分がGMになったらどんなことをやりたいですか? どんなチームを作りたいですか。3つ考えてください」と問いかけます。
参加者の多くは育成年代のコーチで、自分でクラブを持っている人もおり、いわば街クラブのGM兼監督です。
越智氏は自分が GM になるときに、次の3つが大切だと考えたそうです。
1.スタイルを表現できる監督
2.そのスタイルにあった選手
3.実現させるための環境整備(資金力や待遇など)
「フロントの力や考え方、方向性がチームのスタイルになります。今日、話を聞きに来てくれた方たちも、チームのスタイルは作ることができると思います。私は、試合を見た人に、こんな感じのチームなんだと伝わるようなチームを作りたいと思っています」
■鹿島=ジーコスピリットのようなスタイルの確立が価値になる
人はスタイルがあるものに惹かれます。つまり、スタイルとは魅力と言い換えることができます。
たとえばFCバルセロナには、誰もが思い描くスタイルがあります。レアル・マドリー、マンチェスター・ユナイテッド、ユベントスなど、世界中にファンを持つクラブには、脈々と受け継がれてきたスタイルがあり、それに人々は惹かれていきます。
もちろんJリーグにも、確固たるスタイルを持つクラブがあります。
「Jリーグで一番スタイルが確立しているクラブはどこでしょうか? 私は鹿島アントラーズだと思います。『鹿島と言えばこれ』というのがありますよね。そう、ジーコスピリッツです。クラブとは、周りの人たちにスタイルを知ってもらい、喜びを与えることが大切だと考えています」
そう言うと、越智さんはひとつの言葉を掲げます。
「勝ち=かち=価値」
「私はバニーズ京都SCではGMをしていますが、京都精華学園高校では監督なので、勝ちを目指さなければいけない立場です。当然、勝つことも大切なのですが、スタイルを作ること、多くの方に知ってもらい、チームの存在が喜びになることも大切だと思っています。武井壮さんがテレビで『物事の価値は、人が求める数』と言っていました。スポーツの能力はすごく高いけど、求める人がいなかったので、現役時代の自分は価値がなかった、と」
さらに、こう続けます。
「どれだけの人が知っていて、それを求めているか。みなさんの周りにも、大会で優勝したことはないけど、あのクラブのことは知っている。あの監督は面白い、あの選手はすごいというクラブがありますよね。それがクラブの価値です。そして実力と内容が伴うと、認知されて人気が出ます」
サカイクキャンプ2018夏