サッカー豆知識
2019年3月13日
息子の仲間へのポジティブな声かけに助けられたこと。【子育て奮闘記vol.3 by「中野吉之伴 子どもと育つ」】
ドイツで15年以上サッカー指導者として、またジャーナリストとして活動する中野吉之伴。
2018年2月に突然「SGアウゲン・バイラータール」のU-15監督を解任された。
新たな指導先を「どこにしようか?」と考えていた矢先、息子が所属する「SVホッホドルフ」からオファーが舞い込んだ。さらに元プロクラブの古巣フライブルガーFCからもオファーを受ける。そこから最終的に決断したのは、2つのクラブで異なるカテゴリーの指導を行うことだった。
この不定期連載は、息子が所属する「SVホッホドルフ」でコーチとして感じた日常を書き綴る「子育て奮闘」である。
(取材・文・写真:中野 吉之伴)
■「彼らの時間」が要らなくなった理由
2018年12月14日、U-9はクリスマス会を開き、年内の活動を終えた。
その後、冬休みを含めて丸々1か月ほどの休みをとった。子どもたちは思い思いに楽しい時間を過ごしたのだろうか。家族でゆっくり遊んだり、実家や親せきの家でお祝いをしたり、友達を招いてパーティーをしたり、あるいは一人でのんびりしたり。やはり子どもでも大人でも、選手でも指導者でも、体をいたわり、心を安らげ、頭の中をすっきりさせる時間があるといいなと思う。
1月に入ってからは2週間に一度グラウンドの隣にある体育館でのトレーニング、週末に2度の室内サッカー大会の参加、あとは練習日に天気が良ければ外での練習といった頻度でチーム活動を行い、私がちょうどドイツに戻ってきた1月下旬から通常通りの週2回のスケジュールに戻った。
久しぶりに合う子どもたち。「どこにいたのー?」と元気いっぱいに向かってきた。休み後にはいつも子どもたちの成長ぶりにびっくりさせられることが多いが、今回もそれを感じた。特に思ったのは「人の話を聞こう」とする姿勢が明らかに変わっていたことだ。以前であれば「よし、練習始めるよ! 集まろうかー」と声をかけてもほとんど集まってこない。そのまま楽しそうにふざけていたり、ボールを蹴り合っていたり。もう一回呼んでも動かない。さらに、もう一回呼んだら何人かがようやく気がついて少しずつ集まってくるが、半分以上はまだ自分のことに夢中だった。「集合ゲーム」みたいな形で興味を引いたりしないと集まらなかった。やっと集まったと思って、トレーニングの内容を説明しようとしても話を聞こうとしない子がワラワラ。毎回試行錯誤の繰り返しで、練習後はゲッソリすることも少なくなかった。
それがこの前のトレーニングでは「はい、スタートしようか」と呼んだら、最初のコールで半分くらいの子が集まってくれた。それも「ダッシュ!」で、しかも「何やるの?」と練習に興味を示してきた。「こういうルールでこういうゲームをやるよ!」と言ったらすぐに動き出す。その日はミニカラーボールを使っての鬼ごっこをやった。みんなノリノリでキャーキャーと練習を楽しんでいる。しばらくやって次の練習に移ると、これもスムーズに進んだ。
少し前なら途中でボールを蹴ろうとどこかに行ったり、じゃれ合いながらグラウンドに寝転んだりと、「彼らの時間」が必ず必要だったものだが、すぐに私たち指導者の提示するマーカーの位置に並び出した。ミニゴールにパスとシュートでゴールを決めていく対抗ゲームをやったのだが、相当に盛り上がった。それでいて悪ふざけをする子もいない。ミニゲームでもみんなすごくいい動きをしていた。
「なるほどなぁ」と感心した。
「彼らができなかった」わけではないのだ。指導者の要求と選手の欲求、そして指導者の描くイメージと選手の描くイメージが合致していなかっただけなのだ。体が成長し、頭の中のキャパシティが増え、心に成熟さがついてくることで、自然にできるようになっていた。「できないからダメ」なのではなく、「できないからできるようにしつこくやらせる」のではなく、「できるようになるためのアプローチしながら、できる時を待つ」。
それぞれの成長が追いついてくれば、本当にスムーズに取り組めるようになるのだ。
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