サッカー豆知識

2019年8月 6日

Jクラブのコーチも絶賛! 全国31都府県参加のプレミアリーグU‐11創設者に聞くリーグ戦が強化につながる理由

2015年にU‐11年代の選手を対象とした「プレミアリーグU-11」が誕生し、4シーズン目に突入しました。これは「試合の少ないU‐11(小学5年生)の選手に、年間を通じたリーグ戦を経験させたい」という各県コーチの熱意から生まれた私設リーグで、初年度は東京、神奈川、千葉、埼玉、栃木など、関東を中心に実施。スタートから4シーズンが経ち、プレミアリーグ開催地は北海道から九州まで、全国31都府県に拡大し、350クラブ、7,000人が参加するリーグ戦へと成長しました。

2019年4月にはアイリスオーヤマとスポンサー契約を締結し、今シーズンは「アイリスオーヤマ プレミアリーグU-11」の名称でリーグ戦を行っています。

サカイクでは「年間を通じたリーグ戦こそが、選手強化に必要なこと」と話す、プレミアリーグ実行委員長の幸野健一さんに「なぜリーグ戦が、選手の成長に必要なの?」というテーマでインタビューを実施しました。
(取材・文:鈴木智之)

 


U-11年代のリーグ戦は現場の指導者たちにも「選手の成長に良い」と好評

 

■Jクラブのコーチも絶賛「選手の成長を考えるとすごく良い」

――プレミアリーグ発足から4年が経ちましたが、現状をどう見ていますか?

幸野 4年間で31府県まで拡大したのは、現場の指導者のニーズがあったからだと思います。いまでは、日本最大の私設リーグ戦になりました。発足当初は1部10チームでスタートしたのですが、2019年時点で千葉は3部、神奈川4部まであります。千葉の3部リーグは13チームが参加し、なかにはU‐10のチームもあります。

 

――13チームが参加となると、ホーム&アウェイ方式で、1チームあたり年間24試合です。毎週末試合をして、およそ1年の半分がプレミアリーグを戦う計算になります。

幸野 U‐11(小学5年生)で、これだけ真剣勝負の場があり、年間を通じて試合ができる環境は珍しいと思います。日本のサッカー界は学校の区切りに合わせているので、6年生の公式戦はたくさんありますが、5年生はほとんどないんですね。それもプレミアリーグを作った理由のひとつです。U‐10のチームも参加している千葉県の3部リーグは、Jクラブの柏レイソル、ジェフユナイテッド千葉を始め、市川ガナーズ、Wingsなど、県内のトップクラブが参加しています。Jクラブのコーチからは「U‐10の強豪同士が年間を通して戦える場はこれまでなかったので、選手の成長を考えるとすごく良い」という意見も出ています。

 

――U‐11のリーグにU‐10のチームも参加して良いというのは画期的です。

幸野 今年からヨーロッパのように、2学年を1つのカテゴリーとして参加するリーグ戦へとレギュレーションを変更しました。つまり、小学4年生と5年生が合同でAチーム、Bチームという形です。そのため、3部所属のU‐10主体のチームが優勝し、2部で戦うU‐11主体のチームが同じクラブの場合、2部・3部の入れ替え戦の相手が同じクラブになる可能性もあります。

――それは珍しいケースですね。

幸野 日本では「人数が多いクラブは複数チームを登録しなさい」と言っていますが、「同じクラブが同一リーグにいてはダメ」というリーグもありますよね。でも私は、別に同一リーグにいても良いと思っています。それよりも、人数が多いクラブは、全員を試合に出場させることのほうが重要で、レギュレーションよりも優先順位が上でないといけない。育成年代の選手に対しては、必ずしもプロと同じルール、レギュレーションでやる必要はないですよね。それよりも、試合経験を積み重ねることを重視したいと思っています。

 

■練習だけして試合に出られないなんて、サッカーの1番の楽しみを奪うようなもの

――高校の強豪校などは、選手が200人を超えるところも珍しくはありません。その分、監督やコーチを多く雇い、複数チームを異なるリーグ戦に参加させ、公式戦の場を確保する努力をしているチームもあります。

幸野 日本で一番保有選手が多いのは、東京国際大学です。部員が450人ほどいて、チームが12あります。そのすべてに監督がいて、リーグ戦に参加しています。それが、本来あるべきサッカー選手、サッカークラブの姿だと思います。練習だけして、週末の試合には出られないというのは、サッカーの一番の楽しみを奪うようなもの。選手から部費をとっているのであれば、試合環境を用意するのはクラブ側の責務だと思います。毎週末、試合に出られる環境を作るためには、年間を通じたリーグ戦に、1チームの適正人数(20人前後)で参加すること。しかし日本の育成年代の現状では、すべてのカテゴリーの選手がそうなっているわけではありません。これはヨーロッパとの大きな違いです。

 

――保有選手が多くても、チームを整備して全選手に試合の場を提供しているのであれば、良いサッカー環境と言えますね。

幸野 東京国際大学の一番下のカテゴリーの選手に話を聞くと、「高校のときは公式戦に出たことがなかったけど、大学に来て毎週リーグ戦があって、サッカー選手らしい生活ができています」と嬉しそうに話していました。週末の試合に向けてトレーニングをし、コンディションを作る。ヨーロッパは育成年代から、そういうサイクルで生活をしています。日本の場合、それが大学生になってやっとできるような環境なんです。ただし、日本の大学サッカーは、高校時代にある程度の実績を残した選手でないと続けられないのも事実。だからこそ、どんなレベルの選手にも門戸が開かれている、東京国際大学の取り組みは良いことだと思います。

 

■欧州人から見たら意味不明な「球拾い要員」

――日本の場合、学校単位でチームができているので、3年生を中心としたチームづくりになりがちです。下級生が試合に出られる環境を作ることが、長い目で見た選手のレベルアップのためには必要なことで、プレミアリーグU‐11は6年生ではなく5年生にスポットを当てていることに意味がありますね。

幸野 おっしゃるとおりで、以前、うちのクラブのテクニカルディレクターを務めていた、リカルド・ロペス(元日本代表GKコーチ)が怒っていたことがあります。うちのU‐18とある高校のサッカー部が練習試合をしたとき、相手の高校サッカー部は試合に出ない選手、いわゆる「球拾い要員」を連れてきていました。リカルドは「あの選手たちは何をしに来たんだ? 試合には出ないのか?」って。そこで私は「日本は学校単位でチームを作るので、3年生になったときには試合に出られるという考え方なのだろう」という説明をしたら「それは違う。なぜ日本の指導者は『3年間で結果を出す』などと言うのか。全員、いまこの瞬間こそが、平等に大切なんだ」と。

 

――学校とスポーツが切り離されているヨーロッパの人から見たら、理解しがたい光景なのですね。

幸野 ヨーロッパは1チームが2学年単位で、基本的に小学生(U‐7)から高校生(U‐19)までがつながっていますが、日本のスポーツはクラブ単位ではなく、学校体育から派生したものなので、小学校、中学校、高校と6‐3‐3制ですよね。カテゴリーごとにつながっているクラブは少数派で、ほとんどの選手が小中高と異なるチームでプレーします。結果、責任の所在があいまい一貫した指導がしにくい環境があります。選手育成の視点から見ると、非常にもったいないことです。そのような環境下で、さらに「リーグ戦を最上級生のためのもの」にすると、中学、高校の1年生、2年生、小学校4年生、5年生などの下級生が真剣勝負の場を体験できる機会が少なくなります。その意味で、プレミアリーグをU‐11カテゴリーにしました。

 

インタビュー後編では、プレミアリーグU‐11を全国規模で開催して感じたことについて、話を伺います。

幸野健一(こうの・けんいち)
サッカーコンサルタント、FC市川GUNNERS代表
10歳よりサッカーを始め、17歳のときにイングランドにサッカー留学。以後、東京都リーグなどで40年以上にわたり年間50試合、通算2000試合以上プレーし続けている。
日本のサッカーが世界に追いつくためにはどうしたらいいかを考え、育成年代を中心にサッカーに関する課題解決を図るサッカーコンサルタントとして活動中。
FC市川GUNNERS(旧アーセナルサッカースクール市川)代表に就任し、スクールの運営でも手腕を発揮している。
2015年に創立し、2019年7月現在31都府県が参加する日本最大の私設リーグ「アイリスオーヤマ プレミアリーグU-11」で「3ピリオド制」を導入。欧州のように小学生年代から年間を通じたリーグ戦を通して選手の成長につなげる取り組みを実施している。

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