サッカー豆知識
2020年3月 3日
上手い子だけボールを触れればいいの? サッカー強国ドイツが導入を決めた3vs3のミニゲーム「フニーニョ」とは
さる1月25日(土)、きたぐりユナイテッドFC(茨城県)が主催する「フニーニョ」のサッカークリニックが行われました。「フニーニョ」とはFun(英語:楽しむ)+Niño(スペイン語:子ども)から作られた造語で、ドイツ人のホルスト・ヴァイン氏によって開発されたミニサッカーの一種で、ミニゴールを4つ使い3対3で行うミニゲーム。
ドイツで発祥し、バルセロナで広がり、再びドイツサッカー連盟が9歳以下の試合に導入を推奨したことで注目されるようになった練習です。
講師を務めたのは、ドイツ・フライブルク在住の中野吉之伴さん。長くドイツで少年サッカーの指導に携わり、サカイクにも度々登場しています。きたぐりユナイテッドの代表、大山宏和さんと面識のあった中野さんの方から「やりましょう」と声をかけていただき、今回のイベントの開催に至ったのだそうです。
今回は、茨城県桜川市で行われたフニーニョクリニックから、「フニーニョ」が優れている点やこの大会を開催した理由などを伺いました。
(取材・文・写真 中村僚)
■まだ小学生なのに、試合中1度もボールに触れない子がいて良いの?
ドイツで行われている少年サッカーの試合で、もっとも小さいゲームは5対5。そこから年代を重ねるにつれて7対7、9対9などと発展し、最終的に11対11の正規のサッカーになります。ドイツでは少年の全国大会がないため、人数の発展の仕方は地域によってまちまちです。
しかし、ドイツ国内では「5対5ですら人数が多すぎて、子どもたちが子どもらしくサッカーができてないのではないか?」という疑問が浮かび上がっていました。上手な子だけがたくさんボールに触り、1試合の中で1度もプレーできない子がいたり、あるいは7対7になって勝敗にこだわりすぎる指導者がいたりして、スポーツ本来の楽しみ方ができない子どもがいる、と考えれられました。そこでいま、ドイツ連盟から推奨されているのが、より人数を少なくした「フニーニョ」なのです。
ドイツで長く指導者を務め、フニーニョ導入の経緯や実際の現場を知る中野さんは、フニーニョのメリットを次のように話してくれました。
「3対3なら、例えばチームの中に引っ込み思案な子や、サッカーがあまりうまくない子がいても、ボールに触る機会が多くあります。今日はチームも学年もバラバラな子たちが集まりましたが、ゴールを決めた子、アシストを決めた子はほぼ全員でした」
3対3という少人数だと、突出した1人の選手が単独でプレーし続けることも起こってしまう心配もあります。しかし、フニーニョのゲームを続けていく中で、対戦相手を変えながら同じくらいのレベルの子どもたちと試合ができるように調整していきます。
中野さんは全員がボールに触る機会を設けるのに適した人数が「3対3」であるといいます。
「4人以上になると、今度はボールに触らない選手が出てきてしまいます。全員がボールに触るけれども、1人だけでプレーするのは難しい。その最適な人数が3人だと思います」
■ただ3対3をすれば良い訳ではない。子どもたちが工夫しだす仕掛けを用意して
一方で、ただ3対3のゲームを実施すればいいわけではありません。サッカーのゲームはうまくいかないことの方が多いもの。技術や意思伝達が不十分な子どもはなおさらです。うまくいかない中でも子どもたちが楽しくサッカーをするためには、大人側の少しのアプローチと仕掛けが欠かせません。
「例えばシュートは味方からのパスをダイレクトで打たなくてはいけない、というルールでもいいでしょう」
ただし、そのルールや仕掛けも、過剰に介入してはいけません。大人側がうまくいかないことに焦ってしまっては、子どもたちからサッカーの楽しみを奪うことにもなりかねないからです。その介入と放任のバランスは、指導者側が適切に見極める必要があります。
■「ゴールが2つある」ということに気づくことが大事。子どもたちの気づきを待とう
「フニーニョはゴールを4つ使うゲームなので、1チームが攻めるゴールは2つあります。初めのうちは片方のゴールばかりを狙って、もう片方を忘れてしまう選手もいるでしょう。でも今日私は、子どもたちに『向こうにももうひとつゴールがあるよ』とは言いませんでした。それは、プレーしていればゴールがふたつあることに誰かが自然と気づいて、逆のゴールを狙い始めるからです。そのプレーを見た対戦相手の子が真似をして、相手チームにも伝播していく。試合の合間に作戦タイムは設けましたが、それだけです。大人が介入しすぎて、フニーニョの空気感が壊れてしまっては意味がありませんから」
中野さんの言葉通り、選手たちは真剣ながらも楽しそうな表情でボールを追いかけていました。最後の中野さんからの「楽しかった?」との問いかけにも、全員が勢いよく挙手。まわりに合わせてなんとなく手をあげただけではないことが伝わってきました。
ところで、この日もうひとつ印象に残っていたのが、講師である中野さんの立ち振る舞いです。子どもたちが中野さんの話を聞いていなくても、練習のルールや仕組みを理解していなくても、決して怒らず、注意もしませんでした。後編ではそんな中野さんの「ゆるい」スタンスの理由や、きたぐりユナイテッドFC代表の大山さんがフニーニョのクリニックを開催しようと思った理由、指導現場で感じるフニーニョのメリットなどをお届けしますのでお楽しみに。
中野吉之伴(なかの・きちのすけ)
指導者/ジャーナリスト
大学卒業後、育成年代指導のノウハウを学ぶためにドイツへ渡る。現地でSCフライブルクU-15チームでの研修など様々な現場でサッカーを学び、2009年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)。2015年から日本帰国時に全国でサッカー講習会を開催し、よりグラスルーツに寄り添った活動を行う。
主な指導歴:フライブルガーFC(元ブンデスリーガクラブ)U-16監督/U-16・18総監督などを経て現在はフライブルガーFCのU13監督を務める。
著書・監修本に「サッカードイツ流タテの突破力」(池田書店 ※監修/2016年)/「サッカー年代別トレーニングの教科書」(カンゼン ※著者/2016年)/「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」(ナツメ社 ※著者/2017年)などがある。
大山宏和(おおやま・ひろかず)
きたぐりユナイテッドFC代表
茨城県桜川市で活動するきたぐりユナイテッドFCでは、桜川市近隣地域の幼児から小学校6年生までの児童を対象に、サッカーを通じてサッカーは楽しいという気持ちを実感しながら何事にも失敗を恐れずチャレンジ出来るジュニア年代の育成を目指している。
JFA公認B級ライセンス/JFAスポーツマネジャーズ資格Grade2/JFAキッズリーダー/スポーツリズムトレーニング協会公認ディフューザー資格/JFA公認4級審判員