サッカー豆知識
2022年8月 8日
暑さ指数=WBGT が31度以上になったらサッカー中止! 子どもたちの安全を守るため知っておきたい練習中止の判断基準
今年の夏も暑い日々が続いています。そこで気をつけたいのが熱中症。どれだけ対策をしていても、危険がつきまとうのが夏場のサッカー活動です。ときには指導者の判断で、練習や試合を中止、中断する必要があります。
そこで今回は日本スポーツ協会スポーツ医・科学委員会「スポーツ活動中の熱中症事故予防プロジェクト」班員で、立教大学コミュニティ福祉学部の安松幹展教授に「熱中症リスクを踏まえた、練習・試合中止の判断基準」について話をうかがいました。
子どもたちの健康を守るため「どのようなときは練習・試合を中止にした方がいいのか?」の基準を知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
(取材・文 鈴木智之)
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■暑さ指数=WBGT が31度以上になったらサッカーは中止して
はじめに指導者、保護者が知っておきたい、熱中症の資料を紹介します。それが日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(PDF)」です。
安松先生も寄稿分担執筆していて「ここを見ていただくと、熱中症のことがよくわかると思います」とおすすめします。
熱中症予防に関して、暑さの基準として設定されているのが「暑さ指数(WBGT)」です。
これは「運動は原則中止」から「ほぼ安全」までの5段階に分けられていて、WBGTの数値に応じて、サッカーを中止にしたほうが良い、あるいは水分や塩分をこまめに補給し、短時間の活動にとどめた方が良いなどの目安になります。
WBGT
31度以上:運動は原則中止
28度以上:厳重警戒(激しい運動は中止)
25度以上:警戒(積極的に休憩)
21度以上:注意(積極的に水分補給)
20度以下:ほぼ安全
スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブックより
「WBGTは湿度と気温、日差しの強さをもとに導き出す数値です。WBGTは専門の機器で計測できるほか、環境省のHP(熱中症予防情報サイト)や天気予報サイトにも掲載されているので、サッカー活動がある日は、前日からチェックして、練習をする・しないの判断の参考にしていただけたらと思います」
WBGT計測機は5千円程度で購入可能なので、コーチは各自持っておくと良さそうです。ほかにも、アスリート向け気象ウェブサービス「MiCATA」を使うと、グラウンドが登録できて、そこのWBGT値がわかるようになっています。
「責任ある立場の指導者として、練習を中止するための基準を知っておくことは、非常に大切です。機器やWebサービスなどのテクノロジーを活用すると、判断材料になると思います」
■日本サッカー協会の熱中症ガイドラインの内容
安松先生は「昼間の暑い時間の活動は避けて、WBGTが31度以上のときは中止にすることが大前提です」と話し、次のように続けます。
「それ以下のWBGTが30度~28度、『厳重警戒』のときは、指導者が十分に気をつけながら、練習時間を普段より短縮し、10分~20分おきに休憩をとり、水分と塩分を補給しましょう。『JFA熱中症対策ガイドライン(PDF)』の内容を、練習にも当てはめてほしいと思います」
JFA熱中症対策
① ベンチを含む十分なスペースにテント等を設置し、日射を遮る。
② ベンチ内でスポーツドリンクが飲める環境を整える。
③ 各会場に WBGT 計を備える。
④ 審判員や運営スタッフ用、緊急対応用に、氷・スポーツドリンク・経口補水液を十分に準備する。
⑤ 観戦者のために、飲料を購入できる環境(売店や自販機)を整える。
⑥ 熱中症対応が可能な救急病院を準備する。特に夜間は宿直医による対応の可否を確認する。
⑦ [Cooling Break]または飲水タイムの準備をする。
上記は試合開催時のガイドラインですが、練習にも当てはめたいところです。
安松先生は「公式戦では飲水タイムを設けていても、練習試合やトレーニング中はおろそかになるケースがあるので、積極的に水分摂取の時間を設けましょう」と呼びかけます。
■15分ごとに水分補給をするとスプリントの回数が落ちないというデータも
また、安松先生は「暑熱環境下における運動中の体温の調節機能とパフォーマンスの関係」の研究もしており、「高い気温のもとでは、プレーの質が低下する」ことが明らかになっているそうです。
「気温が高いところと低いところを比較すると、暑いときはダッシュの距離が短くなり、ジョギングが多くなります。夏のインターハイと冬の選手権を比べると、炎天下で行われるインターハイの方が、オフェンスラインとディフェンスラインの距離が間延びしているというデータも出ています」
サッカーの上達のためには、高強度でプレーすることが望ましいですが、夏はそれがしづらい環境とも言えます。
「15分ごとに水分を補給すると、スプリントの回数が落ちない、ハーフタイムに冷却すると、後半はリフレッシュされるといったデータがあります。熱中症予防を子どもたちに伝えるときに『気持ち悪くなるから』『頭が痛くなるから』と言っても、積極的に聞き入れにくいので、『水を飲んだら、足が速くなるんだよ』『しっかり休むと、この後のパフォーマンスが上がって、点が取れるようになるかもよ』という言い方をしています」
■子どもは体内に熱がこもりやすく、熱中症リスクが大人より高い
かつては、「水を飲まないことで、メンタルを鍛える」などと言われていましたが、暑い夏に水分を補給しないとことは、百害あって一利なしです。
「とくに子どもは、体重あたりの体表面積が大人よりも大きいので、体温に近い環境温度下での運動時は、深部体温が上がりやすくなります。また発汗能力が未発達なので、体の外に熱を逃がすことが苦手です。暑さで顔を真っ赤にしている子がいますが、それは体内に熱がこもっているサインとなります。また、子どもの方が大人よりも身長が低く、地面に近い分、暑さの影響を受けやすくなるので、熱中症には大人以上に気をつけてほしいと思います」
暑さを理由に練習を中止にすると、子どもや保護者から「練習させてください」という意見が出るかもしれませんが、熱中症は最悪、死に至ることもあるので、最大限の注意が必要です。
正しい知識のもと、適切な判断をくだすための情報を得ること、準備をすることが、万が一を防ぐために必要なことと言えるでしょう。
次回の記事では、「夏に気をつけたい雷の対処法」について、安松先生に話をうかがいます。
安松幹展(やすまつ・みきのぶ)
立教大学コミュニティ福祉学部 スポーツウエルネス学科教授
環境生理学および運動生理学的アプローチから、サッカーを中心に競技力向上に関する研究を行っている。現在は「暑熱環境下における運動中の体温調節機能とパフォーマンスの関係」「サッカー選手に対する適切なトレーニング負荷量の検討」「サッカーのゲーム中のフィジカルパフォーマンス分析」を、日本サッカー協会および国立スポーツ科学センターなどと連携しながら進めている。