サッカー豆知識

2023年9月12日

女子サッカーの指導で気をつけることとは? 長年女子の育成に関わるスフィーダ世田谷GM・川邊健一さんに聞いた女子選手の指導法

先日開催された女子のワールドカップ。なでしこジャパンはグループステージでスペインに4-0で勝利を挙げるなどして首位突破。準々決勝で惜しくも敗退しましたが、大いに日本を盛り上げてくれました。

2011年になでしこジャパンがワールドカップで優勝して以降、日本で女子サッカーがメジャーになり、2021年には日本初の女子プロサッカーリーグ『WEリーグ』がスタートしました。

サッカーをする女の子は増えており、指導者や保護者など、女子のサッカーに関わる人は、男子と女子の違いを理解するのも大切なこと。

そこで今回は、2022プレナスなでしこリーグ1部で優勝した『スフィーダ世田谷FC』の代表を務め、20年以上女子サッカーに関わる川邊健一さんに「女子を指導する上で、気をつけていること」についてうかがいました。
(取材・文 鈴木智之 写真提供:スフィーダ世田谷)

 


スフィーダ世田谷FCの選手たち 写真提供:スフィーダ世田谷

  

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■女子の方が成長スピードが早い

近年、女子サッカーの裾野が広がったことで、男子を指導してきた指導者が、女子の監督やコーチに転身するケースが見られます。そこで川邊さんに「女子と男子の違い」を聞くと、次のような答えが返ってきました。

「根本的に違うのは、体の作りです。女子の場合、早い子であれば12歳ごろに身長の伸びがストップし、多くの子は中学の3年間で成長が完了します。極端な話、トップチームの大人の選手と、足の速い中学生がかけっこしたときに、中学生の方が速いケースもあります。男の子であれば、中学生がトップチームの選手に走って勝つことはほぼありませんが、女子は成長が完了する時期が早いので、そのようなことが起こるのです」

2021年の皇后杯で、中高生を主体とする日テレ・東京ヴェルディメニーナが、INAC神戸に勝ちましたが、そのような番狂わせが起きるのも、女子ならではと言えます。

「女子の場合、中学生で成長が完了すると、能力的に大人とほとんど変わりません。YO-YOテストやスプリント能力を比較しても、トップチームの選手より良い数値を出す中高生はたくさんいます」

 

■フィジカルで優位性を出せなくても技術と判断スピードで相手を上回ることができる

年齢が上であっても、フィジカルで優位性を出すことができないとなると、どこで相手を上回れば良いのでしょうか? スフィーダでは「技術の精度と判断のスピードに力を入れている」と言います。

「中学生から大人になるに連れて、何が変わるかというと、判断のスピードと技術の精度です。スフィーダのトップチームの練習に大学生が参加することもあるのですが、そのときによく言われるのが『スピードが速い』です。それも走るスピードではなく、判断のスピードなんです」

たとえばボールを持っている選手に対して、サポートに入るスピードや「ボールを奪える!」と判断し、寄せに行くスピードなど、状況を素早く認知し、決断して実行するための判断スピードに違いがあるようです。

 

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■女子を指導するときに大切なのは、空気を読むことと信頼関係 


20年以上女子サッカーに関わるスフィーダ世田谷FCのGM川邊健一さんに、女子選手の育成で気を付けることを聞いた 写真提供:スフィーダ世田谷

 

女子選手を指導する場合、身体的な特性に加えて、精神的な特性も加味する必要があり、川邊さんは「女子を指導するときに大切なのが、空気を読むこと。そこに尽きますね」と言葉に力を込めます。

「その場の雰囲気を感じ取って、的確に振る舞えるかは、すごく重要だと思います。そうして信頼関係を構築できると、こちらの言うことを受け入れてもらいやすくなります。ただし、一度でも信頼関係が壊れてしまうと、修復するのが非常に難しいので、男子以上に注意が必要です」

男子と女子では物事の考え方や捉え方などに違いがあるようです。特に、女性は異性に対する警戒心を持つ傾向にあるので、そこを理解した上で、言葉を発したり、行動することが大切なのだと言います。

「男子の場合、指導者が頭ごなしに『やれよ』と言うと、従ってくれることも多いですが、女子の場合は説明して、理論的に納得しないと動いてくれません。そこが男女の違いとして、挙げられるところだと思います」

そこを加味せず、監督が「言うとおりにしなさい」と言っても、「何言ってんのこの人」と、冷たい目で見られてしまうことになりかねません。

 

■人心掌握は男子より女子の方が難しい

「人心掌握の部分は、男子よりも女子の方が難しいですね。そのため私は、コーチに女性の指導者を置いています。監督である自分が先頭に立って引っ張るのと同時に、付いてこれなくなる子のサポートを、女性のコーチにお願いしています」

選手の立場からしても、異性の監督よりも同性のコーチのほうが、意見を伝えたり、相談しやすいというメリットもありそうです。

「自分だけでは足りないところがあるので、そこをコーチにフォローしてもらっています。日頃から意識的にしているのは、選手の様子をよく観察すること。練習前後に選手同士で話しているときの表情などは、見逃さないようにしています。選手たちにも『すごい見てますよね』と言われるほどです(笑)」

 

■繊細に扱うけれど、特別扱いはしない

川邊さんは「女子選手の場合、男子よりも繊細に扱わないといけない」と言いながら「でも、特別扱いはしない」とスタンスを語ります。

「チームに20人いたとして、全員を平等に扱うことはできません。全員に同じ出場時間を与えるなんて不可能ですよね。私の監督としての仕事は、チームを強くすること、選手を成長させること。上のレベルの子たちを引っ張るので、みんな頑張ってついてきてほしい。ついていけない子のためにコーチがいるので、一番後ろからサポートしてもらう。そのように役割分担をしています」

女子選手の指導歴が長い川邊さんの考えは、サッカーに限らず、職場などで女性と接する人にとっても、大いに参考になる話ではないでしょうか。

次回の記事では、女子選手に多いケガの種類と、予防のために取り組んでいることを紹介します。

 

 

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