こころ
2013年12月19日
自主練にも役立つ!子どもたちの成長段階に適したトレーニングとは
前回は、「成長」と一言で片付けていた子どもたちの発育、発達もそれぞれタイミングがあることをお話ししました。今回は子どもたちの来るべき成長タイミングをサポートするために保護者の方に必要な知識について考えてみましょう。
「小学生のうちは筋力よりも体幹を鍛えた方がいいので」「コーディネーショントレーニングが重要です」「やっぱり日本人はアジリティを伸ばさないと」
ん? タイカン? コーディネーション? アジリティって? こんな言葉が子どもたちのサッカーの現場で日常的に飛び交っているようなら、日本のジュニア年代は相当進んでいるということになりますが、子どもたちのためにサッカーの勉強をしているお父さん、お母さんはこれらの言葉を耳にしたことがあるかもしれません。「聞いたことがない」という人も、これらのキーワードを理解できると、子どもたちの成長やトレーニングに理解が深まり、チームの練習がない日の自主練に役立ちます。基本的には難しいことは専門家であるコーチにお任せでいいと思いますが、知識として理解しておくことは無駄にはなりません。
■体力ってなんだ?
トレーニングや用語の説明に入る前に、みなさんに質問があります。「体力」ってなんでしょう? 体力と一口に言っても様々な要素があり、それらが複雑に絡み合って成り立っています。
「この子は体力がないから体力をつけよう」
この場合の体力とはなんでしょう? どんなトレーニングをすれば体力をつけることができるのでしょう?
図は、体力の分類を示したものです。難しい言葉はおいておくとして、一般的に私たちが「体力」「身体能力」と呼んでいるのは行動体力の機能の部分です。先ほどの「体力がない」という例で言えば、何となく持久力の話かな? と思う人が多いのではないでしょうか。体力には身体的要素の他に精神的要素もあり、身体的要素も複雑に枝分かれしています。機能の部分を取ってみても、筋力やダッシュのスピードに関わる瞬発力、いわゆるスタミナに関わる持久力、柔軟性があり、さらに平衡性、敏捷性、協応性、巧緻性と耳慣れない言葉が続きます。これらは、調整力と呼ばれるもので、冒頭にご紹介した「コーディネーショントレーニング」は、調整力を鍛えるためのトレーニングです。洋服のコーディネートと同じで、調整、全体をまとめることという意味があります。スポーツでは、身体の使い方を調整して、全体的なパフォーマンスをスムーズに行うためのトレーニングとして用いられています。
ちなみに冒頭に紹介したアジリティは、敏捷性を示す言葉です。以前、詳しくご紹介しているので、詳細はコチラをご確認ください。
■タイミングによって必要なトレーニングも変わってくる
次のグラフは、1986年に宮下充正(現東大名誉教授)が発表した、年齢によって成長する部分が違うので、成長タイミングに合せてスポーツ指導をすると、効果的な強化が行える論拠を示すデータです。
グラフを見ればわかるように「動作の習得」はかなり早い時期にピークを迎えています。11歳以下はいろいろな動作に挑戦し、スマートな身のこなしを身につけることとされています。脳や神経系の機能が成長する期間、最近では12歳までをゴールデンエイジと捉えているのは、こうした背景があるからです。
身長や粘り強さは10代前半、力強さは10代後半に伸びてくるというこの図は、小学生のお子さんをお持ちの保護者の方には「なるほど」と言いたくなるような曲線かもしれません。
子どもたちは遊びの中でドリブルやフェイントのテクニックを覚えたり、面白いと感じたトレーニングには熱中して取り組みますが、いくら「プロサッカー選手になりたい」「バルセロナに入りたい」と夢を語っていても、「そのためにはつらい練習を」という粘り強さはまだ育ってきていません。筋力トレーニングや、負荷のかかるトレーニングが子どもに良くないのも、成長段階を踏まえれば当たり前のことです。筋力はもう少し後に自然とついてくるものです。この時期は調整力や、文字通り“身体の幹”の部分、体幹を鍛えるトレーニングをして、より根源的な力の出し方を覚えていくのがいいとされているのです。
■自主練、コソ練も成長段階に沿ったものを
こうしたトレーニングの指針は、主にコーチが子どもの成長段階に応じて考えてくれていますが、お父さん、お母さんも頭の片隅に覚えておいて損はないでしょう。「パワーが足りないからもっと筋肉付けなきゃ」「もっと走り込んでスタミナを付けなさい」サッカーのことはよくわからないからと、そんな“自主練”を提案していませんか? タイミングを外した無理なトレーニングは、効果がないばかりか、ケガや慢性的な痛みの原因になることもあります。
子どもの成長はそのタイミングが来ないと伸びない場合もあるのです。親が焦っても子どもは成長しません。このことをしっかり意識して、待つべきときは待つこと。おうちで自主練やコソ練をやるにしても、子どもの身体心の成長にフィットしたトレーニングをすることが大切です。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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