こころ

2014年1月17日

あなたならどうする? 海外選手に学ぶフェアプレーの選択肢

右サイドのスペースに出たボールを追いかける味方選手が相手GKと接触。ボールはライン際に走り込んだ味方選手の前に転がりますが、GKは倒れたまま。レフェリーの笛は鳴らず、試合は続きます。無人のゴール。右サイドからあなたにクロスボールが上がって来ます。ゴール前にいるあなたはどうしますか?
 
<<サッカーにおけるスポーツマンシップ いま伝えたいフェアプレー
 
 

■聖パオロの起こした奇跡

 2000年、12月。プレミアリーグのウェストハムに在籍していたイタリア人プレイヤー、パオロ・ディ・カーニオ選手は、こうしたシチュエーションのなか、倒れているGKを確認したあと、センタリングを両手でキャッチしプレーを止めるという選択をしました。
 
 スコアは1-1。試合はロスタイムに突入し、残り時間はあとわずか。ディ・カーニオ選手には無人のゴールにシュートをする選択肢もあったのですが、味方から送られたクロスボールを抱きかかえるようにしてキャッチし、倒れているGKジェラード選手のもとに歩み寄りました。
 このプレーはイングランドだけでなく世界中のサッカーファンから賞賛を浴び、のちにFIFAフェアプレー賞を受賞することになります。
 
 パオロ・ディ・カーニオ選手は現役を退き、監督を務めるようになったいまでも時折問題を起こす“暴れん坊”として知られた選手でした。そんな選手が見せたフェアプレーに驚いた人も多かったのですが、クリスマス前のこのフェアプレーは“聖パオロの奇跡のプレゼント”としていまも語り継がれています。
 
 手を使ってはいけないスポーツであるサッカーでは「ハンド」の反則がゴールを左右することが少なくありません。
 コーナーキックで得たチャンス。ゴールを決めたあなたは実はハンドの反則を犯していました。レフェリーは気づいていません。相手選手は猛抗議をしています。
 
こんなときあなたならどうしますか?
 
 

■ハンドしました! クローゼとオッツェの正直な告白

セリエAラツィオに在籍していたドイツ代表FWミロスラフ・クローゼ選手は、ゴール直後、ハンドを犯したことを正直にレフェリーに告げました。結局、このゴールは取り消しに。熱狂的な応援で知られるイタリアですからサポーターの反応は賛否両論でしたが、クローゼ選手の行いもフェアプレーとして賞賛されました。
 
クローゼ選手はこのできごとについて、
「多くの若者たちが観ている。彼らにとって自分たちは模範にならなければいけない」と語り、ハンドの申告は「自分にできる最低限のこと」と言っています。
 
かつてジェフ市原に在籍し、オッツェの愛称でリトバルスキー選手らと活躍としたフランク・オルデネビッツ選手は、ブンデスリーガ、ブレーメン時代に、なんと優勝がかかった試合でハンドを認め、PKを献上したことがあります。試合は0-2でブレーメンの敗戦。そのシーズンの優勝を逃したのですが、ブレーメンはオルデネビッツを批判するどころか「すばらしいフェアプレーだった」とクラブからコメントを発表。サポーターたちもこのプレーを誇りにしたと言います。
 
 

■フェアプレーはサッカーの大切な要素

 サッカーは瞬間の判断が問われるスポーツです。ボールが飛んでくる瞬間、ゆっくり考えたり、迷っている暇はありません。そのとき、瞬時の判断でどういう行動ができるでしょう。ディ・カーニオ選手やクローゼ選手、オルデネビッツ選手は、数ある選択肢の中からフェアプレーを選び取った瞬間、どんなことを考えていたのでしょう。おそらく「身体や心が自然に動いた」のではないでしょうか?
 
 いま、元気にサッカーに打ち込んでいる子どもたちのすべてがプロになれるわけではありません。それでもサッカーを続けることに意味があるとするならば、こうしたフェアプレー精神や正直さを学ぶ場だからと言うのも、大きな理由のひとつになるのではないでしょうか。
 
 こうしたプレーには「勝負に徹するべき」「甘い」という批判もついて回ります。実際のところ、ディ・カーニオはイタリアに戻ったあとに彼らしい軽口とは言え「プレミアでのフェアプレー? ローマダービーでそんなことするわけないだろ。この国とイングランドでは文化が違うんだ」と、興味深い発言を残しています。
 
 
 サッカーというスポーツ、ましてや子どもたちのサッカーは、周りの大人たちが向ける眼差しによって、大きく変わっていきます。勝利だけを求める大人たちに囲まれていれば、とっさのときに公正さや正直さよりも、勝利を優先させるかもしれません。反対にサッカーの成立や歴史、本質を理解している人たちに囲まれて育てば、サッカーを通じてスポーツマンシップやフェアプレーを学ぶことになります。
 
 瞬間的に判断を求められたとき、あなたならどう行動するか? どう行動した方がいいと子どもたちに伝えるのか? 答えはぜひ、子どもたちに自分で考えてほしいものですが、トップレイヤーたちの見習うべき行動やプレーを話してあげるのも大切なことなのかもしれません。
 
 
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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