こころ
2014年7月29日
W杯で日本代表も陥った!ポジティブ思考の落とし穴
■とらわれない内田篤人の強さ
――つまり、禅の精神で自然体なタイプの選手がキャプテンとしてチームの中心にいて、本田はむしろ異端になるチームのほうが良いということですか?
そう。それはいい。「本田がまたうそぶいているけどさ、天気はどう見たって悪いから」と、自然体で言える人がいればそれでOKですよ。全員が禅の思考ばかりでも面白くないし、本田みたいなタイプがいてもいい。あるいはポジティブとかネガティブとか何も考えていない桜木花道のようなタイプ、岡崎はそういう感じがするけど、そういう人がいてもいい。最終的には揺らがず、とらわれずというメンタルをチーム全体でやるために、そういう意味で「今に生きる」という充実感を自分の中に作れるかどうか。それを誰がやっていたのだろうかと、思います。
ただ、内田篤人に関しては、とらわれていない感じを受けましたけどね。
――内田の話は、ぼくもすごく印象的でした。ギリシャ戦の試合後には、「みんな初戦だから勝たなきゃいけないとか、ワールドカップだから勝たなきゃいけないとか、ギリシャは10人だから点を取らなきゃとか、いろいろなことを言うけど、ぼく自身はいつも勝つのが好きでサッカーをやっているだけ。だから練習試合もワールドカップも変わらない」と。そういうことを言っていました。
いいですね。そうやって状況にとらわれず、目の前のものに勝つためだけに純粋にやっている感覚を、全員がもうちょっと持ってほしかったな。「4年に一度」とか「いよいよ」とか考えると、とらわれてしまう。言葉はすごく重要なんだけど、言葉はとらわれを作っていく。禅の思考からすると、黙して語らず、があってもいい。
今回のワールドカップでいちばん良かったのは、ザックがイタリアに帰るとき、長谷部と内田だけが見送りに行った場面ですよ。あのときの笑顔が最高。ああいう感じで、なぜ本番もやらないのだろうと思った。ザックに対する感謝の気持ちと、お互いが分かり合っているなという、あの感覚で。あの3人がああやって笑い合ってやる感覚がいちばん良かった。
――結果として負けたのに、監督に感謝して見送りに行ったのは、ザックと一緒にサッカーしたこと、それ自体が充実して楽しかったということですよね。
そうです。だから素晴らしいと思った。他の人がなぜ顔を出さないのかという疑問は残るけど、あの2人の笑顔は素晴らしかった。あれを試合でやってくれたらな、と思いました。
辻 秀一
スポーツドクター。株式会社エミネクロス代表。
1961年東京都生まれ。99年、QOL向上のための活動実践の場としてエミネクロスメディカルセンター(現:(株)エミネクロス)を設立。スポーツ心理学を日常生活に応用した応用スポーツ心理学をベースに、パフォーマンスを最適・最大化する心の状態「Flow」を生みだすための独自理論「辻メソッド」でメンタルトレーニングを展開。エネルギー溢れる講演と実践しやすいメソッドで、一流スポーツ選手やトップビジネスパーソンに熱い支持を受けている。現在、「辻メソッド」はスポーツ界だけではなく、そのわかりやすく実践しやすいメソッドに反響を得てビジネス界、教育界、音楽界に幅広く活用されている。またドクターという視点を活かし、現在は健康経営という考え方を取り入れた新しい企業の経営の在り方を、産業医として取り組み、フローカンパニー創りに大きな成果を上げている。辻メソッドの真髄を学べる「あなたの人間力を10倍高める心と脳のワークショップ」は、一流アスリートやトップビジネスパーソンから大学生や主婦、コンサルタント、経営者まで、老若男女が参加。心と脳の仕組みをわかりやすく、すぐに実践できるこのワークショップは毎回大きな感動を呼び、受講者から「世界NO.1」との声もあがっている。また、スポーツの文化的価値の創出を提供するNPO法人エミネクロス・スポ-ツワールドの代表理事もつとめる。複数のスポーツが1日で楽しめるスポーツのディズニーランド「エミネランド」や、スポーツを "する" だけではなく "聴く" "支える" という形でスポーツに触れる機会を独自の形で提供している。「スポーツを文明から文化」にする活動をミッションに一般社団法人カルティベイティブ・スポーツクラブを設立。2013年より日本バスケットボール協会が立ち上げる新リーグNBDLに東京エクセレンスとして参戦予定。