こころ
2014年7月30日
勝ちたいに決まっているから「絶対に勝つ」なんて言葉はいらない
今回もメンタルトレーニングの第一人者である辻秀一先生に、ザックジャパンの評価を伺います。前編ではワールドカップ優勝を宣言したことについてお送りしましたが、後編は「自分たちのサッカーをする」という発言を中心に伺っています。
聞き手・構成/清水英斗 写真/田川秀之
■“自分たちのサッカー”はメンタルを整えたのか
――もう一つ辻さんにお聞きしたいのは、「自分たちのサッカーをする」という選手の発言についてです。戦略的な面ではなく、この発言をすること自体が、チームのメンタルを整える方法として成り立つと考えられますか?
それは、自分たちが信じるものをどこに置くかだと思います。勝った負けたという結果を信じるのは苦しい。結果はマルチファクトリアル(多因子)のものだから、それに自分の心を任せると、最初に1点を取られた瞬間に不安がよぎる。
結果を信じる人というのは、次に自分たちの行動(戦略)を信じるものです。つまり「自分たちのサッカー」を信じようと。ただし、この自分たちのサッカーも、相手のディフェンス次第で、あるいはオフェンス次第でやれなくなる可能性があるので、そこにのみ信じるものを置くと、結局、試合ごとにブレることになります。
――たしかに「もっと引いて守ったほうがいい」といった話は、チームの内外から根強く出てきますね。それが正解か不正解かの前に、その考えがチーム内から出て、ブレることのほうが問題ではないかといつも思っていますけど。
だから結果や戦略よりもっと手前に、自分たちの理念を信じることが大事です。わたしが代表を務める東京エクセレンスだったら、「ノーフロー、ノーウイン」。どんなときも、うちはフロー(心がスムーズに流れるごきげんな状態)でプレーする。
その理念は、手放さなくて済むんですよ。たしかに結果は一番自信がつきます。やるべきことがやり切れたら、それも自信になる。でも、得られる自信が大きいぶん、リスクも大きい。
もっと普遍的に、結果依存型じゃなくて、このチームが大事にしているものとか、もっとみんなの支えになるようなキャッチフレーズを強烈に掲げるほうがいい。エクセレンスのプレーヤーたる者どうあるべきなのか、などです。メンタルトレーナーがいたら絶対にやると思います。
――長谷部は「この先、10年後、20年後も日本のサッカーの基盤になるものを見せたい」と言っていましたけど、それはモチベーションとして支えになり得えますか?
なり得るけど、ピンと来ないですね。本当に20年後の基盤になるのか。3敗したけど、実際にそうなったのか。
――なっていないですね。日本の基盤としてみんなが納得するかどうかは、結局、結果に左右されると思います。
■無理のない「自分たちはこうありたい」を持つこと
少なくともこの4年間、ブラジルにいる間だけでも、メンバーが統一して大事にできるチームの“あり方”が必要なんですよ。メンバーのエネルギーの源泉として、自分たちの“あり方(~たい)”をどこに持って行くか。「結果を出したい」「日本のサッカーをしたい」じゃなくて、自分たちはこう“ありたい”。
自分たちはこうありたい、というのは誰にも邪魔できないから、揺るがない。0-2で負けていようが、0-10で負けていようが、自分たちはこうありたい。それが揺るぎないものです。
――たとえば「あきらめないサッカー」とか「勇気あるサッカー」とか、そういうキャッチフレーズならチームの支えになり得ると。
そういうことです。
――なるほど。
できることに注力しなければいけない。結果の要素が入るほど、不安がよぎる。それを払拭するために、本田は「絶対にできる」と、不安の上からポジティブな絵の具をかけて、「勝てる」と思えばいいじゃないかと。無理をしているから、本田はブレが大きい。そうじゃなくて「おれたちのサッカーは感謝だ」とか、そういうのがいい。
――今回、試合に負けた後に本田が言っていたのは、いちばん辛いのはこの4年間でやってきたことをすべて否定しなければいけなくなったことと、そう言っていました。
それじゃダメでしょう。まあ、彼のやり方らしいよね。結果が出ないと肯定されないから。だから負けた試合の後に、ファンにあいさつに行かないとか、そういうことが起きます。
ファンはもちろん勝ってほしいけど、ファンというのは一生懸命にやってくれるその姿のファンなんですよ。だから負けたって、あれだけの人数が成田や羽田に行くわけだし、最後まで信じて応援してくれる人はすごいわけで。コロンビア戦が1-4で上に行けないと分かっていたって、応援する。本当のファンはそういうものです。結果にすべてをゆだねてしまう、本田の支配を何とかしなければいけないと思いますよ。
勝つために全力を尽くしているけど、その結果に対しては、サクサク置いて来ることが重要。そのためには、後ろ側にあるもの(あり方)をつねに大事に持っていないといけない。全員が勝つためにやっているけど、勝負事だから3試合やれば負けることもある。それに一喜一憂しないためには、そこに左右されないものを、どれだけチームとして持っているかが重要です。