こころ
2016年5月13日
「あらゆる欠点にも、ひとつは長所がある」岡崎慎司も所属する奇跡のチームに学ぶ長所を伸ばす重要性
サカイク読者のみなさんは、サッカー日本代表でも活躍する岡崎慎司選手が所属するレスター・シティFCがイングランドプレミアリーグで優勝したことはご存知ですか?
ああ、そういえばニュースになっていたね。
日本人の多くはそのような感想に留まっていますが、同チームは昨年リーグ1部に昇格したばかりで開幕前の優勝オッズはなんと5000倍。レスター・シティの快挙は、本国イギリスでは"奇跡"と称賛されています。
今回レスター・シティは、なぜ過酷なプレミアリーグを優勝することができたのでしょうか? サッカーライターの清水英斗さんは彼らの強さのヒミツが、"誰にも負けない長所に自信を持っていること"にあると言います。
あなたのお子さんは、自分の長所に自信を持ってプレーしていますか?(取材・文 清水英斗)
■ビッグクラブを粉砕した"一芸集団"の強さのヒミツ
プレミアリーグで、岡崎慎司が所属するレスター・シティが優勝を果たしました。
格差社会をそのまま映したような欧州リーグで、2部や3部との昇降格を繰り返すエレベータークラブが優勝を果たすなど、奇跡としか言えません。私が生きている間に、二度と起こらないかもしれない、それほどの奇跡です。
しかも、これはリーグ戦でした。
一発勝負のトーナメントなら、まぐれや勢いで優勝することはありますが、リーグ戦は38試合の総勝ち点で争われるので、運だけでは勝てません。真の実力を身に付けたレスターは、王者にふさわしいチームでした。
私がレスターからもっとも強い印象を受けたのは、彼らが"一芸集団"であったことです。
レスターの年間強化予算は約50億円で、マンチェスター・シティやチェルシーといったビッグクラブとは約4倍の差があります。つまり、“高い選手”はビッグクラブに持って行かれるので、レスターには手が出ません。
では、“高い選手”とは何でしょうか?
それは、何でもできる選手。野球で言えば、打って走って守れる選手。アイドルで言えば、歌って踊ってトークもおもしろい人。
昨今のサッカーでは、センターバックにも技術が求められたり、FWにも守備が要求されたりと、求められる戦術が多岐にわたるようになっています。試合中に使い分ける戦術の要求に応えるためには、一芸だけでなく、二芸、三芸でトータルに優れた選手でなければいけません。そういう選手は、自然と評価が高まります。
しかし、そういう誰が見てもすごい選手は、レスターの予算では手が出ません。
そこでレスターが補強したのは、足りない能力も目立つものの"誰にも負けない長所"に自信を持っている人。そういう選手を集めて、堅守速攻型のチームを作り上げました。
■英雄たちの長所と、その活かし方とは
MVP級の働きをしたセンターハーフのエンゴロ・カンテは、身長が169センチしかありません。スカウトから強く勧められたカンテの補強ですが、クラウディオ・ラニエリ監督は当初、そんな小さな選手がプレミアリーグに適応できるのかどうか不安に思い、獲得には消極的でした。
ところが、カンテには誰にも負けない“ボール奪取力”があります。今季のタックル数とインターセプト数はリーグトップ。運動量が多く、ドリブルでボールを運ぶ推進力もあります。このボールを奪う力と、前に運ぶ力が、カウンター戦術のレスターにぴたりとはまりました。
“小さい”というカンテの欠点ばかりに目が行く人には、この補強は決断できなかったでしょう。裏を返せば、そうやってみんなが二の足を踏むからこそ、レスターが獲得できたとも言えます。
また、センターバックのロベルト・フートと、ウェズ・モーガンも、現代サッカー的なDFとは言えません。技術があまり高くなく、フートはスピードにも難があります。彼らがバルセロナのようなポゼッションチームで活躍できるかといえば、まず無理でしょう。
しかし、彼らは空中戦にかけては、誰にも負けません。球際の強さも、誰にも負けません。レスターは堅守速攻なので、引いて守り耐えるシーンも多かったですが、ことごとく、フートとモーガンが跳ね返しました。
点取り屋のジェイミー・ヴァーディも同じです。
裏へ抜ける動きとスピードが一級品のヴァーディですが、過去にはセカンドアタッカーやウインガーとしてプレーしました。しかし、ラニエリ監督は、その彼をセンターフォワードで起用。カウンターのキープレーヤーに指名しました。
カウンターといえば、素早く縦パスを入れて、落として、3人目が走り抜けるといった、いろいろなパターンがありますが、レスターはとにかくシンプル。自陣に引いて守備をするので、敵陣にスペースがあります。そこへロングボールを蹴り込み、ヴァーディや岡崎が、よーいドン!で、一発で裏を陥れます。
やることは単純ですが、レスターはそれを愚直にやり続けました。相手に読まれても、対応されても、お構いなし。
もともとが一芸プレーヤーの集まりです。多様な戦術を求められても、いろいろなことはできません。胸がすくほど、彼らは開き直って愚直に、“自分たちのサッカー”をやり続けました。
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