こころ
2017年12月 6日
子どもたちを暴力・暴言から守るために、大人がすべき事とは 「暴力・暴言」への対処法(2)
前回は、サッカーの現場で暴力行為を発見したときの対処や、暴力根絶宣言から約4年経った現在の報告件数、ウェルフェアオフィサーの取り組みなどをお伝えしました。
日本サッカー協会(JFA)では、暴力根絶宣言を行うより以前から「リスペクト宣言」をしています。全日本少年サッカー大会の試合では、必ずと言っていいほど選手宣誓で「リスペクト」という言葉が使われていて、すっかり一般的になりました。けれど「リスペクト」とはどういう意味なのでしょうか? JFAの常務理事であり、かつては審判委員長を務めていた松崎康弘さんにお話しを聞きました。(取材・文:前田陽子)
■サッカーに関わるすべてをリスペクトする
リスペクトとは英語で尊重という意味です。JFAではこのリスペクトという言葉を「大切に思うこと」と言うことにしました。選手たちは、チームメイトはもちろん、相手チームも審判もボールやスパイクも学校のグラウンドもサッカーのルールも「リスペクト=大切に思いましょう」と話しています。それは、レフェリーやコーチ、保護者も同様。サッカー用具の準備や片付けなど、子どもたちがグズグズしていると保護者は、ついつい手を出したり、口を出したりしたくなりますが、子どもができることは子どもがやることが原則です。自分たちのことは自分たちでできる、そんな子どもたちをリスペクトしましょう。指導はコーチに任せ、レフェリーは審判に任せ、プレーは子どもたちに任せる。親にできることは、応援して見守ることなのです。
子どもたちが将来どのくらい伸びるのかはわかりません。子どもは親の理想の人生を生きているのではありませんから、もしかしたら期待に沿えないかもしれません。それでも、子どもたちには無限の可能性が広がっています。将来に向かって子どもたちがサッカーを楽しむ、サッカーと通じていろいろなことが学べる、親はそういった環境を作ることで子どもたちをサポートしましょう。
コーチはまず第一にサッカーを教えなければなりません。活躍できる選手を育てることも大事ですが、子どもたちがサッカーを楽しめるようにすることが何よりも大切です。
「10年前に比べると、子どもたちはリスペクトを理解しているし、サッカーの現場もだいぶ変わってきました」と松崎さん。「コーチたち指導者も、言動には細心の注意を払って子どもたちに接してくれています。親御さんたちが、審判に文句を言っているシーンはすごく減りましたね。」
■今の結果ではなく、10年後・20年後を見据える
現在、小学生年代を教えるC級・D級の資格を持つ指導者の登録人数は全国で約7万人、レフェリーは約30万人で、全員が研修などで常に「暴力根絶」について学んでいます。その成果もあり、有資格者のコーチやレフェリーには暴力根絶への意識づけはできています。
とはいえ、コーチには勝利という結果が求められます。評価によってはコーチとしての立場を失ってしまうこともあり、勝ちに執着するあまり、子どもたちへの配慮が欠けてしまうことも多々あります。けれど、子どもたちにとっては今の勝利より、10年後20年後にいい選手、いい人間になれることの方が重要なはず。10年後20年後もサッカーが好きでいられれば、今の勝ち負けは大きな問題ではないのです。コーチだけでなく、親やサポーターもそういう考えになれることが理想です。
「ドリブルひとつとっても、最初からコーチの言う通りにできる子どもはあまりいません。子どもは子ども。できないことがあるのは当然です。どこの社会でもそうですが、『どうして〇〇はできないんだ』ではダメ。大人ができるのはその経験があるからなのですから」と松崎さんは言います。できないことを要求するのではなく、できるようにするにはどうしたらいいのかを考え、それを実行することが大人たちには求められていることで、できないことにチャレンジし、失敗や成功から学ぶことが子どもたちの成長に役立ちます。