こころ
2018年6月 4日
「負けず嫌い」って何? 改めて考えるサッカーにおけるメンタルの重要性
サッカーに限らず、多くのトップアスリートの子供時代には、ある一つの共通点があります。それは「負けず嫌い」だったということ。国内外のトップ選手たちが「自分は負けず嫌いだった」と話しているインタビューをよく見かけますし、その選手の周囲の関係者も「誰よりも負けず嫌いだった」と言っています。
では「負けず嫌い」とはいったい何でしょうか?
勝負に負けて悔し泣きをする選手? できないことをできるまで何度もトライする選手? 単純に人よりも少し我が強い選手? 一般的には、向上心のあるポジティブなものだとする捉え方があります。
そもそも、遺伝のような先天的なもの、環境によって培われる後天的なものを問わず、その人の「性格」といった捉え方をしているケースもあるでしょう。でも、本当にそうなのでしょうか?
トップ選手に多く見られるこの「負けず嫌い」を紐解くことで、子どもの将来の可能性が、また一つ大きく広がっていくのではないでしょうか。ここではそんなテーマについて考えてみたいと思います。
このテーマに答えてくれたのは、メンタルトレーニングコーチとして多くのアスリート、チームに携わってきた株式会社メンタリスタの代表取締役・大儀見浩介さん。サカイクでは以前にもメンタルの重要性に関して大儀見さんからアドバイスをいただきました。今回も、サッカーに取り組む子どもの将来に大きく関わってくる「心の持ち方」と「保護者の関わり方」が見えてきました。
(取材・文:本田好伸)
■トップ選手に共通する「負けず嫌い」の真の意味
そもそも「負けず嫌い」とは何でしょうか?
「『負けず嫌い』とは専門用語では『勝利意欲』と言います。これは勝ちたいという意欲や気持ちの強さのことですが、『負けん気』や『勝利主義』と表現されることもあります。これらは『やる気』や『モチベーション』を表すメンタル面を示す概念の一つです」
大儀見さんの説明によると、「負けず嫌い」とは「やる気」という心理面を表す言葉の一つの側面だということです。そうすると、この「やる気」の度合いによって、人は向上心を持って成長したり、試合でパフォーマンスを高めたりできる、ということなのではないでしょうか。
例えば「やる気がある」とは、どんな場面でもポジティブに捉えられていますから、一般的にもイメージがしやすいと思います。でもこの「やる気」という概念にこそ、重要なテーマが隠れているようです。
「やる気には『やらされている』やる気と『自ら進んでやる』やる気の2種類があります。前者は、結果や評価を気にしながらやっているために、試合に勝ったとしても『勝てて良かった......』とホッとするんです。逆に、負けた時は悔しい気持ちよりも『ヤバイ、どうしよう』という感情が生まれてきます。一方で後者は、勝った時にはすごく嬉しい気持ちになりますし、逆に負けるとすごく悔しい気持ちが湧いてきます」
大儀見さんは、前者の「やらされているやる気」を「動物園の動物と同じ」と言います。「動物園の環境は、動物からすると至れり尽くせりですよね。餌も出てくるし、掃除もしてもらえるし、外敵に襲われることもないし、種の保存もしてくれます。だからやる気があるのかどうかも分からないような状態です」。
仮にやらされていたとしても、結果が出ている時にはやる気があるようにも見えますが、これは結果や周囲の評価、比較、ランキングなどに起因しているために、"結果でしか"心を満たせなくなってしまいます。
「子どもはどうしてスポーツをするのかというと、原点にはエキサイティングしたいという気持ちがあります。その際に避けようとするのが"退屈"です。だから、つまらなくなったらやめるんです。でも前者の場合は、エキサイティングでも満たされなくなる。結果が出ないとモチベーションも上がらないですからね。だからこそ、自分でやる気をコントロールできるようになるのが望ましいんです。ハンドルを自分で握って、自分でやっている感覚を持つこと。頑張っているんだという主体的な気持ちになれるかどうかということです。それが『やる気』という大きな気持ちとなって、探究心や向上心へとつながっていきます」
自分が主体となって頑張るということは、まさにトップ選手たちが続けてきたことでもあるはずです。「トップ選手は、負けるのが嫌で頑張ってきました。でも決して、常に勝ち続けてきたわけではありません。それに才能があったということでもないんです。勝敗にかかわらず、どんな時でも諦めずに継続してやってきた。つまり『やり遂げる力』があったということです」
この「やり遂げる力」こそが、トップ選手に共通する「負けず嫌い」の本当の意味ではないでしょうか。