勉強と進路
2013年3月 6日
なでしこの経験を活かして――女子選手の進路選択が、日本女子サッカー界の方向性を決めていく?
女子選手の進路について考えています。第2回は、男女が一緒にサッカーをすることの意義、マイナス面ばかりではない日本女子サッカーの“サッカー”へのアプローチを探ってみます。
■街クラブがなでしこを世界一に
「街クラブで男子と一緒にやっていた選手は激しいプレーもできますよね。お兄ちゃんがいて、目標にしている女子選手も多いですね」
数年前、女子サッカー界の新星と話題になっていた岩渕真奈選手の取材に伺ったときのことです。当時の所属チーム、日テレ・メニーナの寺谷真弓監督は、岩渕選手の活躍の秘密を「ひとつ挙げるとするなら」と前置きした上で、こう話してくれました。
その後、岩渕選手はなでしこジャパンに選ばれ、W杯優勝、ロンドン五輪銀メダルを経験。出場時間こそ少ないものの、随所に持ち味のドリブルのキレを見せてくれました。ケガに悩まされてはいますが、これからのなでしこを背負って立つ逸材の一人です。
彼女がサッカーをはじめたのは、松本山雅FCでプレーする兄、良太選手の影響。岩渕真奈選手も武蔵野市にある関前SCという街クラブで男の子に混じってプレーしていました。当時のクラブは女子の入部を想定しておらず、お兄ちゃんにくっついて、いつも練習にきていた真奈選手の熱心さを見て規約を変えたそうです。男の子のなかに入っても一番の負けず嫌い。とくに1対1では上級生相手だろうが大人相手だろうが勝つまで挑み続け、ついには相手が「参った」というのが日常の光景だったそうです。
2011年のW杯優勝、そして記憶にも新しいロンドン五輪での銀メダル。日本の女子サッカーは名実ともに世界のトップクラスにあります。その理由の一端に、冒頭に出てきた「街クラブ」、「男女混合の小学生時代」というキーワードを挙げる人も少なくありません。
なでしこメンバーの多くが街クラブで育って、まだ少数派だった女子選手として良き指導者に出会えた。なでしこの快挙は長年育成年代を地域から支えてきた、街クラブ関わるすべての人たちの勝利でもあったのです。
■日本は“サッカー”を アメリカは“女子サッカー”を
岩渕選手にコメントしてくれた寺谷監督は、なでしこたちを多く輩出したメニーナで選手育成にあたり、現在は名門・日テレベレーザを率いています。彼女は別のインタビューで、日本の躍進の理由を問われて、
「日本は“女子サッカー”をやろうとしてないからじゃないかなと思いました。逆にいえばアメリカは“女子サッカー”をしている」
と答えています。
ん? 女子サッカー? 日本も女子がやってるんじゃないの? これには少し解説が必要かもしれません。
アメリカの女子サッカーの競技人口はなんと167万人! 日本は4万6千人と言われています。当然育成年代の競技人口も女子チームを組むのに十分な競技人口がいて、男子のサッカーとは別に「女子サッカー」がきちんと存在感を示しています。
もともとのアメリカのサッカー観もあるのでしょうが、とくにアメリカの女子サッカーは、スピードとパワー、身長と足の速さが求められるスポーツとしてとらえられています。アメリカのエース、身長180㎝の大型FWワンバック選手や抜群のスピードでなでしこを苦しめるモーガン選手を見れば「アメリカのサッカー」がわかると言ってもいいほどです。日本人になじみのある、バルセロナの華麗なパスサッカーというよりは手を足に置き換えたバスケットボールに近い感覚といえばわかりやすいでしょうか。
ヨーロッパの国々も、近年フランスをはじめとするパスサッカー国が台頭してきているとはいえ、どちらかというと恵まれた身長を武器に戦うチームが多いのが現状。
■女子チーム? 男女混合チーム? どっちでプレーする?
一方日本は「女子サッカー」に特化するのではなく、あくまでも「サッカー」として捉え、日本の特性と言われる足下のボ-ルテクニックのうまさ、パスの精度、キックの精度を高める努力を続けてきました。
これにはなでしこたちの多くが小学生時代、男子に混じって「サッカー」を思う存分にやりきった経験が生きています。「目標はお兄ちゃん」とボールを蹴り続けた岩渕真奈選手、府ロクサッカークラブで男子を圧倒していた澤穂希選手、大沼SSSではチームメイトを押しのけてPKを蹴っていたという岩清水梓選手・・・・・・。
宮間あや選手に至っては、小学生時代に対戦した柏レイソルの大谷秀和選手が、女の子とは思わずに「この選手はすごい」と思っていたという逸話が残っています。
男子に混じって戦ってきた彼女たちの基準はいつも「サッカー」でした。競技人口が少なく、女子単独チームが作れないからこそ生まれた世界への強み。この先、女子サッカーの競技人口が爆発的に増えて、小学生でも単独女子チームが当たり前になり、練習も男女別がスタンダードになったとしたらこのアドバンテージはなくなってしまうのでしょうか? 前回紹介したように、中学生からは女子チームでプレーするのがベターとして、小学生のうちはどちらでプレーしたらいいのでしょう?
なでしこのW杯優勝を機に、女子サッカー界は確実に変わりました。フランスをはじめとする欧州勢、元々走力を武器にしていたアジア勢、そしてフィジカル一辺倒から変化の兆しが見えるアメリカ。すべての国が“サッカー”を志向するようになったのです。なでしこはそれらのチームに今度は何で対抗するのか。女子選手の進路、選択のひとつひとつがこれからの日本女子サッカー界の方向性を決めていくのかもしれません。
【サッカーやろうよ 女子チーム検索サイト】
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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