テクニック
2013年5月27日
UEFAチャンピオンズリーグファイナルに学ぶ、世界トップクラスのテクニックと駆け引き
バイエルン・ミュンヘン対ドルトムント。ドイツ勢同士のチャンピオンズリーグ決勝はすばらしい試合でした。
ドイツサッカーには『ツヴァイカンフ』というサッカー用語があります。これは直訳すると『1対1の決闘』という意味ですが、サッカーでは球際の競り合いというニュアンスで使われます。ドイツのサッカー専門新聞『キッカー』には、ポゼッション率などと並び、ツヴァイカンフの勝率も記載されており、いかにドイツが球際を重要視するサッカー観を大事にしてきたのかがわかります。
その価値観は現代サッカーにおいても変わりません。テクニックと運動量を活かす新たなドイツサッカーを体現する2チームですが、強烈なプレッシングで迫力のある球際の競り合いを見せていました。
特にサイドでの攻防、リベリー対ピシュチェク、ロッベン対シュメルツァー、ブラシュチコフスキ対アラバといった1対1のシーンになると、すぐに周囲がヘルプしてダブルチームで守備へ。特にそれが目立ったのはドルトムントでしたが、バイエルンも、リベリーやロッベンといったスペシャルな選手を含め、全員が攻守に関わり続けました。
攻撃しかできない、守備しかできないという選手は1人もいなかった。それが非常に印象的なチャンピオンズリーグ決勝でした。
では、各選手のテクニックを振り返ってみましょう。
■穴を見逃さなかったロッベンの飛び出し
前回のプレビューに書いたとおり、左足でのドリブルカットインを得意とする選手ですが、ドルトムントの素晴らしい守備を受け、ドリブルはほとんど通用しなかったと思います。
右サイドからカットインを試みると、ドルトムントのディフェンスに徹底的に中央側から寄せられ、ドリブルのボールタッチが大きくなったところで奪われるシーンが目立ちました。同じ左利きのドリブラーでも、やはりメッシに比べると足からボールが離れる時間が長いので、2人目、3人目の相手に引っかかりやすく、ドルトムントのねらいにはまっていました。
しかし、それで終わらなかったからこそ、ロッベンは最後にヒーローになりました。ドリブルがダメなら、ミュラーやマンジュキッチとポジションチェンジしながら中央に入り、裏への飛び出しで自らのスピードを活かす。60分の先制ゴールをアシストした飛び出し、さらに最後は89分にロングボールに反応し、やはり鋭い飛び出しから決勝ゴールを挙げました。
ドルトムントは強いプレッシャーをかけるために全員がボールに食いついていくので、センターバックが前に出たときなど、中央にスペースが空く場面が目立ちました。特に運動量が落ちた後半はそれがより顕著になり、ロッベンの飛び出しは相手の隙をうまく突いたものでした。
この辺りは自らの得意なプレーに固執せず、チームのためにできることを見つけて実行したロッベンのすばらしい働きと言えるでしょう。
■アラバ、シュバインシュタイガーのミドルシュート
後半はバイエルンが優勢となり、ミドルシュートを打つ機会も増えました。GKヴァイデンフェラーのすばらしいセーブに防がれましたが、抑えの利いた鋭いシュートを何発も打ち込みました。
シュートを打つときに力んでしまうと、ついつい足を振り上げる力が大きくなり、ボールをふかしてしまうことが多くなりますが、76分のアラバのシュートは非常にきれいなフォームでした。蹴り足はコンパクトに、フォロースルーを振り上げずに蹴り足をそのまま前方へ押し込むようなイメージ。ボールは鋭い弾道でゴールを襲いました。
もう一つ重要なポイントは、体のバランスをしっかり保つこと。シュートを打った後に、ボールを蹴って振り抜いた足でしっかりと一歩目を踏み、バランスがぐらぐらとしないようになればフォームも安定します。このようなポイントに注意してシュートにチャレンジすると良いでしょう。
ドイツのクラブは本当にシュートやロングキックのうまい選手が多く、勉強になるところが多いと思います。
■ロイスの引きずり突破
後半はあまり姿が見えなくなってしまいましたが、トップ下に入ったロイスのドリブルは、特に前半は脅威を与えていました。
ロイスの得意なフェイントの一つが、前半28分に見せた『引きずり』です。ボールを右足で運んでいる状態で、そのまま右側へボールを運ぶような足の運びから、クイッと足首を返して左側へ切り返しました。足をボールにくっつけたまま、引きずってボールの方向を変えるイメージです。ダンチを抜き去った後、ファールで止められ、ダンチにイエローカードが出されました。
今回のロイスは、ドリブルのスピードに乗っていたので、小さめな引きずりでしたが、これを長く引きずったり、大きく角度を変えるとフェイント効果はより大きくなります。ただし、トップスピードではやりづらいので、ドリブルのスピードに合わせて使うなど、自分で調整しながらやることが大切です。
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