テクニック
2013年10月 1日
ポストプレーで攻撃を組み立てる―豊田陽平選手のテクニック①
Jリーグ27節終了時点で得点ランキング4位タイとなる16ゴールを挙げ、豊田陽平選手は今シーズンもサガン鳥栖のエースとして君臨しています。東アジアカップ、ウルグアイ戦にも日本代表として出場し、今後の活躍が期待される選手です。
豊田選手のプレースタイルを語る上で欠かせないのが、『ポストプレー』。相手のプレッシャーを背負いながら縦パスを受け、そのボールをさまざまな場所へ展開して攻撃を組み立てます。ポストプレーヤーが一度、最前線で基点となり、相手の注意を引きつけることで、周囲の味方が楽にプレーできるのが大きな利点です。
■大切なのは、受け取る味方とタイミングを合わせること
縦パスに対して素早く味方が動き出し、お互いの距離感がコンパクトに保たれている状況なら、ワンタッチでシンプルにボールを落として攻撃のリズムを壊さないように回します。逆にディフェンスラインからのクリアボールを拾うような場面では、味方の押し上げが間に合わず、サポートを受けづらい間延びした状態でポストプレーを行う場面もあり得ます。そのようなときは、ボールをキープして味方が上がるための時間(タメ)を作り、さばくスキルが求められます。
特に鳥栖では、足元のパスをつなぐよりも、空中を飛び交うボールが相対的に増える傾向にあるため、1トップの豊田選手には空中のボールを胸トラップで収めるなど、少しアバウトなボールでも、体を張ってタメを作るプレーが多く求められます。今シーズン、27節終了時点で豊田選手が受けたファウルの総数は69回とリーグ2位。縦に蹴られたボールを完全にキープできなかったとしても、豊田選手がファールを受けて一度プレーの流れを切ることで、味方に再び呼吸を整える時間を与えていることがわかります。
もちろん、そのようなポストプレーで、為すがままに時間をコントロールされることを相手チームの選手は好みません。それを防ぐために、インターセプトをねらって縦パスの球際に激しく寄せてくるでしょう。ポストプレーヤーには、それに対抗するためのちょっとしたテクニックも必要になってきます。
■相手DFとの駆け引きが重要となるポストプレー
豊田選手の場合、185センチという大きな体格があるので、自分よりも小さな相手DFに対しては、背中で押さえ込めば相手はボールに足が届かないので、インターセプトをけん制しながらボールキープすることができます。しかし、体格が同程度か、自分以上のサイズを持った選手に対してこれをやると、相手の足がボールに届いてしまう恐れがあります。そこで、たとえば体を横向きにして、片方の半身で相手の体をブロックし、相手から遠い側の半身でボールをコントロールするテクニックを用いる場面もあります。
また、しつこくマークして球際に強く寄せてくる相手DFに対しては、縦パスが出る直前に自ら相手に体をぶつけておき、すぐに反転してボールに寄ることで、自分と相手の間にわずかなすき間を生み出してボールキープする余裕を作るのも引き出しの一つ。あるいは、縦パスを足元に収めると見せかけて『スルー』したり、ワンタッチで後ろ側にいる味方へボールを流す『フリック』を用いるなど、相手DFに裏を陥れる恐怖心を与えることも、球際の競り合いには有効に作用します。豊田選手のポストプレーにはこのような駆け引きが詰まっています。
そして最も大事なのは、ポストプレーをした後。ボールを味方につなげて満足するのではなく、すぐに裏のスペースへ走り出してリターンパスを要求したり、ファーサイド側にふくらむことで、新たなパスコースを素早く作り出すことが重要です。特にゴールに近い位置では、このような動き直しをする豊田選手のオフザボールの動きが参考になるはず。
ボールを持った瞬間だけでなく、その前後にどのような動きをしているのか。すべてのプレーに共通することですが、ポストプレーにおいてもチェックしてみてはいかがでしょうか?
明日は豊田選手のゴールパターンにおけるポジショニングについてお伝えします。
清水英斗(しみず・ひでと)//
フリーのサッカークリエイター。ドイツやオランダ、スペインなどでの取材活動豊富でライターのほか、ラジオパーソナリティー、サッカー指導、イベントプロデュース・運営も手がける。プレーヤー目線で試合を切り取ることを得意とし、著書は、『あなたのサッカー「観戦力」がグンと高まる本』『イタリアに学ぶ ストライカー練習メニュー100 』『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』『サッカー守備DF&GK練習メニュー100』『サイドアタッカー』 『セットプレー戦術120』など多数。
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