テクニック
2014年6月17日
岡崎慎司がゴールを量産できる3つの理由
2013-14シーズンのブンデスリーガで、マインツに所属する岡崎慎司選手は、欧州サッカーで活躍する日本人選手のシーズン最多得点を、それまでの香川真司選手の13得点から、15得点に塗り替えました。香川選手、本田圭佑選手が苦悩のシーズンを送る中、海外組で群を抜く好調さを見せつけたのが岡崎選手でした。
その個性について、日本代表のザッケローニ監督は「岡崎はこのチームで他の選手にはない特徴を持っている」と評価しています。
有名な話ですが、岡崎選手は、滝川第二高から清水エスパルスに入団したとき、チーム(GK含む)の中で、2番目に足が遅かったそうです。身長は174センチと決して大柄ではなく、足元の技術もめきめきと上達していますが、決してザックジャパンの中で上手いほうの選手とも言えません。
では、なぜ岡崎選手はゴールを奪うことができるのか?
今回はシュートにつながる岡崎選手のアクションについて、3つのポイントを取り上げました。
(文/清水英斗 写真/松岡健三郎)
■アーリークロスはファー詰めがセオリー
1つめは、クロスからゴールをねらうポジショニングです。
基本的には相手ディフェンスラインとGKの間のスペースがどのくらいあるのかによって、岡崎選手は狙いどころが大きく変わります。
まずは相手ラインがペナルティーエリアよりも外側、つまり高い位置に設定されている場合です。クロスとしては、アーリークロスのようなパターンになります。
このとき岡崎選手は、スッと相手センターバックから離れてファーサイド側へ膨らみ、そこからアーリークロスにタイミングを合わせて飛び出すことがほとんどです。理由は簡単。一つは、相手センターバックがボールと岡崎選手を同じ視野の中に入れづらくなること。マークがはがれやすい状況を作ります。そしてもう一つは、アーリークロスは相手DFとGKの間のスペースを横切るように蹴られるため、ニアサイド側から飛び出すと、本当にクロスのスピードと自分の動き出しがピッタリと、タイミングが点で合わなければフィニッシュできません。ところがファーから飛び込めば、もう少しいろいろな場所へ動いて、タイミングを合わせる余裕があるのです。アーリークロスには、ファー詰め。これはセオリーとして覚えておくといいでしょう。
一方、相手ラインがペナルティーエリア内に入っている場合はどうするか?
この場合はファー詰めしようとすると、クロスがその前で相手DFに引っかかってしまいます。ハーフナー・マイク選手くらい身長の大きい選手なら、その上を越えてくるボールをヘディングシュートできるかもしれませんが、岡崎選手には難しいでしょう。
そこでニアサイドへ飛び出し、相手DFの前でクロスに合わせるパターンを多く使います。ここで注意したいのは、早く走り込みすぎて、クロスを待ち受ける形にならないようにすること。ファーとは違い、ニアは相手が視野に捉えやすく、常に警戒されているゴールへの最短距離なので、走り出した勢いのままワンタッチで合わせるようなタイミングでなければゴールは難しくなります。
あえて使いたいスペースを溜めておき、ここぞというタイミングで急激にニアサイドへ飛び出すほうが効果的です。ただ動き回るだけでなく、動くとき、止まるときのメリハリをつけたほうが、相手DFを困らせることができるでしょう。
■パスを引き出すコツは、パサーとマーカーを見ること
2つめは、ボールを引き出す動きです。いかにディフェンスラインの裏を突き、シュートにつながるパスを引き出すか。
ここで重要なのは、"相手を見る"こと。
たとえば5月27日に行われたキプロス戦、岡崎選手は珍しくシュート0本に終わってしまいました。試合後には味方選手に対し、「裏のスペースへ出せるようなボールの持ち方をしていないので、飛び出したくても、本当のムダ走りになってしまう。もっとこっちの動きを見て欲しい」と要求しました。
自分のタイミングだけで動いても、パスが出てこなければ意味がありません。味方のパサーが、ボールをもらう前にキョロキョロと目線を動かすとき、あるいはトラップした直後に目線を上げるとき。このようなタイミングで、自分の動き出しを味方に"見せる"意識が必要です。
さらに"相手を見る"とは、対戦相手の様子を見ることも指します。
たとえば6月3日に行われたコスタリカ戦、相手は5バックを敷いて最終ラインが横幅を広くカバーしていました。一見すると、相手の人数が多いので飛び出しが難しそうですが、岡崎選手はそれを何度も成功させ、試合後には次のように語っています。
「5バックで人数は多いけど、相手は人数が余っている分、こっちが飛び出したときに他の選手に任せてマークを受け渡そうとするので、その中間から飛び出せばフリーになれる。逆にセンターバックが2枚しかいなかったりすると、マンツーマンでしっかり付いてくるので、フリーになりづらいこともある」
岡崎選手の飛び出しが成功した裏には、このように相手を観察する能力があったのです。
相手はマンツーマンで守っているのか、ゾーンで受け渡すのか。ボールウォッチャーになりやすいDFはいないか、疲れているDFはいないか、スピードの遅い選手はいないか、身長の低い選手はいないか......。
"相手を見る"ことは、クレバーなストライカーには欠かせない能力の一つです。
■ゴールを決められるポジションングとは?
3つめは、シュートにつながる予測の早さです。
味方がシュートを打てば、GKがボールをこぼす可能性があるので、セカンドボールに必ず詰めて行く。もしかすると、100回詰めて、ようやく1回ゴールを得られるくらいかもしれません。それでも、常にゴールを奪える場所にいなければ、その1回にたどり着くことはできません。
また、クロスからのシュートなどにも言えることですが、たとえボールを受けることができたとしても、それが"ゴールを決められるポジション"でなければ意味がありません。
たとえばゴール前に人数が多いので、ニアサイドで合わせるとき、ペナルティーエリア内のかなり外側にまで走り込んで合わせたとします。しかし、そんなにゴールから離れてしまうと、シュートの角度はほとんどなくなり、距離もあるので、せいぜいクロスくらいしか手段はなくなります。
ボールがこぼれると信じて、常に体勢を準備することはもちろん大切ですが、シュートが決まらないようなポジションでは意味がありません。ゴールの枠から大きく外れないように注意しましょう。
以上は岡崎選手だけのテクニックというより、ストライカー全体に共通するセオリーと言えるかもしれません。これらを丸暗記しなくても、ゴールから逆算して、どうすれば決まりやすいのかを考えれば、おのずとこの程度の答えは出てきます。他にも、どうすればゴールが決まりやすくなるのか、考えてみるとおもしろい駆け引きができるのではないでしょうか。
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