テクニック

2015年7月23日

なぜ、全国経験のないサッカー部から毎年Jリーガーが輩出されるのか?興國高校サッカー部の秘密に迫る

過去3年で4名。高校サッカー界屈指のプロ輩出率を誇るのが興國高校サッカー部(大阪府大阪市)です。

現在、Jリーグで山本祥輝(富山)、北谷史孝(横浜FM)、田代容輔(神戸)、和田達也(松本山雅)の4名が活躍しています。

なぜ、高校選手権に出場経験のない興國高校から、毎年のようにJリーグのスカウトに評価される選手が生まれてくるのでしょうか。その秘密を興國高校サッカー部・内野智章監督に聞きました。

(取材・文 鈴木智之)

 

<目次>

1.サッカーサービスの練習は頭を使わないとできない
2.高1で考えてプレーするベースを作り、高2で守備、高3は認知と状況判断を伴うトレーニングを
3.興国高校が行う独自のドリブル練習
4.サッカーサービス×ドリブル練習で育てる
5.興国高校がチームコンサルティングを導入した理由

 


興國高校サッカー部・内野智章監督

 

■サッカーサービスの練習は頭を使わないとできない

――過去3年で4名のJリーガーを輩出しているのは驚きです。それも、毎年。つまり、偶然ではないということです。どのように選手を育成しているのでしょうか?

 

僕が監督になって、今年で10年目になるのですが、きっかけは2010年に始めたスペイン遠征です。バルセロナに行かせてもらい、現地のチームと試合をしたり、クラシコ(バルセロナ対レアル・マドリーの伝統の一戦)を見たりしました。

現地でトレーニングもするのですが、そのときにサッカーサービス(補足1)のコーチにクリニックをしてもらいまして「これはすごいな」と思ったのと同時に、ある程度、自分の考えは間違っていなかったんだなと感じました。それからは毎年スペインに行って、クリニックをしてもらっています。

補足1:サッカーサービスとはバルセロナに本拠を構えるプロの指導者集団。経験豊富なベテラン指導者、大学の教授らが開発した指導メソッド「エコノメソッド」をサッカーチーム、選手に提供。また、興國高校とパートナーシップを締結している。
サッカーサービス公式サイト

 

■高1で考えてプレーするベースを作り、高2で守備、高3は認知と状況判断を伴うトレーニングを

――具体的に、サッカーサービスのトレーニングのどの辺りがすごいと感じたのでしょうか?

 

バルサの試合を見ていると「サッカーサービスの練習でやった場面だ!」というのが出てくるんです。松本山雅に入った和田(達也)のように、サッカーIQの高い選手は、バルサの試合を見ていて「いまのは、サッカーサービスのトレーニングでやったプレーですよね」と言ってきます。

とくに、バルサの育成年代の試合を見ていると、サッカーサービスでに身に着けたプレーをしていることがはっきりとわかります。

興國では『考えてプレーする』ためのベースを1年生で身につけて、2年生では守備の原則、3年生はチームとしてサッカーサービスのメソッド(エコノメソッド)を取り入れたトレーニング(補足2)をしています。

 

補足2:エコノメソッドでは選手が状況に応じた最適な手段を見つけ、判断してプレーできるような認知トレーニングを重視。

 

――1年生、2年生、3年生と段階を追って色々なものを身につけていくんですね。

 

はい。サッカーサービスの練習は頭を使わないとできません。しっかりと状況を見て、判断しないといけない。それまでサッカーを学んだことがなかった選手は、目を輝かせてイキイキしています。こんな練習、初めてやったと。

 

■興国高校が行う独自のドリブル練習

――いま、興國からは塩崎悠司選手(U-16日本代表)、大垣勇樹選手(U-15日本代表候補)が年代別代表に選ばれています。高体連のチームで、年代別代表に複数の選手を送り込むのは、稀なケースだと思います。彼らはどこが評価されたのでしょう?

 

大垣は大阪の枚方FC、塩崎は和歌山のカナリーニョFCリオというクラブの出身なのですが、1年生のときはサッカーサービスのメソッドに加えて、うち独自のドリブル練習をさせています。ボールの置きどころにこだわって1対1の練習をするのですが、イニエスタもシャビもピケも、ボールを毎回同じところに置くんですね。そのトレーニングを朝練でひたすらやります。

 


サッカーサービスのメソッドで頭脳を鍛える。興國高校サッカー部

 

■サッカーサービス×ドリブル練習で育てる

――サッカーサービスのメソッドに加えて、ボールを持つ、ドリブルの練習をするわけですね。

 

1年生は10月頃から、サッカーサービスのメソッドでトレーニングをしていきます。スペインで教わった『ドライブ』という動きがあるのですが、簡単に言うと「センターバックがドリブルでボールを前方へ運び、相手の最初のラインを突破するプレー」です。

U-16代表に入った塩崎はセンターバックなのですが、代表に入る前に興國とU-16代表が練習試合をしたときに、相手の2トップが前線からハードワークをして、塩崎にプレスをかけるんですね。そこで塩崎はパスを出すふりをして、ドリブルで相手のラインを突破しました。

 

すると、中盤で数的優位ができますし、U-16代表の最終ラインは下がらないといけません。そこで、うちがロングパスで相手の守備ブロックを飛ばして、サイドからクロスを上げてシュートという場面がありました。塩崎はその試合で活躍したこともあり、U-16代表に選ばれました。

 

■興国高校がチームコンサルティングを導入した理由

――なぜ、ドリブルの練習を取り入れようと思ったのでしょうか?

 

和田(達也)が高2のときに、サッカーサービスの方に評価してもらって、スペインのクラブに練習参加をしたのですが、そのときに「イニエスタはどういうドリブル練習をしているんですか?」とコーチに聞きました。すると「イニエスタはバルサに来た時から上手かった。そういう選手を連れてくるんだ。テクニックがすごい選手にバルサメソッドを叩き込んで、パスサッカーの中でドリブルを出すように育てる」と言っていたんですね。

 

僕もイニエスタを見た時に、日本人がめざすのはここだと。そう思って、イニエスタのような選手になるために、個人にはドリブルの練習を徹底的にやらせて、チームではサッカーサービスのメソッドで個人戦術とチーム戦術を身につけています。

 

 

興國高校では、この夏から、日本の高校サッカーでは初となる、サッカーサービスのチームコンサルティングを取り入れる。これは試合の映像をサッカーサービスが分析した上で、今後のトレーニングのポイントなどを指導するというプロジェクトだ。

高校サッカー界では異質の、高い個人技とチーム戦術を融合させた、ハイレベルなサッカーを展開する興國高校。現在はプロだけでなく、大学サッカーにおいても興國出身の選手が頭角を表している。その理由はどこにあるのか?

キーワードは"サッカーを理解する力""テクニック"。次回の更新では、そこに迫っていきたい。

 

次回:答えを教えない「自分で考えろ」は、九九を教えない「分数の掛け算を解け」に等しい>>

 

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