テクニック
2020年9月24日
相手を惑わすオフザボールの秘訣とは/羽生直剛が語る"考えて走る"オシム流トレーニング
サッカーにおいて「走ること」が求められるのは当然だが、「いつ・どんな風に・どんな意図を持って」走るのかまで考えながらプレーを続けることは非常に難しい。元日本代表監督のイビチャ・オシム監督は、その力を選手たちに身につけさせ、"考えて走る"チームを作り上げたことで評価されていた。
「オシムチルドレン」と呼ばれた羽生直剛氏もそのうちの一人だが、前編では、「トレーニングのテーマは言わない」などの、オシム監督の指導における哲学、そして実際に少人数でのトレーニングをいくつか紹介していただき、羽生氏がそのテーマをどう受け取り、どう自身のプレーに生かしていたのかを語っていただいた。後編では、より実戦に近い大人数でのトレーニングと、それに対しオシム監督が具体的にどういう工夫を求めていたのか、そして最後にオシム監督の監督観や選手観などについて語った。(文・内藤秀明/編集協力・瀧本拓朗)
(※COACH UNITED 2020年6月15日掲載記事より転載)
意図を持ち、"ハッキリ"と動くことの重要性がわかるトレーニング
後編のテーマは「大人数での実戦に近いトレーニング」で、最初に紹介されたメニューは、「横長マルチゴールの4対4」だ。ただ、普通の4対4ではなく、それぞれのチームが守るべきゴールは5つずつあり、コーンで小さく作られている。つまり、一人一つずつゴールを守っていても、必然的に一つのゴールが空いてしまうのだ。
もちろん守備時は一つのゴールがガラ空きにならないように守り続けることが求められ、攻撃時は「今どのゴールが空いているのか」「どう工夫すればゴールが空くのか」をチーム全体で共有することが求められる。
羽生氏はまず、
「攻撃時は、なにも考えずに横一列に並んでしまってはいけません。たとえば、誰か一人が前に出て相手選手の間に入れば、守備側は警戒するために全体を少し絞らざるをえなくなりますよね。そうしたら両サイドのゴールが空きます。そういう意図のある動きや立ち位置を体に身に付けさせることがこの練習の狙いだったのではないかと思っています」
と、自身が考えるこのメニューのテーマについてホワイトボードを使いながら説明した。
続けて、オシム監督が特に力を入れて指導していた部分について、
「たとえば、ボールを持っている選手が、右サイドのゴールを狙う意図を見せた場合、他の選手はその意図を汲み取って、近くのスペースに走り込む必要があります。その動きに守備側の選手がつりだされたことで生まれたスペースに、またさらに他の選手が走り込むと、また別の守備側の選手がつりだされる。このようにして、ボールがある右サイドに守備側の選手が集まるように仕向ければ、今度は逆の左サイドに大きなスペースが空きますよね。その場合は左サイドに展開して数的優位を作ることができます。この時に重要なのは、スペースに走り込む選手が、"強く、ハッキリと"動くこと。スペースを本気で狙っているんだという気持ちがないと守備側もつられないし、味方にも意図は伝わりません。『本気で狙え、ゴールを目指す気のないランニングはするな』と、オシム監督から常々指導されていました」
ちなみに羽生氏は今回、「強く走る」「ハッキリ走る」という言葉が具体的にどんなプレーを指すのかについても、以下のように語ってくれた。
「オシムさんはいつも、『相手を惑わすランニングをしろ』と言っていました。だから、ゴールを目指す気のないランニング、なんとなくスペースに落ちるだけのランニングではなく、たとえば、一回背後に走り込むフリをして、下がってボールを受けるような、明確に相手に影響を及ぼすランニングが、『強く走る』『ハッキリ走る』という言葉が指す具体的なプレーだと僕は考えています」
一つひとつのランニングにしっかりと意図を持ち、本気で狙うことを練習から求めたオシム監督。その指導により、羽生氏をはじめとする「オシムチルドレン」は、"考えて走る力"が身についたのかもしれない。
後編動画では、この後も、残りの2つの練習メニューとそれぞれの指導内容を解説しつつ、テーマを語らない中で、オシム監督がどうやって選手たちが工夫するように仕向けていたかが紹介されている。そこには、考えて走ることができる選手を育て上げるためのヒントがいくつも散りばめられていた。
【講師】羽生直剛/
元サッカー日本代表。八千代高校、筑波大学を経て、2002年にジェフユナイテッド市原(当時)に入団。2003年に市原の監督に就任したイビチャ・オシム監督の下で活躍し、 2006年には日本代表にも選出された。その後、FC東京、ヴァンフォーレ甲府、古巣のジェフユナイテッド市原・千葉でプレーし、2018年に現役を引退。 現役引退後はFC東京で2年間強化部(スカウト)の仕事を務めた。