テクニック

2021年6月 9日

U10年代でボールコントロールを習得するために、指導者がトレーニングすべきは「脳への刺激」

ブンデスリーガの名門1.FCケルンでU8-U14統括部長を務め、ケルン体育大学やドイツサッカー協会で指導者養成をしてきたクラウス・パプストさんに、U10年代で身に付けておくべき技術と、その指導法について話を聞きました。今回のテーマは「ボールコントロール」です。(取材・文:中野吉之伴、協力:ファンルーツ)

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■技術は繰り返しだけでは上手くならない

ボールコントロール能力を育むことの大切さはおそらく誰もがわかっていますよね。やっぱり自分の意図通りにプレーを実践していくためには、自分の意のままにボールを操れるようにならないといけない。

ではどうしたらそうしたスキルを習得することができるのでしょうか?

昔から《技術は繰り返しの中で上手くなる》《だから毎日何度も繰り返さないといけない》という話があるかなと思いますが、実は今の定説は違うんですね。ドイツで開催された国際コーチ会議でも同じテーマの講義がありました。

脳科学的に、同じ事をし続けると脳が退屈だと思ってしまい、十分な刺激とならないんです。スキルというのは脳からの指令を素早く神経に通して、筋肉を適切に動かしていく作業なので、その最初の刺激がない・あまり働かない中でどれだけ繰り返しトレーニングをしても、スキルとしての成長にはつながらない。

会議では、「同じような動作によるプレーはすでに3~5回目の繰り返しで脳が刺激されずに成長に結びつきにくくなっている」という研究報告がありました。

クラウスさんは、それについてこう語ります。

■スキル習得に重要なのは脳への刺激

「サッカーはクリエイティブさが大事なスポーツだ。だからトレーニングでもバリエーションが大事なんだ。私自身、長年育成の指導者をしている経験からしても、『本当にその通りだ』といえることなんだ。同じようなことの繰り返しではなく、バリエーションを加えながら様々な取り組みをしているほうが子どもたちは成長する。

大事だから、もう一回言うよ。スキルを身につけるうえで大事なのは脳内への刺激がセットになっていなければならないこと。刺激を与える、つまり難易度や複雑さを変化させることでそこに対応しようと取り組むことがスキルアップには欠かせないことを知らなければならない」

ドリルトレーニングでいつも同じようなプレーをやり続けることでそうした動作に慣れることはできます。慣れるということは安心を得ることにもつながります。これは自信を得るための大切なステップの一つでもあります。

●「ドリル練習=悪」ではない。サッカーで求められる「パスの技術」と必要なトレーニングとは?>>

でもサッカーのゲームの中では様々な状況があり、それぞれの状況に応じて優先順位があり、その中でどんなプレーをすべきかという意図を持つことが大切になるわけです。最終的にどのようなところでどんなプレーをすることになるのか、そこから逆算して、それぞれの年代にあった人数・サイズ・時間設定で試合や練習をするのが必要だとドイツでは考えられています。

■状況判断を伴ったトレーニングを行うには?

ボールコントロールに関して大事なポイントをクラウスさんに尋ねると、「トラップだったり、ボールを運ぶという時でも可能な限り速やかにボールを体の前に置くことが大切」と答えてくれました。どこにどのようになぜコントロールするかを考えながら取り組むことが大事というわけですね。ボールを自分の横だったり、後ろに流してしまうとそこからコントロールし直す時間が必要になるし、そうすると相手選手に寄せられてしまいがちです。

では、状況判断を伴った形でボールコントロールをどのようにトレーニングすることができるのでしょうか。

クラウスさんはゲームのルール設定を変えることで、よりボールコントロールに特化したトレーニングになると話します。

「多く取り入れたいのが数的有利な状況でのゲームだ。例えば3対2とするだけでパスがしやすくなるし、必然的にボールコントロールも多くなる。ダイレクトパスばかりにならないようにするためには最低2タッチというルールを加えたりするね。そうすることで絶対にタッチしてコントロールしてという機会を持ってもらうようにする。

あるいはピッチ外にフリーマンを置いて外からのボールを呼び込み、コントロールするという状況を作ったら、素晴らしいボールコントロールのトレーニングになるだろう。他にもアイスホッケーのようにゴールの後ろのスペースでもプレー可能というふうにすると、そこへのパスやそこからのパスを受けてコントロールという機会を増やすことができる。

パスとコントロールにおけるトレーニングの注意点は原則的には同じ。ボールをコントロールした後にはパスなどのアクションが入ってくるのだから、一緒に取り組むことが望ましいね」

■指導者自身が楽しいと思えるか?が重要

ただそうはいっても、『いや、それでも私はドリルトレーニングをやりたい。それをやらないと子どもたちはうまくならない!』と主張を口にする指導者がいたとしたら、せめて時間だけでも短めにしてほしいとクラウスさんは言います。

「もしやるならウォーミングアップの中で技術的なドリルトレーニングを入れるのはいいと思う。ウォーミングアップだからとグラウンドを走ったりとかいつも同じ基礎練習をしたりというのではなく、目的を持った技術練習を取り入れるのは悪くない。バルシューレのように様々なボールと体の部位を使ったトレーニングと合わせてやると面白いだろう。それでも時間にしたらマックスで20分くらいじゃないだろうか。そのあとに取り入れた技術練習と組み合わせたシュート練習を入れて、すぐにゲーム形式に入るというふうにオーガナイズしたら、流れとしてもいいと思う」

指導者はトレーニングをプランするうえで「自分がそれをやって楽しいと思うか?ということを常に意識しないといけない」とクラウスさんは何度も強調していました。サッカーの魅力を子どもたちが味わって、「こうするとこんなふうにできるんだ!」という発見があって、そうやってどんどんサッカーが好きになっていくようなトレーニングを考えていきたいですね。

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●U10年代のサッカーで身に付けておきたいのは「ゲームにおける振る舞い方」>>

●技術に自信がない子も上手くなる!ドイツ人コーチに聞く「ドリブル指導」で最も大事なポイント>>

●「ドリル練習=悪」ではない。サッカーで求められる「パスの技術」と必要なトレーニングとは?>>

【講師】クラウス・パブスト/
ドイツの名門「1.FCケルン」でユースコーチや育成部長を務め、ポドルスキなど多くのブンデスリーガを輩出。ケルンで最初となるサッカースクール「1.Jugend-Fusball-Schule Koln」を創設し、サッカー指導者養成機関としても知られる国立ドイツ体育大学ケルンで講師を務めるなどドイツサッカー育成の第一人者である。 日本へは何度も訪れており、指導者講習会や選手へのクリニックを開催。日本サッカーの育成にも造詣が深い。

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