テクニック
2021年11月12日
ボールを思い通りに動かすリフティングトレーニング/笑顔で楽しくプレーする京都精華の個を高める練習法
サッカーを楽しみながら、テクニックを伸ばし、魅力的な選手を多数輩出しているのが、京都精華学園高校女子サッカー部の越智健一郎監督だ。2012年度の高校女子サッカー選手権大会で3位、2014年度の同大会で準優勝を果たすなどチームとしての結果も残しており、「好き」と「勝利」を両立させるテクニックにこだわった越智監督の指導は多くの人から注目を集めている。
練習は個性的なメニューが多く、トレーニングを重ねるうちに自然とサッカーに必要な要素が身につくのが特徴だ。今回は、京都精華学園が取り組む「判断とスキルのアップを目的とした『リフティング』と『ドリブル』のトレーニング」を紹介していく。(文・森田将義)
(※COACH UNITED 2021年8月9日掲載記事より転載)
リフティングはスキルアップ以上に「動き作り」が狙い
京都精華学園のトレーニングは個々のスキルアップを目的としているため、ボールを1人1球使うメニューがほとんど。メニューの時間も人間の集中力が続く1、2分程度で、テンポよくメニューが切り替わっていくのが特徴だ。
最初にウォーミングアップとして行うのは、「2人1組で行う鬼ごっこ」。ペアを変えながら、1分2セットで行い、サッカーに必要なステップワークを身につけていく。
次にボールを用いた「ドリブルでの鬼ごっこ」へと移行。鬼の選手はボールを触った状態でないと、タッチできないというルールで行うため、繰り返し行うと身体の移動中にボールが自然と身に付いてくるようになると越智監督は言う。また、ペアを組む選手だけでなく、他の選手とぶつからないように移動しなければいけないため、周囲の状況を見ようと自然と顔が上がるようにもなる。
遊びのように見えるメニューだが、全力で鬼から逃げるため、心肺機能への負荷は大きい。そのため、鬼ごっこを終えると心肺機能の負荷が少ない一人でのリフティングを行ってから、次のメニューへと移行する。この日に行ったリフティングのメニューが以下の6種類だ。
①「左右両足交互にインステップでボールに触りながら、前後左右上下を見る動きを30回」
②「左右両足交互にインステップでボールに触りながら、ジャンプ、しゃがむ、回転の流れを2セット。最後に2回転」
③「タッチはインステップ、インサイド、アウトサイド、頭、肩、太ももの各部位を1回ずつ。タイミングを見て3mボールを蹴り上げ、その間に左右を見る」
④「左右両足交互にインステップでボールに触りながら、頭、肩、お腹、お尻、膝、地面の6か所をタッチ」
⑤「ボールを高く蹴り上げ、バウンドしたボールをジャンプしながら内側と外側でまたぐ。左右両足で2回ずつ計8回」
⑥「リフティングをしながら、座り、立つの動作を2回」
リフティングはテクニックを磨くためのトレーニングとイメージする人も多いが、越智監督の場合は、サッカーに必要な動き作りの一環としてリフティングの練習を多く取り入れている。
例えば、③のリフティングは一度ボールから目を離した状態でも、落下点に入る感覚を磨くのが狙い。ボールが思い通りにコントロールできなくても、身体を上手く扱えればミスが減ると考えているため、ただ技術を磨くだけでない動きを伴ったリフティングを重視している。
周りの状況を知るためにリフティングをしながら首を振る習慣をつける
6種類のリフティングメニューを終えたら、難易度をより高めていく。始めに行うのは首を左右前後に振りながら、リフティングで約40mを移動する5種類のメニューだ。
①「両足のインステップを交互に」
②「右足、右足、左足」、「左足、左足、右足」
③「インステップ、インステップ、インサイド」
④インステップ、インステップ、アウトサイド」
⑤「インステップ、インステップ、太もも」
難易度が高いメニューであるため、ボールを落としてもその場からリスタートしても良い。上手く前進するためにはボールを蹴るのではなく、すくい上げるイメージで行うのがポイントだ。
ボールを触る箇所によって、前身するスピードが変わるため、それぞれに応じて素早く身体をボールのある位置へと運ばなければいけない。また、片足だけでなく、左右両足を交互に使うのが重要で、左右両足を苦にすることなく扱えるようになるとドリブルやターンがスムーズにできるようになる。
移動しながらのリフティングに慣れると、今度は2人組でリフティングをしながらの鬼ごっこへと移行する。ボールを落とした瞬間のタッチは禁止なため、落とさないよう足元に集中しがちになるが、他の選手とぶつからないよう逃げるペアを捕まえるには、周囲の状況を小まめに見続けなければいけない。そのために、直前に行った首を振る習慣が重要になってくる。
動きのメニューである鬼ごっこの直後にリフティングを挟んで心拍数を落ち着けたのと同じく、動きのあるリフティングを終えた後は移動が少ない2人1組でのリフティングへと移行する。使うボールは5号球と3号球。蹴る感覚が違う2種類のボールを1m感覚の距離でリフティングしながら、10回交換するのがルールとなる。
最初はフリータッチで行い、慣れてきたら3タッチ以内での交換へと切り替えたり、選手の距離を3倍程度に伸ばして難易度を調整するのもポイントだ。(ファーストタッチを太ももで行うと簡単にできるため、ルールとして禁止)
最後にボールを1球に変え、二人がボールを地面に落とさないようダイレクトで交換。首を左右に振ったり、「上、後ろ、上、前」の順番で手を叩きながら行うことで、難易度を高める。
COACH UNITED ACADEMY動画では、今回紹介したメニュー以外にも、越智監督が実践する多くのメニューを紹介している。また、越智監督の特徴である選手のサッカーを楽しむ気持ちを高める声掛けや、練習メニューの解説も聞けるので、ぜひ動画で確認して欲しい。後編では個のスキルのアップに重要なドリブル、そしてポゼッションなどのトレーニングに移っていく。
【講師】越智健一郎/
1974年8月20日生まれ、愛知県出身。瀬戸高校、日本体育大学出身。卒業後は愛知県内の高校での講師を経て、2006年に京都精華女子高校(現・京都精華学園高校)女子サッカー部の監督に就任。2012年には選手権3位、2014年にインターハイ準優勝を達成した。