テクニック
2022年8月22日
セレクションを実施しない少年団が行うポゼッションに優れたチームを攻略するプレッシングの実践法
「サッカー指導者のためのオンラインセミナー『COACH UNITED ACADEMY』」では、毎月8本のトレーニング動画を配信している。その中で、ユーザーから「動画内の選手のレベルが高く、参考にしにくい」「一般的な少年団のトレーニングを見たい」などの意見をいただいた。
そこで今回は、神奈川県横浜市栄区で活動する少年団、FC本郷のトレーニングを紹介したい。2021年の『全日本U-12サッカー選手権 神奈川県大会』で2回戦に進出したFC本郷の指導者はボランティアで、選手加入のセレクションを実施していない街の少年団だ。
テーマは「体格に差がある相手に対応するための練習法」。土日と祝日しか活動しない"ボランティアクラブ"のFC本郷では、強豪クラブと渡り合うために、どのようなトレーニングをしているのだろうか? 動画後編では「ポゼッションサッカーへの対抗法」をお伝えしたい。(文・鈴木智之)
(※COACH UNITEDからの転載記事になります)
相手のビルドアップを阻止するポイントはSBにパスを出させること
今回の動画は「前線からのプレッシング」をテーマに実施。同クラブのOBで指導歴30年を越える石川広監督は「このトレーニングのポイントは、ボールを狩りに行く選手とそれ以外の選手との連動です」と話し、実演に入っていった。
設定としては、相手フォーメーション(3-3-1)に対し、2-4-2でプレスをかけていく。最初はゆっくり行い、プレスの方法を説明。
ポイントはボールサイドのFW1人に加えて、4人いるMFのうち1人が、相手DF3人+GKにプレスをかけること。
ここでは2対4の状況で、相手のボール保持者をどう追い込んで行くかをレクチャーしていく。重要なのは「縦パスの出しどころを限定すること」と「縦パスの受け手をマークすること」の2つ。
石川監督は選手たちに「相手がDFラインでボールを回しているところに、どうやってプレスをかけていくか。3-3-1の相手に対して、2-3-2もしくは2-4-1の自分たちは、どうやってプレスをかけるのか。前線2人がプレスをかけているときに、後ろの3人はどこで網を張るか。その練習をしよう」と説明していく。
相手が3-3-1の場合、DFラインの3人+GKに対して、こちらのFWが1人でプレスをかけても、なかなかボールを奪うことはできない。そのため、4人のMFのうちの1人(中盤がダイヤモンドの場合はトップ下の選手)がプレスに加わる。
まずは、最初にパスを出した、相手チームの選手(主にCB)にボールを戻させないように、出し手の方へプレスをかける。そうすると相手はサイドへボールを運ぶので、2列目の選手と連動して、縦に入るボールを奪う。
ピッチの中央でセンターバックがボールを持っていると、左右中央とパスの選択肢が多く、ボールの出どころを予測するのが難しくなる。そのため、ボールの動きを予測しやすい、サイドバックにパスを出させることがポイントだ。
そこで、相手サイドバックをマークする選手は、相手と少し距離を保った状態で、パスを出させてインターセプトを狙う。
石川監督は「(インターセプトを狙って)詰めるときは、相手との間合い、距離感が大切。ボールを出させて、相手がトラップしたところを狙おう」と具体的なプレーを解説していく。
また、相手にサイドを変えられると、横にスライドして罠を張り直さなくてはいけない。それを繰り返すと疲れるので、相手にサイド変えさせないように、中央のコースを切りながら寄せて行き、パスが来た方に戻させない守備をすることもレクチャーしていった。
それに加え、2列目の選手はどこの位置にも動きやすいような「中間ポジション」をとって対応する。これらを石川監督はゆっくりと動いて解説しながら、選手たちが理解できるように、ていねいに説明していく。
ボール奪取は個人の力量も必要だが、チームの共通理解が最も重要
以上でシュミレーションは終了。ここからはプレッシングの実践に移っていく。トレーニングは「4対4対3」(ボールホルダー4人、DF3人=実質4対2)の設定で実施。
グリッドは縦15m、横20m。中央にコーンを置き、グリッドを半分に分ける。DFはボールのあるエリアに、2人しか入ることができない。残りの1人は逆のエリアにいて、パスカットを狙う。コートの外側にいる3人は、その辺のみ移動が可能で、コート内に入ることはできないというルールだ。
石川監督は「4対2の鳥かごだけど、方向性がある。GK、センターバック、右サイドバック、左サイドバックのイメージでポジションを意識しよう。トレーニングの目的は、反対側の陣地にボールを送ること」とアドバイス。
さらに「GKがCBへパスミスをしたら、試合では失点につながる。リアリティを持ってやろう」「そこで切り替えさせない」「パスを出させない」など、シンクロしながら声をかけていく。それにともない、選手たちのプレーも向上。良い場面が出始める。
石川監督は「ボール奪取は個人の力量も必要ですが、それ以上にチームが共通の意図を持って動くことが重要だと考えています」と話し、次のようにトレーニングを総括した。
「私達のように、平日に練習ができない、部員数の少ないボランティアクラブが、強豪と渡り合うためのトレーニングを紹介しました。試合で出た問題やウィークポイントの改善から始まっているので、従来のトレーニングとは一線を画していると思います。
華麗なパス回しやポゼッションサッカーに結びつくトレーニングではありませんが、必要最小限の個人能力と連動性のあるチーム戦術が融合すれば、十分に強豪と渡り合えると考えています。私達のようなボランティアクラブの指導者にご覧いただき、何らかの刺激を受けていただければ幸いです」
選手のレベルに応じて、どのようなトレーニングをし、どのような声かけをすればいいのか。動画から、そのヒントを得ることができるだろう。サッカー経験が少なく、伸びしろの大きな子どもたちを担当するコーチはぜひ動画を見て、指導に役立てていただければと思う。
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【講師】石川広/
神奈川県出身。1962年3月11日生まれ。中学生時代にFC本郷に入団。それ以降は、社会人チームに至るまでプレーし、長男の入団に伴い指導者として各カテゴリーを経験する。
2000年から2006年までスペインのバルセロナに長男と共にサッカー留学をし、2003年に「スペイン公認指導者ライセンス」を取得。帰国後はFC本郷に指導者として復帰し2011年に代表指導者に就任し、現在に至る。また、横浜市栄区サッカー協会理事長も務める。