テクニック
2023年1月 6日
「全日本U-12サッカー選手権大会」ベスト4。大島僚太を指導した指揮官が語る高部JFCの育成法
2022年末に鹿児島で開催された『JFA 第46回全日本U-12サッカー選手権大会』で、ベスト4に進出したのが、静岡県代表の高部JFCだ。
攻撃的なスタイルを掲げ、準決勝までの5試合で15得点を奪取。エースの遠藤優空選手が得点王に輝くなど、多彩な得点パターンで大会を沸かせた。
COACH UNITED ACADEMYにも登場してくれた、高部JFCの設樂幸志監督に、U-12年代の指導で大切にしていることを聞いた。(取材・文:鈴木智之/写真:渡邉健雄)
(今大会の得点王に輝いた高部JFCの16番、遠藤優空選手)
清水エスパルスなどに勝利し、12年ぶりの全国大会出場
高部JFCは、静岡県大会で清水エスパルス(U12清水)に競り勝ち、12年ぶりに出場権を獲得。チームを率いる設樂幸志監督は、かつてこの大会で選手として準優勝に輝き、指導者として再び戻ってきた。
指導キャリアを名門・清水FCでスタートさせると、大島僚太や風間兄弟、千葉寛汰といった、のちのJリーガーを指導。なかでも大島僚太は、小学3年生から6年生までの4年間指導したという。
「当時、僚太がいた少年団は人数が少なかったので、僕がいた清水FCで週に3回トレーニングしていました。彼は小学3年生でリフティングが3回しかできなくてね。冗談抜きで、そんな選手だったんです」
快活な口調でそう振り返る設樂監督。「全然あんなふうになる選手ではなかったですよ。なんでプロになれたのか...。僕が聞きたいぐらいです」と豪快に笑う。
(グループリーグ初戦の鳥取KFC戦後、インタビューを受ける設樂監督)
「ただ、足は遅いんだけど、長距離が速かったんですよね。あと、なんといっても素直。走りの練習のときも、一番に返事して走り出すタイプで、どんなときも腐らない。素直でいいやつでした」
大島選手は中学に進学するにあたり、設樂監督のところに相談に来たという。
「そのときに『僚太は体が小さいから(静岡)学園に行ったらどうだ』と言って、実際に行ったらああなった。びっくりですよ、びっくり(笑)」
「ジュニア年代では、あれもこれも求めすぎない」(設樂監督)
設樂監督は自身も清水FCの選手として全国準優勝し、指導者としては2022年度のチビリンピック準優勝、そして今大会ではベスト4。「今年は選手が集まっただけ」と謙遜するが、多彩なアイデアを織り交ぜた攻撃、GKも含めて個々が粘り強く守るスタイルでベスト4に進出した。
ジュニア年代の指導経験豊富な設樂監督は「大事なのは、小学生年代であれもこれも求めすぎないこと」と、指導の秘訣を明かす。
「小学生にあれもこれも求めすぎると、伸びしろを消してしまうんじゃないかと思っています。ゴールを決めたい、ボールを奪いたい、ゴールを守りたい、なんでもいいんですけど、その子自身が楽しいと感じるプレーや、特徴を活かしたプレーをしてほしい」
全日本U-12選手権では、気の抜けたプレーは叱責し、チャレンジしたプレーには大声で褒めていた。その基準は明快でブレることはない。
チームが求めるのは攻撃的なサッカー。なかでも「高部JFCらしさ」を忘れたプレーをした選手には、ハーフタイムに自らデモンストレーションをして手本を見せるなど、機を逃さず指導をする。
「ゴール前の一番重要なところに入れるパスを、そのまま入れても無理でしょう。相手が見えるところに、そのまま入れてもだめだよね、相手は狙ってるよねという話をしました。練習でも、相手がどこにいるかを見て、その裏をとることは徹底してやっているので」
COACH UNITED ACADEMYでも実施していた「相手の逆を突いて崩す」ことを、忘れないように伝えたという。
「ただ子どもなんでね、言ったことが全部できるかというとそんなことはない。そこは我慢と言うか、繰り返しやっていくしかないですよね」
高部JFCはジュニアのみのクラブだ。卒団後、多くの選手は清水エスパルスのジュニアユースや静岡学園中学校などの強豪に進む。
「ジュニア年代で大切なのは、その子の伸びしろをいかに作るか。余白を残した上で、次のカテゴリーに上げること。だから、僕のところで完成させる必要はまったくないんです。上のカテゴリーの指導者と『この選手は、ここを改善すればもっと良くなるよ』と課題を共有しながら、『僕はここまでしか教えていませんから』と伝えています」
さらに設樂監督は「(サッカーどころ)清水という土地柄もあると思います」と続ける。
「清水のサッカーはフィジカルじゃなくて、相手を騙すとか、逆をとるところに、生き残る術を見出していると、僕は思っています。それって、体力や体格は関係ないじゃないですか」
大島僚太が、まさにそのタイプである。高部JFCの子たちも、体格に優れる相手に対して、狙いを持って逆を突き、ディフェンスラインを攻略し、得点を量産していた。それこそが、清水という土地に根付いたアイデンティティなのだろう。
今年度のチームには、エースの遠藤優空を筆頭に、栗田虎空、山田栞汰、瀧寧人など、有望な選手が多くいた。チームとしてのこれからに加えて、多くの伸びしろを携えて、上のカテゴリーに進む、彼らの将来も楽しみだ。