考える力
2012年6月 8日
選手の頭から柔軟性を奪う!? サッカー用語が生む弊害とは
INF(フランス国立サッカーアカデミー※)で培った、“加速するサッカー”を武器に創部から1年目の2005年に高校選手権大阪予選でベスト16入り。3年目にはプリンスリーグ、インターハイ、高円宮杯に初出場も果たすなど順調に成績を残し続ける新進気悦の大阪桐蔭高校。成績だけでなく、1期生のMF阿部浩之を始め、8年間で5人ものプロ選手を輩出しています。今回は永野悦次郎監督に、これまでの指導の中で気付いた、指導者が陥りがちな問題点について話を聞きました。
■教本のまま選手たちに教え込んでしまう日本の指導
「高校で指導をしていて、その際に“ちょっとその考えはおかしいんじゃない?”と選手に言うことがあります。選手に型をこうしろって言っているわけじゃないし、もう少し柔軟にプレーしようよと伝えているのですが、選手たちは凄く頭が固いんですよ。頭の中を切り替えることに時間が費やされてしまう。柔軟な発想を持っていてくれれば、吸収もスムーズになり、競争が生まれてバリエーションが増えて、凄い発展があると思う。その原因は僕を含め指導者が偏った教え方をしているからなのでは?と思います」
--固くなった頭を柔らかくするためのアプローチとは?
「凄く簡単なことで、例えばボールを奪うためにチャレンジ&カバーとか、プレスバックとかスライドとかそういうことを言わずに“相手に対してジャマをしろ!点をとられないようにもっと前からアグレッシブに行こうぜ!”とかそれでいいと思うんですよ。クロード・デュソーさん(INF元校長)が『日本で何年間かアドバイザーをやらせてもらったけど、日本人には何も教えられなかった』と話していました。指導すればするほど日本人って頭が固くなるような伝え方をしていると。サッカー用語で指導すると、余計に頭の中でハマってしまって、柔軟さに欠けると思います。
ジャマをしろとか、ゴールを奪うためにボールをしっかり繋げって言い方って意味として凄く広いですよね?おもしろかったのは、『ジャマしろ』って言うと、皆アグレッシブにジャマしに行ったんですよ。そうするとストップをかけて、『皆が行ったらダメでしょ』と。『一人が行ったらお前のポジションはどこだと思う?』と尋ねると、『ここです』と皆、理解するんです。
一人がジャマしに行くと後の選手たちは冷静にポジションを取ることを教える。それだけのことなんです。伝え方、教え方なんですよ。それをサッカー用語で抑え込んでしまうと、柔軟な頭っていうのが無くなってしまうと思うので、それを取っ払う必要があるのではと感じました。」
--どういった伝え方をするのが良いのでしょうか?
「“アプローチ”って言われてしまうと、選手たちは全員が凄い高い位置でポジションを取ってしまいがちですけど、“出来るだけ下がらないように工夫しよう”って言い方にすると、“高い位置で奪えるなら奪う”という発想になってくれる。そこで選手たちが工夫をして失敗したら、なぜそうなったのかというのを柔軟に教えてあげることが重要。
うちは今みたいな言葉をかけながら、ゲームの中で少しずつ理解できるようにする。それが終わったら、ホワイトボードでこういう現象があったなと整理していく。型にハマらないようにしていくというのは指導者が何を伝えるかにかかっている。その伝え方が僕を含め日本人の指導者たちは型で教えすぎてしまっていると思いますね」
--なぜ型で教えてしまう
「学んだことをそのまま選手たちに教え込んでしまっているので、選手のプレーが型にハマってしまうのではと思います。ドリブルが好きな指導者がいれば、ドリブルしか出来ない選手が生まれている。でも、サッカーでも人生でも教わってない出来事ってあるじゃないですか?そういう出来事に対し、柔軟に対応できる能力って日本人にはないので、僕を含め指導者はそれをいかに育てていくかが一番大事で、どう伝えて行くかが役割だと思います」
■「走る」と「動く」は違う
「デュソーさんに“走るは陸上競技、動くはサッカーなんだ”と言われたことがあります。選手の多くが、止まった状態で“出せ!”と要求をしてから走っていますが、パスして、そのボールを見てから動くのは“走る”。周りの状況をしっかりと見ながら、“今!”という時にスーっとスペースに出て受けて、パスしたらまた次に移るのが“動く”。皆が動いているから、そこで次どう動くのか予測しておいて動いてもらう。ずっと“見て考えて動く”の繰り返し。ちょっとしたことですけど、“走る”と“動く”は違います。見て考えて動いて、ボールを要求することが“動く”。“走る”は単なる移動と。これを絶対に選手は小中年代で学ぶべきなんです。日本語って難しさもあるけど、おもしろいですよね」
--“走る”という言葉を勘違いしている人が多いかもしれません
「練習で走ったりしていますが、それは単なる“走る”であって、サッカーに適していない。うちは単なる走りの練習はやらないし、ボールを使った練習しかやりません。ボールを使いながら、“考えて動く”を繰り返す方が大変だと思うし、持久力もついてくる。足に疲労が貯まってくる中で、コントロールをするのは難しいし、パスしたら次へ加速しろってなる。走ることに意識が捉われるとコントロールやパスが雑になる。きちんとしたタッチをするために身体のバランスを考えるようになるから、走り方や身体の使い方が良くなって、サッカーに適した身体になってくる。こういった練習をやっている所は少ないかもしれません」
※INF(フランス国立サッカーアカデミー)とは//
フランスの国立サッカー学院。優秀な若手をスカウトし、費用をすべて持ったかたちで、敷地内の寮に寄宿させ学業とサッカー両方の面倒をみる。ティエリー・アンリ、ニコラ・アネルカなどが卒業生として有名。JFAアカデミー福島のモデルともなっている。
永野悦次郎//
1967年12月20日 現役時代は北陽高校、大阪産業大学を経て、兵庫県の社会人チーム「明倫クラブ」でプレー。国体選抜に選ばれた経歴も持つ。引退後の1996年秋から大阪産業大学附属高校でコーチ、監督を務め、2004年からは系列の大阪桐蔭に赴任し、サッカー部監督として創部に携わる。以降は2008年に高校選手権大会初出場を果たしてからは、激戦区、大阪を勝ち抜き総体、高円宮杯とコンスタントに全国大会に出場するなど、高い注目を集めている。
【永野さんのインタビュー記事】
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