考える力
2014年3月 4日
足から離れる隙を突く! 小さいからこそ考えてボールを奪う
前回はディフェンスのスペシャリスト、鹿島アントラーズで活躍した本田泰人さんに、1対1の『間合い』と『ステップ』について解説してもらいました。今回はボールを奪う『タイミング』について。本田さんはどのような状況判断やテクニックで、1対1を行っていたのでしょうか?
技術その1:ボールが足から離れる隙をねらう
「どんな指導者も同じことを言うと思うけど、たとえばドリブルをしている相手がボールを離す瞬間がある。そのタイミングでチャレンジして、ボールを奪うのがセオリー。大きくドリブルをする選手に対しては、チャレンジしやすい。ただ、メッシみたいにドリブルのうまい選手は、ボールが足から離れないから、奪うタイミングが難しい。そうなったとき、どうするか。難しい問題が出てくる」
ドリブルの大きい選手から、ボールを奪うのは比較的簡単ですが、そこから先は、ボールを奪うための工夫が必要になります。本田さんはどのような駆け引きを仕掛けていたのでしょうか?
「僕のディフェンスは、自分から仕掛ける。たとえば“取るよ”って飛び込むフリをすると、アクションを起こしてくる選手がほとんど。どっちかにかわそうとして相手がボールを動かすから、そこで自分の読み通りの方向へ行ってくれると、素早く寄せて奪える。ただし、それがジーコみたいなすごいレベルになると、こっちがフェイントをかけても、あまり効かない。そこでタメを作られると、すごくいいスルーパスを通されたりするから、もっと焦ってほしいんだけど。僕の場合はそうやって、積極的に相手にフェイントを仕掛けたりした」
本田さんの工夫はこれだけではありません。ディフェンスは相手にバックパスを出させればOK、と言われますが、そのときもボールを奪う隙を狙っています。
「寄せて、相手に後ろを向かせたところで、もう一回、相手が安心しているところに相手の足のすき間から足を伸ばしてコツーンとボールを突っつくことをよくやっていた。それも重心が低いからこそ、できるプレー。低い重心でグイグイすき間へ入って行くから、相手の肘とかが顔に当たって鼻血が出たり、目の上を切ったりしたけど」
【本田泰人の奪い方:その1】
このようなシーンでは、本田さんはむしろ、体が小さいからこそ有利だったと言います。
「小さいのは、逆に僕は特権だと思うよ。小さいほうがボールを奪えることもある。小さいなら、それを生かしたほうがいい。細かいステップとか、瞬発系のトレーニングをして、そうすれば将来的に体が大きくなっても俊敏性はそんなに変わらないと思うから、サッカー選手としてはすごく必要なことだと思う」
【本田泰人の奪い方:その2】
【本田泰人の奪い方:その3】
技術その2:タックルは左右どちらの足でもいけるように
ボールを奪うために伸ばす足、スライディングタックルで伸ばす足は、いつも利き足でやっていますか? 細かい技術ですが、このような足の違いについても、レベルが上がれば要求が高くなります。
「基本的には利き足でボールを奪うことが多いと思うけど、状況によって、ここぞというときに、たとえば左足のほうがスライディングタックルで届くと判断したときは、左足で行く。たとえば左サイドの選手が右利きで、クロスを上げさせないように最後のぎりぎりのところで足を伸ばすときもジーコには、“左足で行け! なんでお前は右足で行くんだ!”って、いつも怒られていた。左サイドだから左足のほうが遠くに足を投げ出せるのに、なんでお前は右足で行くんだ? クセか? ってね」
右足を伸ばすか、左足を伸ばすか。ほんのわずかな差ですが、その差が、ボールをカットできるかどうかの差になります。
「プロでも、すべてに利き足を伸ばすクセがある選手は多いと思う。攻撃の選手は特に、スライディングの練習とか、そんなにしないからね。だから僕は両方できるように練習していた。どうしても右利きだから右足が出がちなんだけど」
技術その3:相手を見る
本田さんはディフェンスの対応に関して、『相手の見る』ことが重要だと言います。
「小学生だと、ボールを取れると思ったけど取れずに、入れ替わられてしまうことが多い。相手によっては、速かったり、うまかったりするわけだから、僕がよく子どもたちに言うのは、前半のハーフタイムに“あの10番の選手、特徴どうだった?”と。すると“足が速いです”と。スピードが速いならどうなの? この距離でポーンと出して勝てる? 自分の速さに自信があったら別だけど、どう? 抜かれるなら、じゃあ間合いをどうする? というような教え方を僕はしています。ボールを奪えないなら、どうやったら奪えるのかなと考える。そこで考える力を養っていかなきゃいけないのかなと思います」
たとえ初めての対戦でも、ちょっとプレーをしたら、すぐに相手の特徴を見抜いていくことが重要だそうです。相手の足が速いとか、足の裏をよく使うとか、そのようなポイントを観察することで、ディフェンスの間合いや、奪うタイミングの取り方を調節します。
「何も考えていない子は、同じ相手に同じように何度も抜かれる。だからヒントをあげるんです。“何番に抜かれた?”と聞いて、“8番でした”と。“その8番に5回抜かれてるよ。あの選手はうまいの?”と聞いて、“速いです”。速いんだったらどうするんだ?と。そうすると後半は全然違いますね。そしたら極端すぎるくらい間合いを取るようになって、それはお前、やり過ぎだろうって(笑)。でも、やってみようとする姿勢なわけだから、やり過ぎとは言わないですよ。抜かれてはいないわけだし。そのかわり、ドーンとシュート打たれたけど(笑)。でも、そうしたら思うわけですよ。“次はもうちょっと詰めよう”って。そうやって少しずつ時間をかけて、ちょうどいいところにいくんですよ」
答えではなく、ヒントをあげるのは、本田さんの指導の基本姿勢だそうです。子ども自身が相手の特徴を観察して、どうしたらボールを奪えるのかを考えることが大切。そのために指導者は、ヒントを与えながら導きます。
すると、相手のスピードだけでなく、利き足といった新たなディフェンスの視点も生まれてくるかもしれません。
「状況にもよるけど、相手に対してどっちかの方向を切る。たとえば相手が左利きの選手なら、左側を切ったほうが相手にとって嫌じゃないかなと思うでしょ。左足で右側へドリブルすると、自分の懐の深いところにボールを置けなくなるから。小学生でも高学年なら、それくらいの駆け引きにチャレンジしてもいいと思う」
相手を特徴やクセを見極めて、子ども自身がボールを奪う方法を考えなければ、ディフェンスの駆け引きは上達しません。
「ボールを奪う方法は、それぞれにスピードとか適した間合いとか、小学生ながらにあるわけだから、一概にこのポジションではこのぐらいの距離とか、そういうのは具体的には教えない。奪う練習をするのなら、1対1とか2対2とか3対3を繰り返しやることで、自分がどのタイミングでボールを奪えるのかを、感覚的に覚えていくのがいちばんいいと思います」
この記事をヒントに、ぜひ、ボールを奪う技術の向上にチャレンジしてみてください!
清水英斗(しみず・ひでと)//
フリーのサッカークリエイター。ドイツやオランダ、スペインなどでの取材活動豊富でライターのほか、ラジオパーソナリティー、サッカー指導、イベントプロデュース・運営も手がける。プレーヤー目線で試合を切り取ることを得意とし、著書は、『あなたのサッカー「観戦力」がグンと高まる本』『イタリアに学ぶ ストライカー練習メニュー100 』『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』『サッカー守備DF&GK練習メニュー100』『サイドアタッカー』 『セットプレー戦術120』など多数。
●twitterID:@kaizokuhide
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